第106話 シン・コレナガの戦い
俺達一行は森の中を歩いていた。今回のクエストは、「牧場近くの森でオークを発見しました。速やかな討伐をお願いします」というものだ。
クエストのメンバーは、魔法使いのラウロ、騎士のレオナルド、そして駆け出し冒険者で魔法が使えない魔法戦士の俺に加え、見学者としてカーラ、ブリジッタ、マリアンナという3人の女子もついてきている。
カーラとマリアンナは完全にピクニック気分であり、レオナルドが「俺が守ってあげるよ」等と二人に甘い言葉を囁いていた。
そしてブリジッタと俺は「何故こんな事に・・・」とさっきから頭を抱えている。
それもこれも数日前にブリジッタ主催で行われた「合コン」が原因だ。
ブリジッタからの「合コンに人数合わせで参加して欲しい」という要望に応えることになった俺は、それを成功させるためにブリジッタと作戦を練っていた。
そもそも今回は、エリート男性冒険者と大手商社に務めるエリート女性社員の合コンを成功させることが目的だ。
しかしながら欠員が出て、エリートでも何でもないレベル1の俺が紛れ込んでいる時点で、すでに目的達成は難しいと言えよう。
だったら、いっそ俺がレベル1であることを最大限に活用し、これをネタに盛り上がってもらおうというのが俺の考えた作戦だ。
ブリジッタは、俺が一方的に損をするような内容に難色を示したが、引き受けた以上は全力でやるしかないだろう。
つーか、もうこんな事しか思いつかなかったんだよ・・・。とりあえずブリジッタはそれとなくフォローしてくれるらしいし、俺ももうそれなりに良い歳した大人だし、合コンの間、我慢するくらいどうとでもなるだろ。
何しろモテナイ歴45年(日本40+異世界5)のキャリアだからな。
そういうわけで、今はとりあえず乾杯の音頭を取ってから、ブリジッタが合コンスタートのご挨拶をしている所だ。挨拶が終わったらそれぞれ自己紹介に入る予定らしい。
さて、今回の俺はプライベートではなくクエストとして参加している。ブリジッタはずっとご飯食べてても良いからと言ってはいたが、まあ今回の作戦ではそれは無理だろう。
俺はそっと今日の合コンの参加者の顔ぶれをチェックした。
女性陣は、ブリジッタが自信をもって集めたと言っていた通り、かなり可愛い子が集まっている。年齢は同じくらいに見えるけど、ローフィル族の子もいるので、見た目ではちょっとわからないな。
しかし、ローフィルの赤い髪をみると、ちょっと「どきっ」としてしまう。まあ、ユリアーナにはまったく似ていないんだが、秘密にしている後ろめたさも手伝ってるのかもしれないな。
それにしても、こんな若い子達にこれから失笑されるのかと思うと、かなり切なくなってくるな・・・。
そして男性陣だが、こちらも色んな奴が集まっている。ざっと見た所イケメンが一人、そして俺と同じ匂いがする奴が一人。
同じ匂いってのは、これまで女性と縁が無かったような感じって意味だ。なぜならずっとそわそわしてて、女の子の方をちらちらっと見ている様子がなんとも親近感を湧かせてしまうぜ。
奴はきっと今日の合コンにかけているに違いない。その気合が空回りしなければいいが・・・。俺はそいつの事を心の中で「心の友、心友」と呼ぶことにした。
しかし男性陣は俺を入れて3人しかいないぞ。後から遅れてくるの?まあ、何しろエリート冒険者らしいからな・・・。
そして女性陣の紹介が始まる。つーか女性陣の方に、ちょっとすでに先行き不安な要素がいくつか入ってるんですが・・・。
「さっきもお話ししましたが改めて自己紹介です。ブリジッタ・トッカフォンディーです。アルターラ本店の受付をやってます。よろしくおねがいしまーす」
まずはブリジッタから始まった。受付嬢らしく流暢な紹介だ。
「どうもルーナといいまーっす♪南支店で事務やってます。よろしくね♪」
次の女は語尾から音符が聞こえてきそうな話し方をする子だった。昔の俺だったら「ぺっ」と唾を吐きそうな話し方だったが、まあ、彼女も良い男を捕まえようと必死なのだろう。
「カーラといいますっ♪今日はぁ、すっごい強い方達とお話しできるのでぇ、すっごい楽しみにしてたんですよぉ」
さっきの子に輪をかけたようなぶりっこが来た。どうもルーナとは同じ職場らしい。まあ、あれだ。あまり関わらないようにしておこう・・・。って、今日は合コンなのでそういうわけにもいかないんだった・・・。ま、まあ、なるべく関わらないようにって事で・・・。
そして次の女の子の番になった時、俺の頭の中にさっきの「不安」がよぎる。
「え?な、なんでコレナガさんがここにいるんですか・・・」
そう聞いてきたのは、合コン参加者の一人で、サランドラ商会グリーンヒル支店で働くフィリッポさんの部下「マリアンナ」だった。
「いや、それは僕が聞きたいのですが・・・」
そっか、やっぱどっかで見た顔だとは思ったけど、見間違いじゃなかったか・・・。
「あなた、グリーンヒル地域の社員じゃないですか。今日はアルターラ市の合コンだと聞いていたんですけど」
そう、この女はグリーンヒルで働いているはずだ。なんでアルターラの合コンに参加してるんだよ。
「実はアルターラ支店に数日前に転勤になりました。フィリッポさんの強い勧めで」
「はあ?」
「そしたら、ブリジッタさんから合コンに誘われまして・・・」
俺はその言葉を聞いて咄嗟にブリジッタの方へ向き直った。だってさ?今人数を数えてみたら女性陣4人しかいないんだぜ?だったら無理に俺を参加させなくて良かったじゃん!3対3で丁度いいじゃん!
「えっと、今日は5対5と聞いていたのですが?」
俺はなるべく感情を出さずにブリジッタに尋ねた。だってさ、5人いるからってことで無理して合コンに参加してるんだぜ?意味ねーじゃん!
「えー、それって私達だけじゃ物足りないって事ですかぁ?」
そしたらブリジッタじゃなく、ルーナって子から返事が返って来た。
「え?いやそうじゃなくてですね?えっとあのですね・・・」
「それって私達に失礼ですよぉ」
俺がしどろもどろになっていると、今度はカーラと言う女の子から追撃が来てしまった。
やばい!合コンと言う名の試合のゴング前なのに、すでに劣勢に立たされてしまった!ただでさえ悪条件なのに!
「まあまあ、こんな可愛い子が揃ってるんだから、人数なんて問題じゃないでしょ?さっきの自己紹介も可愛かったしね」
俺が窮地に立たされていると、イケメン冒険者がフォローを入れて来た。
「ええ、可愛いってそんな事ないですよぉ」
「いやいや、どこのモデルさんかと思ったよ」
「やだー」
女の子達はすっかりご機嫌になった。さすがイケメン、次から次へと女の子への誉め言葉が止まらない!おかげで俺へのヘイトはすっかりどこかへ行ってしまったようだ。
そして俺はどうしてこんな事態になっているのかブリジッタに聞きそびれてしまった・・・。
女性陣の自己紹介が終わり、いよいよ男性陣の番となった。トップバッターは俺の心友だ。俺は心の中で必死でエールを送った。
「あ、あの、はははは、初めまして!ら、ラウロと言います!冒険者レベルは25で、魔術師をやってます!」
心の友の自己紹介が終わると、例の女の子達から「何あれー?プークスクス」みたいな声が上がるのが聞こえた。おのれ、俺の同士を笑うとは・・・。
しかし、俺としては他人を心配している余裕はない。何せ俺のレベルはたったの1だ。さっきは強がって我慢できるとか言ったが、さっきの女子の反応を見て、すげえ不安になって来たんですけど・・・。
「へえ、君レベル25なのか?すげーじゃん」
俺が自分の近い未来の事を憂いていると、横からそんな声が聞こえて来た。ラウロの隣に座っていた、さっき俺を助けてくれたイケメンだ。
というか、レベル25って凄いのか?ふーむ、どうにもレベルを聞いてもピンとこないんだよな。今度調べておこう。
それにしても、咄嗟にフォローを入れて来るとは、イケメンは心の中までもイケメンなのか?俺もさっき助けてもらったし。
そしてイケメンからすげーって言われたラウロは凄く嬉しそうだった。鼻の穴がぷーっと開いてるもん。普段誉められてないと嬉しくてそうなっちゃうよな。ソースは俺だ。
「じゃあ次は俺の番だね」
そう言ってラウロの横のイケメンは立ち上がった。え?立ち上がるの?ラウロは座ったまま自己紹介してたぞ。
「名前はレオナルド、職業はナイトだ。レベルは35、今日は楽しく盛り上がろう!よろしく!」
ええっ!こいつレベル35かよ!さっき25をすげえって言ったのはなんだったんだ・・・。まさか、自分を上げるために言ったんじゃねーよな・・・。
それにしても、ただ挨拶しただけと言うのになんでこんなにカッコいいんだ。背も高いし、程よく筋肉も付いている。冒険者なのにそこらの一般人と変わらない俺とは大違いだぜ。
そしてラウロは、さっき25と言われ鼻を膨らませて喜んでいたことが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして俯いてしまった。まあ、すげえと言ってくれた相手が35じゃ、素直に喜べないよな。
「ねえねえ、あの人良くない?レベルも高いし、何よりナイトって言うのがカッコいいよね」
レオナルドの自己紹介の後、俺の目の前の女子達がひそひそとそんな会話を繰り広げていた。良く見ればブリッジタの目もしっかりとハートマークになっている。
なるほど、レベル35は結構高いらしい。ぱっと見俺と同じくらいか?あと職業はナイトらしい。ナイトってどんな職業だっけ?騎士って事か?いやでも冒険者で騎士は無いだろうし、これも今度調べておこう。
そしていよいよ俺の番になった。男性陣の最後を飾るにふさわしい道化っぷりを披露してやるぜ!・・・あれ?ちょっと待て!
俺の自己紹介って3番目なのよ。そして男性陣最後の面子。
・・・俺はブリジッタの方に素早く向き直った。俺と目が合った瞬間「さっ」と目を背けるブリジッタ。くそー、こいつのマネジメントは一体どうなってるんだ・・・。
「ねえ、さっきからカーラ達ずーっと自己紹介始まるの待ってるんですけどぉ」
「君さあ、さっきからケチ付けたり女の子睨んだり感じ悪いよ」
しまったああああああああああああっ!またやってしまったのか俺は・・・。
「あ、す、すみません!」
俺は慌てて女性陣に謝罪する。くそー、ただでさえアウェーな現場なのに、自分でさらにやりにくくしてしまった・・・。これだからモテナイ奴は・・・・。
俺は心の中で一人頭を抱え込んでいた・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます