第123話 再会

 俺はレギアスさんから、俺に死んでもらうと言われて大混乱に陥っていた。


「え!?え、ちょっとえっと、いや、なんで!?」


 俺の戸惑いの声にもレギアスさんは涼しい顔をしている。一体この人どうしちゃったわけ?買収でもされたのか?


「コレナガさん、あなたのお友達はあまり驚いていないようですよ」


 そう言われて俺はユリアーナの方を見た。そういえば、俺があの二人を確認しに行くってときは腕を握ってまで止めたのに、レギアスさんが行くって言った時は全く止めなかった。それにユリアーナは俺を守る様に前に出ていた・・・。


「え?どういう事ですか?」


 俺はユリアーナにそう尋ねた。彼女は分かってたって事なの?


「そりゃあだって、最初から疑ってたもの」


 俺が難しい顔をしていたからか、ユリアーナがそう説明してきた。


「最初から?最初からって何です?」


 最初からってなんだ?一体どこからがスタートなんだ?


「アルターラの冒険者ギルドで、私達が探している二人組が「バルサナに行くと言っていましたよ」って、あのギルド職員が言った時かな」


 そんな前かよ!えー!


「普通に考えてギルドの職員がそんな情報話すわけないもの。怪しいとは思うよね」


「なるほど。しかし私が怪しまれたのは何故でしょう?私は尻尾を出したつもりは無いのですが」


 ユリアーナの言葉にレギアスがそう問いかけて来た。そういえばなんでレギアスが怪しいと思ったんだろう?怪しいところなんか全くないと思うんだが。


「ホーキンスよ」


「ホーキンス、ですか?」


 レギアスはイマイチわからないという顔をしている。


「シンちゃんによれば、ホーキンスは1か月前に二人組と出会ったって事だったよね」


「あ、はい。そう言ってました」


 そうそう、すげえ美人の二人組だったから一直線に彼女たちのとこへ向かったと言っていた。その時はホーキンス結構軽いなって思ったんだ。


「ホーキンスがあの宿で働き始めたのって、ここ10日くらいなのよね」


「・・・え?」


 え?はあ?いや待て、それだと計算が全く合わないじゃないか!ホーキンスが嘘ついてたって事?何の為に?


「ホーキンスが来る前の前任者が突然行方不明になったのよ」


「行方不明ですか?」


「そしてそのタイミングでホーキンスが宿で働き始めた・・・」


 おい。そんなタイミングのいいことってあるか?という事は、ホーキンスが前任者をどうにかして辞めさせたって事になるが・・・。一体何のために?


「シンちゃん、10日間前くらいって何してた?」


「10日前ですか?」


 俺は大混乱している頭の中を一旦落ち着かせ、1週間前に何をしていたかを懸命に考えてみた。確か、牧場近くのクエストが終わって、それからギルドで情報収集してたか、いやそれとももっと後だっけ?まあ、だいたいそれくらいだろう。なので俺はユリアーナにそう伝えた。


「そう、ギルドで情報収集した直後くらいだと思うよ。そしてもうすぐ私達がバルサナに行く、という情報をホーキンスとレギアスに流す。そして馬車の停留所に一番近い宿にホーキンスが潜り込んだ・・・」


「いや、凄いですね!僅かの情報から、そこまで推測していたのですか?さすがはトップランクの冒険者だ」


 レギアスは真面目に驚いたようだ。そして拍手でユリアーナを褒めたたえている。


「え、ちょっと待ってください!、ホーキンスもグルだったんですか!?」


 俺は心底驚いていた、あのきさくで頼れる兄貴的な雰囲気を醸し出していたホーキンスが・・・。


「その通りですよ。しかしとんだドジをしでかしてくれたものです」


 つまりあれか?ギルド職員もこいつらの仲間で、そいつがレギアスに連絡。急遽ホーキンスを停留所に一番近い宿で働かせ、俺達が来るのをずっと見張っていたと。


「という事は、宿を襲ってきた奴らもあなた達の仕業って事よね」


「その通りです。乗合馬車が出られないようにし、私達の馬車でベルストロに行ってもらう為にね」


「でもさ、別に乗合馬車でも良かったんじゃないの?こうやって待ち伏せていれば良かったんだし」


 それは確かにそうだ。結局ベルストロに行くんだから、何も、夜中に俺達を襲わせるような事までしなくても良かったような・・・。


「それは・・・」


 レギアスは、ローブの二人組をちらっと見てから続きを話し始めた。


「このお二人と作戦のすり合わせをするためですよ。より確実にコレナガさんを殺せるようにね」


 レギアスはすました顔でそんな事を言ってきた。以前と変わらぬ表情でそんな事をいうレギアスに、俺は恐怖を感じていた。


 いや、そもそもこの二人は一体何なんだ?もしかして、牧場の魔獣を倒したのってこの二人なのか?ティルデ達じゃなくて?それだとこの場所に、おれたちはまんまと罠にはまりに来たようなもんだぞ。


「さて、そろそろ皆さんには死んでもらいましょうか」


 くっそー!向こうは戦闘慣れしてそうなのが6人。こっちは実質ユリアーナとエレオノーレさんの二人だ。しかも戦闘出来ないのが3人もいる!・・・あれ?そういえばエレオノーレさんどこ行ったんだ?さっきから全然姿が見えない・・・。


 俺がそんな事を考えていた時だった。突然、レギアスとローブの二人をの除く3人が目の前で倒れた!よく見ると、彼らの額には矢が突き刺さっていた。たぶん即死だろう。


 レギアスはローブ姿の奴に守られる格好で難を逃れたようだ。


「こ、これは一体どういうことだ!」


 ここまでずっと余裕の姿勢を見せていたレギアスが、初めて動揺している。そりゃそうだろう。いきなり3人も仲間を失ってしまったんだから。と言うか、俺も動揺しているんだが。


「一体何をしたんだ!」


「タイミングばっちりでしたね。あの3人に矢が届かなかったのは残念でしたけど」


 俺が過去最大に混乱していると、今度はエレオノーレさんが戻って来た。


「もう、これ以上ないくらいドンピシャ!さすがアリサだね!」


 はあ?アリサって言ったか!?アリサって、ミュリエルの事か?あの転生者の!?えー!まじでどうなってるんだ!?


「あっはっは!用意周到に計画してたつもりだったけど、それはそちらも同じだったみたいだね!」


 そう言って、ローブの片割れの方がばさっとローブから顔を出した。


「初めましてだね!私はノーラ、あなたを殺すために派遣されたアサシンだよ」


 そしてノーラと名乗るその女は俺の方を向きこう言った。真っ赤な髪のローフィル族だ。くそっ、牧場で見たってのはこいつの事だったのか!そしてその女は俺の方を見ながらこう言った。


「よろしく、逃亡中の不適格者君」


 そう言われた瞬間、俺は背筋が凍ってしまうような感覚に襲われてしまった。ハイランドから逃げ出した事や、リバーランドでの出来事が頭を駆け巡る。まさかこんなところまでハイランドの奴が来てるのか・・・。


 つまりこいつは、幻想神の手先って事だ。という事はもう一人も・・・。


「うわー、思った以上にショックだったみたいだねー。でもね?まだまだショックな事は続くよー」


 何だよこれ以上ショックな事って・・・。そう考えながら、俺はノーラの方を見た。彼女は俺が自分を見ているのを確認した後、もう一人の方のローブをそっと下ろした。


 その瞬間、俺は自分の心臓を鷲掴みにされたような気分に陥ってしまった。いや、その可能性がある事は知っていた。しかしいざ目の当たりにすると、何も考えられなくなってしまった。


「ユ、ユーディー・・・」


 ハイランド時代に知り合い、死線を潜り抜けた仲間だった少女が目の前にいた。


「お久しぶりですコレナガさん」

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