第107話 必要最低限な自己PR

「えー失礼しました。冒険者やってますシン・コレナガです。今日はよろしくお願いします」


 女性陣からの非難を受けた俺は、レオナルドと同じように立ち上がり、自己紹介をした。こうなると、唯一立ち上がらなかったのはラウロだけとなってしまうが許してくれ!俺はもうこれ以上冷ややかな目で見られたくない。


 しかし、ラウロやレオナルドの自己紹介と比べるとちょっとあっさりしすぎたか?いやいや、彼らみたいに自分のレベルを正直に言ってしまっては、元も子もない。この合コンの目的は、あくまでもそれ自体を成功させることだ。


 俺のレベルを晒して盛り上げると言うのはあくまでも最終手段。幸いレオナルドと言う、高スペックイケメン冒険者がいたことで、合コン自体は成功しそうな雰囲気が漂っている。


 ならおれがわざわざピエロになる必要は無いだろう。つーか、最初にブリジッタが言ったように、飯食ってるだけでいいならそれでいいのだ。むしろそっちがいい!


 あと完全に俺にとってアウェーな雰囲気になっているので、出来ればこれ以上に居心地の悪い空気になるのは嫌だ!


「え?コレナガさん、職業とかレベルとかは紹介しないんですか?」


「・・・え?」


 俺が黙ってやり過ごそうとしていたら、マリアンナの奴がそう発言していた。マリアンナは「え?なんで?」みたいな顔をしている。


 この女!なんで余計な事言うんだよ!大体今日参加している女の子達は俺の事なんかどうでも良いんだよ!レオナルドにしか興味ないんだよ!くそ、言ってて悲しくなってきた!


 とにかく、俺があのまま着席してしら~っとしてても問題なかったのにー!


「コレナガさんて、一般常識も無い感じですかあ?」


 カーラって女が、マリアンナに乗っかる様に発言してくる。みるとルーナの方も俺の方をジト目で見ていた。


 ほら見ろ!最悪だ!


 これはもう無理だな。悪目立ちしすぎている。思えば合コンの最初の方で俺がしくじった時から流れは悪い方向へ行ってたな・・・。


 この合コンクエストを受けた時には、ちょっとは期待してた部分もあったよ?5年もこの世界にいるとはいえ、ふつーの一般の女の子と接する機会なんてほとんど無かったからな。


 俺が関わった女と言えば、ティルデ、ユーディー、ユリアーナに加え、テレジア・ロンネフェルトのような、美人ではあるが一筋縄では行かないような奴ばっかりだった。


 だから、ごく普通の町娘さんとの出会いを、俺がちょっとは期待したとしても、それはおかしな事じゃない。


 しかしそんな物は所詮幻想だ!お前らよく見てろよ!彼女いない歴45年の底力と言うものを思い知らせてやるぜ!


「あ、すみません。えっと職業は魔法剣士で冒険者レベルは1ですぅ。よろしくおねがいしまーす」


 俺は力強くそう言ってやった!


 ふとブリジッタの方を見ると、呆然とした顔で俺の方を見ていた。


 ふっ、そんな顔をするな、とニコっと微笑んだら、親指を立ててオレの健闘を祈って来たので俺も親指を立て返してやったぜ。


「ええええっ!コレナガさんレベル1!?しかも魔法剣士!?」


 突然ルーナが悲鳴に近い声をあげた。


「私達と年齢そう変わらないのにレベル1とか、もう人生詰んでるじゃん」


「え?俺の年齢でレベル1ってそんなにやばいの?」


 俺はカーラの言葉に思わず聞き返してしまった。だって当然のように馬鹿にされると思ったら、すげえ同情されてるんだよ。それってかなりやばいって事だろ・・・。


「いや、一体どんな冒険者生活送ってたらレベル1のままなの?」


 えっと、長い奴隷生活を送っていたら、いつのまにか冒険者とはかけ離れた生活になってました・・・とはカーラには言えないな・・・。


「コレナガさん、商売に関しては凄い人だと思ってたのに・・・」


 マリアンナが心底がっかりしたような表情で話してきた。こいつに言われるとマジで腹が立つな。


 しかしあのグリーンヒル支店のお荷物マリアンナさんにそんな顔させるくらいのダメなポジションだって事か・・・。やばい、なんか凄く不安になって来た!


「ねえ、商売に関してはってどういう事なの?」


 マリアンナの言葉に反応したのはカーラさんだ。


「いえ、グリーンヒルで、もう絶対どうしようもない危機的状況にあったお店を、コレナガさんが立て直したんですよー。もちろん私も大活躍でしたけどね☆」


 いつお前が活躍したんだよ!全部間違えてやって来た事が偶然成功したってだけだろうが・・・。いや、それはそれで凄いのか?


「え?もしかしてグリーンヒルで立て直しって、アスタリータ商店の事?」


「あ、はい。いや、そうですが、何故知ってるんですか?」


 俺はカーラの問いに思わず聞き返しちゃったよ。


「そりゃそうだよー。グリーンヒルのアスタリータ商店は、サランドラ商会の今後のビジネスのあり方を方向付けたお店だからね」


 あ、そっか!すっかり忘れてたけど、今回の合コンに参加した女の子達は全員サランドラ商会の子達だったんだ。


 そういえばフィリッポさんが、アスタリータ商店のやり方を、今後は各地のサランドラ商会でも実践していくなんて話しをしていたけど、あれ本当だったんだなー。


「ねえあんたさ、もう冒険者なんてやめて、そっちの方で働いた方が良いんじゃないの?」


「え?」


「だって、いまだにレベル1って、絶対冒険者向いてないよ。それに引き換えアスタリータの活躍は伝説級だよ?絶対そっちの方が良いでしょ」


 俺はカーラのその言葉にぐうの音も出なかった。


 確かにな・・・。選んだ職業が魔法剣士ってとこでまずつまづいてるしな・・・。しばらく剣さえ握れなかったのも追い打ちをかけてたし、その後は長い奴隷生活が続き、やっと解放されたと思ったら、今こんな状況だ。


 なんかもう、この世の全てが俺の冒険者生活を邪魔するように仕組まれているとしか思えねー。


 うーん、異世界って言ったら冒険者だろ!ってくらい憧れていたんだけどなあ。ここまで来ると本当に適性ない気がしてきた。わざわざ冒険者ギルドから脱退するつもりは無いけど、本格的な冒険者生活は諦めたほうがいいかもな。


「よし!」


 俺がそんな後ろ向きな事を考えていると、となりに座っていたレオナルドが急に立ち上がった。おかげで、びっくりしたラウロが椅子から転げ落ちそうになっている。


「コレナガさん、一緒にクエストに行こう!」


「へ?」


 急にそんな事を言い出した騎士、レオナルドさん。


「えっと、どうしたんですか一体?」


 あまりの突然の事に、次の言葉を中々だせずにいると、俺の代わりにブリジッタが聞いてくれた。そうそう一体どうしたんだレオナルドは。


「君も知ってるかもしれないが、レベル1の冒険者が単独でレベルを上げるには、相当な苦労がいる」


 ですよねー。それは身をもって経験しました、はい。おかげさまで飛び道具だけは上手になりました。森と山の生活で・・・。


「しかもレベル1では、戦闘系のクエストは受けられないから尚更だ」


 それもこの前、ユリアーナを怒らせたことで身をもって(ry


「だから、僕らが一緒にクエストに参加して、君のレベルアップを手伝ってあげるよ!」


「・・・え?」


「僕とラウロが居れば、大抵の事は大丈夫!そうだな、あまり君のレベルとかけ離れたクエストだと、逆に経験ポイントが貰いにくいだろうから、レベル5くらいのクエストにしよう!」


 そういって、レオナルドはどんどん話しを進めていく。あれ?俺こいつらとクエスト行っちゃうの?


「コレナガさんコレナガさん」


 俺がはりきっているレオナルドを見ながらそんな事を考えていると、ブリジッタが話しかけて来た。


「コレナガさん、姫のパーティーに参加しているって言った方が良いのでは?」


 姫・・・あーユリアーナの事か。


「いやあ、たぶん信じてもらえないのでは?」


「そうですか?」


 そもそも冒険者としての仲間では無いからな。ティルデを探す為に旅をしている仲間だ。そして俺はどっちかと言うと、仲間と言うより保護されているって感じだよな。情けないけど。


「よし!じゃあ今度の休みにクエストに行こう!俺が適当なのを探しとくから!」


 そしてどうやら、初めての戦闘系クエストに俺は行く事になったらしい。


と言うか、レオナルドの奴、まじで良い人だったのか・・・。

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