第101話 ユリアーナさんのお仕事 その1

 夕食後、フィオリーナさんからもらった鍵を使って隣の部屋、つまり事務所としてあてがわれた部屋に俺達は来ていた。


「ふーん、こっちは単身用の部屋なのかな?」


 ユリアーナは部屋のあちこちを見回している。


 部屋の間取りは1LDKで、俺達が話し合いをしたりする分には最適な大きさと言えるかもしれない。まあユリアーナの言う通り、単身用の部屋なのだろう。


 イスとテーブルを置けば、簡単な会議室みたいにはなりそうだ。資料は部屋に保管できるしね。


 それにしても1LDKか・・・。俺が日本に居た頃の部屋は1kだった。あの頃は部屋と職場を往復するだけの日々で、仕事が終わればアニメとゲーム、休日はアニメとゲームに関連グッズを買いあさり、各種イベントをチェックし出かけるという日々だった。


 部屋が狭かったので、コレクションは押し入れに保管していたのを良く覚えている。


 それが今や、仕事上とは言え女性三人と同じ家に住み、この世界の行方を左右するような仕事をしているんだ。日本時代の俺に言っても絶対信じないだろうな。


「とりあえず今日は家に戻りましょうか。そして明日皆でお掃除しましょう」


「そうだねー。私お腹すいちゃったよー」


「あ、はい!私早速準備しますね!」


 エレオノーレさんの言葉にユリアーナとソフィーがそれぞれ反応する。


 そういえば今日は、近くの屋台で出来合いの物を買ってきたんだった。かなり美味そうな肉だったなあ。食うのが楽しみだ。





 翌日、前日の宣言通り、午前中はみんなで事務所の清掃に取り掛かった。


 エレオノーレさんの指示のもと、俺、ユリアーナ、ソフィーも窓や床拭きなどに精を出す。


「そういえばソフィー」


「な、なんでしょうか?」


 ソフィーは俺と会話するときは少し緊張気味になる。たぶん、実の兄に俺がそっくりな事とかが関係しているんだろう。


 出来ればユリアーナ、とまではいかないけど、エレオノーレさんと会話するときくらいな感じには仲良くしたいんだけどな。まあ、時間が必要なのかな。


「ソフィーは、ここでの暮らしで困ったところなんかはありませんか?例えば近所に怖い人がいるとか」


「いえ、全然そんな事ないです!お店の人も警備員の人も凄く優しくしてくれます!」


「そうですか、なら良かった」


 まあ、こんな可愛らしい女の子をみて意地悪したいと思うような奴もそうはいないだろうけどな。何かこの子見てると、庇護欲ひごよくみたいなものが湧いてくるんだよな。たぶん周りの人達もそうなんだろう。


「あー!シンちゃんがさぼってソフィーにちょっかい出してるっ!」


「ちょっかいって・・・。僕だってソフィーと話すくらいしますよ」


 ソフィーと話をしていると、ユリアーナがちょっかいを出してきた。


「ソフィー、このおじさんに意地悪されたらお姉ちゃんに言いなさいね?」


「おじっ・・・。俺はおじさんじゃありませんよ!」


「え?しんちゃん合計何歳なの?」


「うっ・・・」


「ほらやっぱりおじさんじゃん!」


 くっそー反論できねえ。日本の年齢足したら45だよ。立派なおっさんだよ!


 以前、ユリアーナはローフィルなんだから俺より年齢上でしょうって言ったら、ローフィルの中じゃ若者だもん~とか、こいつ言いやがった。


 大体そんな異世界年齢なんか知ったこっちゃねーよ!絶対あいつ俺より年上だぜ。


 ふとソフィーの方を見ると、エレオノーレさんと一緒に笑っていた。


 まいっか。そういって俺はこの件に関して泣き寝入りする事にした。この件じゃなくても泣き寝入りばかりしている気がするのは気のせいと言う事にしておこう。



「さて、じゃあ行きますか」


 そういって俺は掃除が終わった後、お昼ご飯を頂いてゆっくりしていたソファーから立ち上がった。


「そうですね」


 俺の言葉にエレオノーレさんも同意する。


[ねえ、本当に一緒に来るわけ?」


 俺とエレオノーレさんの言葉に、ユリアーナが困惑した表情でそう問いかけて来た。額にはうっすらと汗が浮かんでいる。


 このユリアーナの表情には理由がある。


 今日は午後から冒険者ギルドへ行き、クエストを受ける予定だった。現時点での我々の資金面は余裕がある状況とは言い難い。稼げるときには少しでも稼いでおかなければいけないのが実情だ。


 それに俺とエレオノーレさんはレベルが1のままだ。この世界では、冒険者レベルによってさまざまな特典が受けられる。ギルド公認の宿や武器屋などの料金の割引が受けられたりするんだ。


 今の所ユリアーナがそこそこの冒険者レベルを所持しているので、彼女のパーティーメンバーという事で俺達も割引の恩恵に預かれている。


 ただこの先、ずっと今のメンバーで一緒に行動できるかどうかもわからない。なので、出来るだけ個人個人のレベル上げはやっておいた方が良いだろうと、北リップシュタートでの話し合いで決まったんだ。


 グリーンヒルでシロちゃん捜索などのクエストは受けたんだけど、やっぱ戦闘じゃないとレベル自体は上がりにくいらしい。報酬はちゃんと入るんだけどねえ。


 しかし今現在、我々のパーティーにはユリアーナが居るので、戦闘系の軽いクエストを受けようと思っている。オークとかゴブリン退治を探すらしい。それだったら初心者の俺でも行けるだろうとのユリアーナ先生の判断だ。


 そういやゴブリンの日本での立ち位置は、女子供をさらうような凶悪で知恵も回る危険なイメージだが、こちらでは違うのだろうか?


 以前、訓練学校時代にも、練習クエストとしてゴブリン狩りがはいってたくらいだし、初心者用の魔物って扱いなのかもな。


 まあそれはともかく、とりあえずゴブリンなんかを倒しに行こうと決まった。


 と、それが昨日の夜までの予定だった。しかしフィオリーナさんからユリアーナが頼まれていたという仕事内容を聞いて、状況が変わった。


「いやあ、すっかり忘れてたんだけどさ、なんか、フィオリーナさんから「社内報」のインタビューに答えてくれって言われちゃって・・・。だからエレオノーレとシンちゃんの二人で行ってきてくれない?」


 昨晩フィオリーナさんが来た後、ユリアーナからそう言われたんだ。フィオリーナさんの「よろしく」ってのは、これの事だったらしい。


「インタビューって何?」


 俺は頭の中に浮かんだ疑問をそのままユリアーナに聞いた。なんだよインタビューって。なんか芸能人のお仕事みたいじゃないか。

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