魔王と始める異世界征服
@soratuji_ituki
第1話 プロローグ
「ねぇ、あなた。世界とは一体何なのかしらね?」
俺は、目の前の女を見た。
豪華な椅子に足を組んで座っている、腰ほどまである真っ赤な美しい髪をした女に目を向けた。
見るものを圧倒する美しさ。まるで作られたような美しさ。もはや人間ではないような、その美しさに俺はただ呆けていた。
物憂げな眼差しで、少しだるそうに椅子に身をあずけている。
「ねぇ、あなた。世界とは一体何なのかしらね?」
だが、不思議と緊張はしない。
彼女の問いに答える。分からなくても何か言わなければならない。
「それは、俺達が今存在しているこの場所のことだろう」
「そうね。でも少し考えてみて、もしかしたらあなたは夢を見ていてあなたが言ったその『世界』は、夢の中の『世界』かもしれないわ」
「そんなはずはない。なぜなら俺はこうして感じている。君の声がはっきりと、鮮明に聞き取れる」
「じゃあ耳が聞こえない人にとってはその判別の仕方はどうかしら。何も聞こえないわ」
「なら見ればいい。君のその赤髪を」
「もしかしたら、私の髪は青色かもしれないわ。私が自分の髪は青色です、といえば私の髪は青色になる。」
何だそれは。そんなことはない。どうみても赤だ。
「だけど、俺にとっては赤だ」
ふふ、とその人形のような美しい顔立ちに笑みがこぼれた。
「そういうことよ。人によって感じ方や捉え方が違うのは当たり前。もしかしたらあなたが普通だと思っていることは全く普通じゃないのかもしれない。他の人があなたにあわせて普通だといっているだけかもしれないわ」
そんなことを言ったら何も信じられないじゃないか。
「そんなことを言ったら何も信じられないじゃないか、って?」
......思ったことを当てないでほしい。
「そうね。それを言ったら何も信じられない。でも信じようとするわ。信じないとやっていられないもの。信じなければ、何もできない。」
詩うように、髪と同じ真っ赤で艶やかな唇から言葉が漏れでた。
俺はそれを勿体ないと思った。蓋をしないと。漏れでないようにしないと。
「でも、それは」
いつの間にか俺の目の前にその端正な顔が現れた。
「ただの逃避じゃないかしら。自分が真実だと思ってそれだけにひたむきに頑張る。他者の言うことなど気にしない......」
「でもね、そんな強い人間はいないわ。なにかしら他の人に言われた事を気にして、無意識の内に修正してしまう」
くるくる回りながら彼女は言った。
「つまり、自分とは自分じゃないの」
......いきなり何を言い出したのだろう。
「他人の評価で自分という価値が決められる。他人の見方で自分が変わる。他人の言動で自分の生き方か決まる。偉人の名言で自分の考え方が変わったっていう経験はある?」
......どうだろうか。あったかもしれない。
「それならあなたを今構成しているのは一体何なのかしら?」
......俺を構成しているのは、水分とたんぱく質と......
「......そういうことじゃないわ」
少し呆れた顔をして彼女は首をふった。
「あなたのその性格や、生活態度とかそういうものは何で構成されているのかしら?」
俺を構成するもの。それは俺が今まで出会ってきたものや人。
「でも、それはあなたが生み出した物ではないわ。他者が生み出したものをあなたが盗んで我が物顔でこれは俺だ、と言っているようなものよ」
......それはさすがに言い過ぎじゃないだろうか。自分で生み出したものも中にはあるだろうし。
「違うわ。あなたはいつしか自分を自分だけで構成したと考えている。でもね、それは全て他者から貰ったものなのよ。自分が生み出したと思っているのは他者の盗作。いわゆるパクりってやつね」
「自分はこれをしたいと思って、この行動をしている。本当にそうかしら?あなたは他者が言った、こうした方がいいよという助言を聞き入れ、それを行動に移しているのかもしれない。そうするともうその行動はあなたのものじゃないわ。その他者のパクりということにならないかしら」
......頭がこんがらがってきた。
でもそれは違うと思う。
パクりではなく、良いところをもらって自分なりに改善して。たしかにそれから着想は得たのかもしれないが最終的な結果は自分次第だ。
いくら他人に言われようが結果は変わらない。なぜなら自分の実力でそれを成し遂げたからだ。
「ふふふ。楽しいわね。私こういう話大好きよ。こうやって意味も無いことをただ考える素晴らしく高尚で無駄な時間」
......確かにそういうことを考える時はある。
気持ちが落ち込んだ日などにはとりとめもないことを考えたりして...
でも好きなことを無駄と言い切るなんてなんだかすごい人だ。
「あなたは、これから大変よ。私が断言してあげるわ。ただ意味もなく自堕落に日々を過ごしている、だけど何かをしなければいけないんじゃないかと焦りも生じている。しかし何をすればいいか分からない」
......そんな思春期特有の悩み、みたいなこと言わないでほしい。。当たってるけど。
「だから私があたえてあげるわ。あなたの存在価値を作ってあげる」
それはいい話なのかもしれない。自分の存在価値を作ってくれるだなんて、わざわざ自分で存在する意義を探すことをしなくていい。なんて楽なのだろう。
でも、そうして作られた『俺』は、本当に『俺』なのか?
自分で考えもせずに他人にあたえられた。
産まれたての雛のように口をあけ、親鳥からの餌を待つだけの存在になってしまうのではないか。
突如漠然とした恐怖が俺を襲った。それはダメだ。なにがダメなのかなんてわからない。ただそれだけはダメだ。
俺は、俺の意思で、俺の覚悟で生きていく。
人にあたえられたものなんて真っ平だ。俺は俺の道を行く。
「ふふ、あなた面白いわね。今までにそういう考え方をする人はなかなかいなかったわ。私の言葉に流されて、価値を決められる。それを受け入れる人達が大半だったのよ」
確かにこの美しさに圧倒され、正常な判断力は失っていたかもしれない。だが今はとても頭がはっきりしている。
「合格よ。私の名前はボイニクス。これからもよろしくね。」
にこりと微笑まれた俺は、動けなくなった。美しさのあまり倒れそうになった。
「合格よ。私の名前はボイニクス。これからもよろしくね。」
にこりと微笑まれた俺は、動けなくなった。美しさのあまり倒れそうになった。
自然に頭を下げたくなった。この人についていきたい、という思いが募っていった。
だが、決めたばかりだ。俺は俺の道を行く。彼女には悪いが、もう決めたのだ。
「あら、残念ね。でもとても気に入ったわ、その強靭な精神力」
誉めて頂いてめちゃ嬉しい。
「あなたは今後様々な出会いや葛藤があるでしょう。それを自分を信じて、突き進みなさい。あなたには私がついている。迷ったらおいでなさい。我が名はボイニクス。世界の観察者。あなたの旅に加護あらんことを」
そういって彼女、ボイニクスは俺にペンダントを掛けた。
銀の鎖に、燃えるように赤い宝石がついている。
「ふふ、では送るわね。また会えたら、いいえ会えるはずよ。楽しみにしているわ」
そして俺はまばゆい光に包まれた。
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