第143話 作戦準備

「あ、そうだ」


 ソフィーをこれでもかと言わんばかりに抱きしめていたユリアーナは、突然ソフィーから手を放し、アリサに向かって話しかけていた。


「ねえアリサ、実はちょっとお願いがあるんだけど」


「なんですの?」


 そう言って、ユリアーナはアリサを連れて部屋の隅っこで内緒話を始める。怪しい。


「あーなるほど、それは良いかもしれませんわね」


「でしょー?そういうわけであの子に伝えといてくれる?」


「構いませんけど、彼女が素直に応じるか、そこが問題ですわね」


「大丈夫!チャンスと思ったら絶対乗るから」


 等と、二人で何やらひそひそ話を行っている。


「あの、いったい何のお話をされているので?」


 なんかすげえ気になるワードが色々と出てきたので、とりあえず聞いてみた。彼女って一体誰だ?


「内緒ですわ」


「ひみつー」


 まあ、教えてくれるとはこれっぽっちも思わなかったけどな!


 とりあえずユリアーナだけだと不安で仕方ないが、アリサも聞いていて「良い」と判断したのなら大丈夫だろう。そう思って俺はこれ以上深く聞かない事にした。どうせ聞いても絶対教えてくれないだろうし。


「じゃあいつ出発しますか?できれば早いほうが良いと思うのですが」


「今日の夕方にでも出発しましょう」


「え?今日?ホントに?」


「早いほうが良いと言ったのはあなたでしょうに」


「そりゃそうですが」


 アリサから予想外の言葉に思わず俺は聞き返してしまった。早いほうが良いとは言ったけど、今日の夕方かよ!あと2時間くらいしかねーぞ。


「どうせ準備するものなんてありませんし、だったらちゃっちゃと用意して出発しますわよ」


「まじすか・・・」


 ふへー。さすが大手商会のトップを張るだけの事はあるな。行動が早い。俺だったら今日はゆっくり休んで明日にとか言ってる自信がある。


「じゃあ、とりあえず今回の作戦の要点をまとめますので、馬車の中ででも目を通しておいて下さい」


「了解ですわ」


「わ、わかりましたっ!」


 俺が慌ててそう言うとアリサとブリジッタから返事が返ってくる。こりゃ急いでまとめないと。


「それぞれの商会で独自に交渉したい事があったら、それは自由に行ってくださって結構ですので」


「基本さえ遵守すれば後は自由にと言う事ですの?」


「はい」


 例えば部屋のオーナーと相談して宿泊に豪華ディナーをセットするとか、そういうオプションを用意するのも自由にやってもらったほうが面白いだろう。ある程度競争があったほうが盛り上がるってもんだ。あー、これもちゃんと書いとかなきゃな。


「面白そうですわね。わかりましたわ」


 そう言うとアリサは、早速自分の荷物をまとめにかかっていた。そして俺も今回のプロジェクトの要点を急いでまとめて二人に手渡した。


 そしてアリサの宣言通り、2時間後にはきっちり準備を整えて、クラウディアさん達と共に馬車に乗ってベルストロの街を出立していった。ソフィーが涙ぐんでいたが、今生の別れじゃあるまいしすぐにまた会えるさ。


 そして残った俺たちは、女王陛下からの連絡を待ちながら、このプロジェクトをさらに良くするための会議を重ねていった。


◆◇◆◇


「お待たせしましたコレナガさん。ダリオとの交渉の約束を取り付ける事が出来ました」


 アリサたちが出立してから数日後、女王陛下が俺たちが泊まっている宿に来られ、ダリオとのアポが取り付けられた事を報告してくれた。数日掛かったって事は、交渉は難航したって事なのかな。この人なら決まった瞬間報告に来そうだもんな。


 ん~、陛下がそこまでして話をしてほしいダリオって、いったいどんな奴なんだ?しかもこれだけ時間がかかったって事は、相手は乗り気じゃないって事だろ?なんかすげえ気が重くなってきた。


「ありがとうございます。それでいつ頃伺えばよろしいでしょうか?」


「交渉の日は3日後の午後、場所はダリオが経営する「屈強な冒険者の集い亭」という宿となっています」


 屈強な冒険者の集い亭・・・。なんか強面マッチョの冒険者が集まってそうな名前だな・・・。


「その宿はどの辺りにあるのですか?すみません、この辺りの地理に疎いものですから」


「当日こちらの者を迎えに行かせますので、ご心配なさらずとも大丈夫ですよ」


「ありがとうございます」


 俺は陛下に謝意を述べた。その時ふと、陛下が乗ってきた馬車に目が留まった。以前来た時も思ったんだけど、陛下が乗る馬にしては、どうもこう貧相と言うか、俺たちが乗る馬車とあまり変わらりないように見える。と言うか、軍の馬車なんだけどな。


 俺は以前、鉱山からリバーランドへ向かう道中、テレジアの馬車に同行させてもらったことがある。テレジアは大公という立場だったが、あの馬車は本当に豪華だった。あれと比べると本当に同じ王族か?と疑問に思えるほどだ。


 やはり経費削減と民衆への影響を考えての事なんだろうか?たぶん少しでも良い馬車に乗るところを見られでもしたら、以前見たような陛下を糾弾するようなデモなんかが行われるんだろう。


 なんかおじさん、ちょっと胸が痛くなってきちゃったよ・・・。


「コレナガさん、どうかなさいましたか?」


「い、いえ!なんでもありません」


 まさか陛下のお立場を考えていたら、胸が苦しくなりましたなんてとても言えねえ。

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