第124話 償い
5年ぶりに俺の前に姿を現したユーディーは、以前と全く変わっていないように見えた。エルフの成長は人間のそれと違いゆっくりだと聞いた事があるけど、確かにその通りなんだろう。
しかし問題はそこじゃない。目の前にユーディーが、俺を殺そうとしている奴と一緒に現れたという事は、やはり彼女は幻想神の手先って事なのか?
「これはどういう事ですか!?」
俺は聞かずにはいられなかったよ。彼女が適格者である可能性はわかってはいるが、そんな理屈なんかで納得できるか!
「コレナガさんがユリアーナさん達と共にいるのなら、もうすでに私が何者かは分かっているのではないですか?」
「適格者ですか!?」
「その通りです」
なんて事だ・・・。もちろんティルデからその事は聞いていた。けど、本人の口から直接聞いても信じられない自分が居た。
「あなたは、幻想神が何をしようとしているのか知っているのか!?」
俺は賭けのつもりでユーディーにそう聞いた。もし彼女が幻想神のやろうとしている事を理解していないのなら、幻想神の残虐さを認識できていないのならまだ間に合う。
しかしその賭けは完全に失敗に終わった。
「もちろんです。この世界で私達が犯してきた罪、それを清算する事があの方の悲願なのです」
彼女は表情を変えずに淡々と話してくる。なんだよ犯した罪って・・・。そんな大昔の事なんか俺が知るか!
「私達が犯してきた罪って・・・。俺達は何もしてないじゃないか!勝手に殺され勝手に連れてこられただけだ!・・・そうだろう?湊由衣!」
俺がその名前で呼ぶと、一瞬だけ彼女の体が震えた気がした。
「何故私の事を知っているんですか?あなたは一体誰なんです?」
これまでずっと冷静に話をしてきたユーディーから、少しだけ動揺している様子が伺えた。そこは幻想神から聞いてなかったのか。
「私の名前はコレナガシン、あなたと同じ日本人ですよ。以前日本のレストランの裏で、澤田さんに殴られた事がありました。覚えていますか?」
俺がそう言うと、切れ長の目がめいいっぱい開かれて俺を見つめている。やはり俺の存在については聞かされていなかったようだ。まあ、言ったところで彼女と俺の日本での接点なんて、合って無いようなもんだ。
「あの時は大変失礼しました。そうですか、あの時のサラリーマンの男性、それがコレナガさんだったんですね」
「そう、あの時幻想神の手によって一緒に殺されてしまったコレナガですよ」
俺は殺されたって所を強調して話している。しかし彼女はもう、全く動揺するような気配は見せない。
「私の名前は澤田から?」
彼女の口から澤田の名前が出て来た。という事は、澤田が俺達のリーダーだという事は認識しているのか。その上で敵対していると・・・。
「そうです。あなたと僕が適格者候補だった事はティルデから聞きました。なので、恐らくはあなたが湊由衣だろう・・・と澤田さんは認識しています」
「・・・そうですか」
そうだ。俺と澤田、そして湊由衣は、あの時幻想神の手によって日本で殺されてしまった。看板の下敷きにされて。
「君と僕たちは幻想神によって殺されたんだ。なのに何故幻想神の下で動いているんだ?」
もしかしてその事実を知らされていないのか?俺と澤田と湊由衣が幻想神の手によって殺された事を。
「この世界で、私達の祖先が犯してきた過ち、それを正す為です」
しかし彼女からはまったく同じ答えが返って来た。動揺した態度は微塵も見られなかった。つまりそれを知った上で、幻想神の下で動いているという事だ。
「なんだよ過ちって!あんたも俺も何もしてないじゃないか!」
「私達の祖先が行ってきたことは、私達が
何を言ってるんだ彼女は?俺達より先にこの世界に来た地球人は、生きるために必死になっていただけだ。それが何故悪い?
「そもそもこの世界に地球人を連れて来たのは幻想神だ!それはどうなるんだ!?」
そう、地球人をこの世界に転生させたのは幻想神だ。そして都合が悪くなったから地球人の血を根絶やしにすると決めたのも幻想神だ。遠い昔にやって来た地球人が何かを企んだわけじゃない。
俺がそう言うと、それ以上彼女は何も言わなくなってしまった。その代わりにノーラが話し始めた。
「まあまあそう熱くならないでよ。今回は大人しく引いとくからさ」
「な、何を馬鹿な!あいつらを倒すのがお前たちの役目だろう!」
ノーラの言葉に激高したのがレギアスだ。おめおめ逃げ帰るなど認められるか!と怒鳴っている。
「別に良いけど、レギアスの事は守り切れないと思うよ?」
「なっ・・・!」
「向こうは高レベル魔法使い、そして元軍の剣士、そして元適格者。あんたが戦えって言うなら戦うけど、あんたも戦うんだよ?」
この言葉から察するに、レギアスに戦闘能力はほぼ無いんだろう。そして一緒に連れていた3人はすでにアリサによって倒されている。アリサがどこに潜伏しているかも分からない状況では、守りながら戦うのは難しいんだろうな。
「いやあ、のこのここっちの罠に引っかかって来たと思ったら、実はこっちが罠にはめられてたなんてねー」
ノーラは呑気にそんな事を言っている。恐らくどんな状況になっても逃げ切れる自信があるんだろう。
「ちっ、撤退する!」
ノーラが冗談を言っているわけでは無いと思ったのか、レギアスが撤退を宣言した。
「じゃ、そういうわけで」
そう言って、ノーラは俺の方へ振り向く。
「じゃあねコレナガシン!また会おうね!あ、それと馬車1台貰って行くから」
そう言って、後方の馬車の方へと歩いて行った。
「くそっ!覚えていろ!」
レギアスは、時代劇かなんかに出てくる3流悪役のようなセリフを残して同じように馬車へと走って行った。
そしてユーディーも馬車の方へと静かに歩いていこうとしていた。いいのか?このまま彼女を行かせてしまって・・・。
「湊さん!」
そう思ったら、俺はそんな彼女に声を掛けていた。
「澤田さんに、彼に何か伝言はありますか?」
こんな時に俺が何を言ってるんだと自分でも思ったが、咄嗟に出て来たのがその言葉だったんだから仕方ない。そしてそんな事を言う俺に彼女は驚いた顔を見せた。
「ごめんなさい、そうお伝えください」
そう言って、今度は全く振り返らずに馬車へと向かった。なんでそんな泣きそうな顔で言うんだよ・・・。ごめんなさいって・・・。
ユーディーたちが乗った馬車を見送りながら、俺の方も泣きそうになりながらそんな事を思ってしまった。
「ふぅ、なんとかなりましたわね」
俺がユーディー達が去って行った方を見ながらぼーっとしていると、森の奥から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「アリサさん・・・」
現れたのはアリサ、この世界での名前はミュリエルだったか?彼女も地球からの転生者だ。
「コレナガシン、あなたまたひどい顔になってますわよ・・・」
そういって自分のハンカチを差し出してきた。そういえば、以前もこんなことあったな。いやいやそれよりも!
「えっと、なんでアリサさんがこんな場所に?」
俺はアリサから渡されたハンカチで目尻をぬぐいながらそう聞いた。確かこの人、北リップシュタートに居たはずだよな?
「1週間ほど前に、ユリアーナから連絡をもらいましたの。ちょっとピンチだから助けて―って」
「ええ!いや、連絡って・・・一体どうやって!?」
だって、アルターラはマザープレートのネットワークは繋がってないはずだぞ?馬で連絡と言っても、アルターラからだと往復でも間に合わないじゃん。
「1週間前にクラウディアにお願いしたのよ。アリサを呼んできてって」
「クラウディアって、アリサさんの部下のクラディアさん?」
昔、アリサが暴漢に襲われた時に、遠くからクロスボウで助けてくれた人だ。凄い弓の腕だったのを覚えてるよ。
ユリアーナによれば、クラウディアは連絡係としてアルターラに常駐していたらしい。で、これも初耳だが、グリーンヒルはギリギリ魔力ネットワークが繋がるんだと。なので、クラウディアにグリーンヒルまで走ってもらい、そこでアリサに連絡。グリーンヒルで落ち合い、そのまま宿場町へ直行だそうだ。
「あ!もしかして、ユリアーナだけ取り調べ長いなーと思ってたら、アリサさん達と連絡を取ってたとか?」
「そうだよー」
「それならそうと先に言ってくださいよ!二人組の情報が怪しいと思ってた事とか、アリサさん達の事とか!」
なんでおれだけ蚊帳の外なんだよ!
「え?だってシンちゃんに話したら顔に出そうだと思って。そしたらこっちの作戦全部ぱーになっちゃうじゃん」
「うっ・・・」
それは否定できん・・・。
「出来ればあいつら捕らえて色々白状させたかったんだけどねー。白の導師が出て来たから捕まえるのは諦めたの」
白の導師って、確かユーディーの二つ名みたいのだっけ?彼女そんなに強くなってるのか?あれからまだ数年しかたってないんだぞ・・・。
「まあとにかく、こんな森の中で立ち話もなんですから・・・」
「どうしたんです?」
エレオノーレさんがそこまで言ってから、森の出口の方へ素早く向き直っていた。
「馬が・・・かなりの数です!」
エレオノーレさんがそう言ってからしばらくすると、馬に乗った兵士が10人ほど森の中へと走って来た。
そして俺達の前で止まって、レギアスの手下たちの死体を確認している。
あれ?これやばくね?どう考えても俺達が殺った風にしか見えなくね?
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