第115話 シン・コレナガはレベルアップしました
「ええ!もう出て行っちゃうの!?」
耳がキーンとするくらいでっかい声でそう言ったのは、サランドラ商会アルターラ支店の支店長、フィオリーナさんだ。
支店の事務所にいた社員が一斉にこちらを振り向く。しかしユリアーナが居ないとわかると、すぐに自分達の仕事に戻って行った。何なんだよお前ら・・・。
「す、すみません。自分達としては、もうちょっと長く掛かるだろうと思ってたんですが、予想外に物事が進展しまして・・・」
俺はフィオリーナさんに、そりゃあ申し訳なさでいっぱいだったよ。だって色々準備してくれて俺達が不便を感じないようあれこれしてくれたにもかかわらず、こんな短期間で出てっちゃうんだからな。
最初この街に来た時は、こりゃ長丁場になるだろうな~とか考えたものだが、まさか俺もこんなに早く手がかりが見つかるとは思わなかったんだ。
「まあ、ギルドからあんな手がかりを貰えるなんて予想もしてませんでしたからね」
エレオノーレさんの言う通り、最大の手がかりはギルドからもたらされたんだ。
レオナルドから、俺達が受けたクエストが依頼主がギルドに代わり、依頼内容も変更となった上で依頼達成となった、という報告を受けた次の日、俺とエレオノーレさんとユリアーナの3人は、冒険者ギルドへと向かったんだ。
「それにしても私達まで報酬をもらえるとは思ってなかったねー」
「でも、あの時集められた冒険者達にも金一封が出るみたいだしいいんじゃないかしら?」
エレオノーレさんの発言の通り、あの時集められた冒険者達にも金一封が出ることになったらしい。それ考えれば、今回のクエストのメインとなったユリアーナとエレオノーレさんにクエスト報酬が入るのは当然だと思う。
グリーンボア討伐の報酬はかなり高いらしく、先に報酬をもらったレオナルドが「これでしばらくの間、お金の事を考えずにクエストに専念できる」って喜んでた。
それ考えると、かなりやばい状況だったんだなーと、今になって冷や汗が出たりしている。
「さ、着いたよー」
ユリアーナがそう言うと同時に、ギルドの扉が開いた。部屋の中には椅子とテーブルが幾つか設置されていて、そこで冒険者同士がパーティーを組んだり、情報交換を出来るようになっている。
その部屋の一番奥正面に受付が設置されていて、そこに3人の受付の人がいた。その中の一人が俺達を見付け声を掛けて来た。
「ユリアーナ様ですね?お待ちしていました。こちらへどうぞ」
そう言って受付の奥の部屋へ通される。
「エレオノーレさん、何か思った以上に大事になってません?」
物凄い好待遇に、俺は思わず隣にいたエレオノーレさんにそう話していた。
「たぶん、ユリアーナがいるからでしょうね」
「あ・・・なるほど・・・」
高レベル冒険者であり、最近有名に成りつつある楽団の歌姫であり才女と言われるユリアーナ。そりゃあ扱いも丁寧なものになるわけだ。
これが俺やレオナルドだけだったらこうはいかなかっただろう。もしかしたら、クエスト達成の件もユリアーナに忖度した結果か?
なんかそう考えるとイマイチ納得しかねる部分もあるよなあ。けどまあ、別に俺はそこまで正義を愛する人間じゃないので、もらえるもんさえもらえればOKだけどねー。そんな奴が仲間でラッキーくらいに考えていた方が、人生楽ってもんだ。
そんな事を考えながら俺達が通された部屋は応接室みたいな場所だった。そこには初老のおっさんが立っていた。
「ユリアーナ様、この度はスタッフが大変な失礼を致しました。深くお詫び申し上げます」
そういって深々と頭を下げてくる。すげえ、それなりの齢を重ねたおっさんが小娘に謝罪している・・・。あ、ユリアーナはローフィルだからユリアーナの方が年上の可能性もあるのか?ややこしいぜ異世界。
「いやいや、私が受けたクエストじゃないからねー。どっちかって言うと、それはこっちのコレナガのほうかも」
「はい、コレナガ様にはこの度は大変なご迷惑をおかけ致しまして・・・」
「いえいえいえ、結果的に何も被害は出ませんでしたし、ユリアーナさん達のおかげで無事討伐もできましたし!」
ユリアーナが突然俺に振って来るもんだから、おっさんが俺に謝罪し始めたじゃねーか!俺こういう状況苦手なんだよ!なのでおっさんの関心が再びユリアーナに行くように話しを振った。
その後ひとしきりユリアーナをヨイショする話をした後、俺たちはやっとおっさんから解放された。「何かありましたら、この私めにご相談ください」と自分を売り込むことも忘れてなかったな・・・。
そしていよいよだ!いよいよ俺のレベルが上がる時が来た!
「すみません、クエスト達成の手続きをお願いします」
俺は今まで同じようにやって来たように、マザープレートを受付に差しだした。しかし今回がいつもと違うのは、初めての戦闘系のクエスト達成報告だって事だ。
「かしこまりました」
いつもは「お疲れさまでした」なのに、今回はユリアーナ忖度が働いてるからか、妙に丁寧になってるのが気にかかるが、まあそれは無視しとこう。
クエスト報酬についてはさっきエレオノーレさんが一括でもらっていたので、俺は経験報酬の手続きだけだ。
俺はスタッフが俺のマザープレートに色々と入力していくのをじーーーっと見ていた。スタッフからすれば非常にやりにくい事この上ないだろうが、そんなの関係ねー!
各地の冒険者ギルドには特殊コードが割り当てられていて、そのコードを使う事で、各冒険者のマザーボードに変更を加えられることになっている。
とは言え、マザーボードのすべてに干渉できるわけではないっぽい。出来るのは経験報酬付与や魔法のレベル制限解除や特典の付与などだ。
「お待たせしました」
そして、俺に返却されたマザープレートには輝かしく光る「4」の文字が!レベルアップのファンファーレは鳴らなかったけどな。
ん?4?
俺はマザープレートを何度も何度も見返したが、そこには「4」という文字が浮かんでいた。
「あの・・・」
「ひいっ」
俺が何で4に上がっているのか聞こうとスタッフに声を掛けると、そんな悲鳴に近い声をあげられた。
「も、申し訳ありません!コレナガ様は戦闘に参加され、魔獣にダメージを与えられましたが、致命的なダメージを与えられたのがエレオノーレ様になりまして・・・」
そしてわけのわからない説明をすげえ早口でされてしまった。
「いやあの、レベル2じゃなくていっきに4に上がってるので何かの間違いなのでは・・・と思ったんですが・・・」
俺が説明するとようやくスタッフは俺が何を言いたいのかを理解したようだ。俺そんなに怖い顔してたのか?これもユリアーナ忖度なのか!?
「えっと、グリーンボアは上級の討伐対象魔獣となっていまして、経験報酬がその分多くなっております」
「あ、つまりそれで一気に僕のレベルが上がったんですか?」
「はい」
なるほど。経験報酬が多すぎて2と3を飛ばして4になったわけか。となると、致命的ダメージを与えたエレオノーレさんはどうなるんだ?
おれはちらっとエレオノーレさんの方を見た。
俺の視線に気付いたエレオノーレさんがすっと目を逸らす。っく、これは相当レベルが上がったに違いない!
いやでもまあ、あの時のエレオノーレさんは凄かったからなあ。たぶんユリアーナの魔法が無くても倒せたんじゃないかってほどだった。
まあ、俺もこれで長いレベル1生活からようやく解放だ!レベル4の魔法まで覚えまくりだぜ!
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