第116話 二人の行方

 さて、俺達のレベルアップと言う儀式も無事終了。本来なら、ギルドに来たついでに手軽な戦闘系クエストを受注してから帰宅するところだ。


 本来ならな。


 しかし、今日ギルドにやって来た一番の目的はレベルアップでは無い。あんなに楽しみにしておいて違うのかよ!って声が聞こえてきそうだが、目的は情報収集だ。俺達以前にグリーンボアを倒したという、ティルデとアリーナらしき冒険者達の。


 冒険者ギルドは、その名の通り、冒険者たちがクエストを探しに来たり、様々な情報を求めてやってきたりする場所だ。


 なので、情報を集めるにはうってつけの場所だ。その分こっちも情報提供が必要だが、グリーンボアと闘った時の状況を話せばOKだろうという、ユリアーナ先生のご判断を信じることにする。


 そういうわけで、レベルアップを済ませた俺達は、本来の目的である「ティルデとアリーナらしき人物」の情報収集に明け暮れていた。


 しかし、そう簡単に情報が手に入るのなら、最初から苦労などしないわけで・・・。正直、俺達が欲しい!と思えるほどの情報にはたどり着けてない無いのが実情だ。


 まあでも、ある程度苦労する事は予想はしていた。何故ならあの二人が、リバーランドから逃げるために本気で姿をくらまそうとするなら、俺達がそれを見付けるのは相当困難だろうからだ。


 ユリアーナのレベルよりもさらに高い100オーバーのティルデ。今ならその凄さが少しはわかるつもりだ。


 そりゃあ、ティルデと俺がハイランドから逃げようとした際、マルセルの奴が4人も5人も仲間を連れてやってくるはずだ。それくらい強いって事なんだろう。


 そんな人だから、相当用心もしているはず。


「良い情報あった・・・わけが無いよねー」


 人取聞き込みが終わったらしいユリアーナが、俺の顔を見るなりそう言った。という事は、ユリアーナの方も特に有益な情報は得られなかったって事か。エレオノーレさんも音沙汰が無いって事はそういう事だと思う。


「しかし、思ったより難航しそうですね」


 一筋縄ではいかないと思ってたよ。思ってたけど、こんなにも情報が無いとは思わなかった。


「だねー。ホント嫌になって来るよー」


 ユリアーナにしては、珍しく本気で弱音を吐いているように見えた。


 そして、受付嬢と話しをしているエレオノーレさんを見付けると、自分もそちらの方へ行ってしまった。俺も気分転換にそっちに行ってみるか。


 冒険者が少なくなってきたギルドの待合室の受付で、受付嬢と談笑していたエレオノーレさんに、俺とユリアーナが加わって4人での世間話が始まってしまった。


 どうも受付嬢は、ここでのキャリアが長い人らしく、エレオノーレさんもユリアーナも、全くの初見というわけではなさそうだった。


「それにしても、私達の前にグリーンボアを倒したって言う二人組の冒険者、凄いですね」


 エレオノーレさんの意見には俺も完全に同意する。オーク退治に行って出て来たのがグリーンボアって、びっくりってレベルじゃないだろうからな。オークはよく知らんが。


「だよねー。何の準備もしてなかったのにそれだもんね」


「あら?ユリアーナさん達も、それは同じでは無いですか?」


「全然一緒じゃないよー。私達は人数が居たもん。魔法使い二人に、剣士二人とアーチャー」


 だなー人数だけは揃ってたな。・・・ん?


「あの・・・」


「何、シンちゃん?」


「アーチャーってのは僕の事ですかね?」


「他に誰がいるのよ?」


「いえ、何でもありません・・・」


 ユリアーナは心底不思議な目で俺を見ていた。


 俺、魔法剣士なんですけど・・・。


「そういえば、皆さんずっとその冒険者の事を探してましたよね?」


「そうなんだよー。ちょっと聞きたい事があってさー。けど全然手がかりさえもらえなかったわー」


「あーでも、それはそうですよ。あの方々はアルターラの方達ではありませんからね」


「え?そうなの?」


「はい、なんでも次はバルサナ王国へ向かうとか仰っていましたよ」


 ・・・え?今バルサナとか言ったか?え、まじで?俺達は一瞬顔を見合わせてしまったよ。


「あ、そうなんだー。でもそれ私達に言っちゃってよかったの?」


「ご本人達が、普通に周りに聞こえるような声でそう仰っていましたし大丈夫なのでは?」


「そっかそっか、ありがとねー」


 そして俺達はそそくさと会話を切り上げ、自宅への帰路についた。


「ちょっと、どうなってるんですか!あんな情報全く入ってきませんでしたよ!」


「知らないよー!私だって誰からもそんな話されなかったもん!」


 俺の文句になんで私に言うのよ!と怒っているユリアーナさん。


 しかし本当に誰からもそんな情報は入手できなかったんだ。なのに、結構普通に話していたと言ってたなー。


「まあ、アルターラは冒険者人口も多いですからね。あの日二人組を見た冒険者が、今日ギルドに居たとは限らないでしょう」


 そう話すエレオノーレさんの言葉には少し説得力があった。ほとんどの冒険者からの情報には「らしい」とか「そうみたい」等の言葉が付いてきたからだ。


 中には本人達を見た奴も居たんだけど、これまでに俺達が仕入れた情報と大差ない話しばかりだったんだ。


「と言うか、最初からギルドに聞いておけばよかったような気がするんですが」


「いやー、ギルドは教えてくれなかったと思うよー」


 俺の何気ない一言にユリアーナが反応した。


「何故です?」


「ライバル冒険者が、相手を潰そうとして個人情報を知ろうとするようなケースだってあるでしょ」


「え?そんな事あるんですか?」


「地味な嫌がらせをしたりとか」


「まじですか・・・」


 ファンタジー世界にも色々あるもんだな―。


「まあだから、最初からギルドに聞かなかったのはある意味良かったんだよ。話しの流れで自然に情報ゲットできたし」


 そんなもんか。それにしても、バルサナ王国か・・・。


「バルサナってどんな国なんですか?」


 俺は二人にバルサナについて聞いてみた。考えてみりゃ、他所の国の事を調べる機会なんてほとんど無かった俺は、この世界の事について全くわかって無いな。今度調べてみるか。


「小さい国だよー。城下町の他には小さな村が幾つかあるくらいの」


「それはかなり小さいですね」


「けど、リバーランドとフォレスタの二大大国、そしてアレス王国とガルドラ王国に挟まれた、立地的にはかなり重要度の高い国ではありますね」


 うわー、周りに国ばっかとか、近所付き合いが面倒そう。俺はエレオノーレさんの言葉を聞いて、咄嗟にそんな事を考えてしまった。


「そんな国に二人は行った可能性が高いって事ですね」


 俺の言葉に頷く二人。


 ずっと雲を掴むような、そんな手探りの活動だったけど、ここにきてようやく具体的な手掛かりが掴めたな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る