体縛霊

@greyroad

第1話 再誕

 俺が目の前で倒れている。

 誰の目の前? 俺の目の前でだ。

 何故、自身の姿を俯瞰を出来ているかというと、俺の意識が別の人間に乗り移ったからだろう。

 憑依した相手は、俺の背中に刃物を突き刺していたようだ。

 試しに引き抜こうとしたがよほど深く刺したのか、全く抜けない。

 気が動転しているわけではないが、何があったのかよく思い出せない。

 いや、そもそも・・・・・・。

 「止まれ!」

 声のする方を見ると警察官が二人、拳銃をこちらに構えていた。

 どうやら、ここはどこかの治安の悪い街の路地裏のようだ。いきなり拳銃を抜いてくるなんて一般の警察官の対応では・・・・・・いや、この警察官達は今は俺ではなく、殺しの現行犯と会話しているつもりなのか。

「両手を挙げろ!」

 俺は素直に両手を挙げた。

 だが、考え直して右手を背に隠して、警察官に向けて走り出した。

 俺を殺したこの身体の持ち主に復讐を果たすためだ。

「と、止まれ!」

 警察官の一人が発砲した。

 弾丸が左肩に命中し、激痛が走る。思わず膝を付く。

 妙だな、最初の一発は空砲のはずだ。しかし、気にしている場合ではない。失血で体力を消耗すれば、致命傷を負う前に意識を失い、殺される前に逮捕されてしまう。

 なんとしてでもコイツだけは殺さなくては。

 俺は痛みを堪えて立ち上がり、警察官に突っ込む。

「止まれと言っているだろ!」

 警察官が引き金に指を掛けるのを見計らって、再び、今度は自分から膝を付く。

 すると、足を狙って撃ったであろう弾丸は胸を貫き、背中を食い破って床に転がった。



 よし・・・・・・これなら確実に死ねる・・・・・・もうやり残したことはない・・・・・・どんな人生だったか・・・・・・思い出せないが・・・・・・これでいいはずだ・・・・・・。



 こうして、俺を殺した者は死んだ。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る