第142話 忘れてた事
陛下へのプレゼンを終え、俺達は部屋へと戻ってきていた。女王陛下は観光協会会長・・・実際にそうかどうかは知らんけど、便宜上そう呼ぶことにしたダリオさんと俺達を引き合わせるために、すぐに町の方へと帰っていった。
まあ、そういう話ができるくらいの関係だし、もしかしたらダリオって人とは普段から交流があるのかもしれないな。と言うか、そうあって欲しいと願わずにはいられない。
「まーた小難しい顔しちゃって~」
俺が部屋の中で考え事をしていると、ユリアーナが俺に声をかけてきた。別に小難しい顔をしているつもりは無いんだけどな。
「女王陛下との話の事を考えていたんですよ」
「さっきの?」
「はい」
「えっと、ダリオさんだっけ?」
そう言いながら、ユリアーナは俺の隣に腰掛ける。
「そうです。ダリオって人が陛下の知り合いなら話が早くて助かるんですが」
「ああ、そう言う事。でも陛下の話し方からすると、そんな感じじゃなかった?」
それは全く持ってユリアーナの言うとおりだった。あの話し方だと単に知っているというより、交流もあると考えられる。けど、だからと言って友好的だとは限らない。そんな時の事も考えておかないと・・・。
「まあ、シンちゃんが後ろ向きに考え事をするのは一向に構わないんだけどさ、そればかりに集中して視野が狭くなるのはどうかと思うよ」
「ん?何の話です?」
今の会話の中で、俺の視野が狭いような事なんかあったか?
「ブリジッタとソフィーの事。早く避難させたほうが良いんじゃないの?」
「・・・あ!」
やべー、すっかり忘れてた・・・。
◆◇◆◇◆
「えーそういうわけで、ブリジッタさんとソフィーには、サランドラ商会への協力要請をしてもらうために、一時アルターラへ向かってもらおうと思います」
「そういうわけって何よそういうわけって」
ユリアーナからのジト目がつらい!
「だ、大丈夫です!この国家の存亡を掛けた一大イベント、絶対にやりとげてみせます!」
自分の前で拳を握りしめ、そう熱く宣言するブリジッタ。いや、あんたはもうちょっと落ち着け。
「ブリジッタさん、今回はそういう話を私がサランドラとしたがっているという事をお伝えして頂くことが一番の目標なので、そう硬くならないでください」
「は、はい」
事の詳細が何も決まってない以上、詳しい内容をサランドラに話せる機会には至っていない。
なので、まずは俺がこう考えているという事をフィオリーナさんとフィリッポさんに知ってもらおうと言う事、これがまずはの目標だ。
とは言え、交渉としては弱すぎるので、サランドラ側のメリットも同時に説明してもらう。
まずは王族とのコネクションだ。バルサナ王国には、サランドラ商会の支部は無い。つまり、政府や王族との繋がりもほぼない状態だ。そこで今回オルガ・ヴィオラーの女王の依頼を受けることにより、王族とのつながりを得る事が出来る。
ただしこれは諸刃の剣だ。サランドラが何ら権力を持たない王族とのコネをどう見るか、これは現時点ではどうにも推測する事が出来ない。なので現実的なもう一つのメリットの方を強調したいと思う。
俺がブリジッタに力を入れて説明したのは、地元の商店や観光業者とのつながりができるという点だ。今現在バルサナ国内では、国内の商会がメインで取引を行っているはずだが、そこに割って入るための下地を用意できるという事だ。
今回の取引は、まず、サランドラやバリー商会が、今後ホテルとなる避暑地の紹介をフォレスタやリバーランドで行う。そして各商会の案内の元にホテルに客が宿泊する。そのお礼として、部屋のオーナーがサランドラやバリー商会に紹介手数料を支払う仕組みだ。
その手数料を決めるやり取りは、それぞれのオーナーと商会との取引によって決まる。その時にコネクションが出来るかどうかは各商会次第だろうが、繋がりができる大きなきっかけとはなるだろう。
「えっと、ブリジッタさん達はアリサさんが送ってくださるんでしたよね」
ブリジッタの返事を聞いた後、俺はアリサにそう確認した。だって乗合馬車とかで帰ったら、途中ハイランドの奴らに襲われる可能性も無いとは限らないからな。なので前もってどう送り出すかは話し合って決めたたんだ。
「ええ。私だけじゃなくてクラウディアや他の者も同行いたしますわ」
クラウディアってのは、アリサの部下だ。以前すっごい遠方から正確無比な射撃を決めてくれた事がある。彼女らが護衛してくれるなら安心だろう。
「あ、あの!」
そんなやり取りをしていると、ソフィーが意を決したような顔つきで俺に話しかけてきた。
「えっと、何ですかソフィー」
「あのっ、私、ここに残ったらダメですか!?」
「え?」
え?まじですか・・・。まさかソフィーからそんな発言が飛び出すとは思ってもいなかった。
いやでもそっか・・・。奴隷市場で俺たちの仲間になってからずっと一緒だったからな。一時的とはいえ、離れ離れになる事に不安を覚えても仕方ないか。でも、ここで一緒にいると本当に危険な目に合う可能性がある。
そりゃ今までだってそういう場面はあったけど、今回の相手は国だ。もちろんこちらには最終兵器「女王陛下」がいらっしゃるわけだが、やつらは陛下にさえも手を出してくるような連中だ。正直ソフィーやブリジッタを守り切れる自信は無い。
まあ、それを言うと、俺も二人とそんな変わらんのだが・・・。それでもブリジッタやソフィーよりは自衛能力はあるだろう。んー、どうやってソフィーを納得させれるだろうか・・・。
「ソフィー」
俺がそんな事を延々と頭の中で考えていると、ユリアーナがソフィーに声をかけていた。
「シンちゃんはあなたのお兄ちゃんみたいなものなんだから。だったらまたあなたの元に戻ってくるに決まってるじゃない。大丈夫!ちゃんと迎えに行ってあげるから」
おい、ソフィーの兄ちゃんは行方不明なんだが。大丈夫なのか?その説得で・・・。と、心配してた俺だが、その不安は杞憂に終わったようだ。
「わかりました。絶対迎えに来てくださいね!待ってますから!」
少し考えた後、ソフィーは俺にそう言ってきたからだ。
「ええ、もちろんですよ。それまで良い子にしていてくださいね」
俺がそう言うと、ソフィーは「はい!」と力強く頷いていた。ちょっと涙目にはなっていたが、あの調子なら大丈夫だろう。
ユリアーナに抱きしめられて苦しそうにしているソフィーを見ながら俺はそう思っていた。
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