第102話 ユリアーナのお仕事 その2
芸能人じゃあるまいし、インタビューって何なんだ?
「それがさー、私って女子楽団やってるじゃん」
「ああ、そういえばそうでしたね」
すっかり忘れていたが、この人は女の子ばかりで結成された楽団のメンバーだった。一度だけ見に行ったことがあるんだ。
「でね?この街でサランドラ商会から色んな手助けをもらえる取引材料として、私が商会の広報活動に参加する事を頼まれたの」
「は?」
「だーかーら!サランドラ商会のイメージガール的なお仕事をする事になってるの!」
「?」
いや、全く持って意味が分からんのだが。楽団とイメージガールと何の関係が?
「えっとですねコレナガさん」
俺が腕を組んで首を
「ユリアーナの楽団は、このフォレスタの国でも人気なんですよ」
「え?そうなんですか?」
「はい。そしてユリアーナは、楽団の曲を作っている才女として、かなりの人気があるんですよ」
ほへー、まじかよ!そういえばリバーランドでも結構な人が集まっていたな。なるほど、会社の広報戦略の一環として、人気アーティストを採用って感じなのか。え?まじで芸能人じゃん!
「あれ?」
しかし俺は、ある一つの矛盾点に気付いてしまった。
「どうしたのシンちゃん?」
「いえ、楽団が人気があるのは理解しました。それにしては、この国に来てから誰もユリアーナさんの存在に気付いていないようですが・・・」
「うっ・・・」
今ユリアーナの奴「うっ」って言わなかったか?なんだその「うっ」は?何か隠してるのか?
「そこが悩みなのよねユリアーナは」
「悩み?」
なんだ悩みって。実は楽団自体には人気はあるけど、ユリアーナ個人の人気はそこまで無いとか?いやでも、リバーランドの演奏会ではユリアーナへの声援はかなりのものだった。
「実は、人前に出るときのユリアーナは、かなり気合を入れて雰囲気を作ってるんですよ」
「雰囲気?」
ちょっと!作ってるとかいわないでよ!等とユリアーナから文句が出ているがそこは無視だ無視。
「コレナガさん、初めてユリアーナを見た時どういう印象を持たれましたか?」
エレオノーレさんにそう言われて、俺は初めてユリアーナを見た時の事を思い出していた。あれは確かフェルテンに誘われて演奏を聞きに行った時の事だったと思う。
「いやそりゃあ、なんかこうミステリアスな雰囲気と言うか、表情が読めないというか・・・」
あの時俺に向けられた笑みは今でもはっきり覚えてるよ。なんつーか、妖艶な笑みって言うか、背筋が凍るような思いをしたことを覚えてる。
「では、今のユリアーナはどうですか?」
「いやまあ、何というかこう・・・」
エレオノーレさんに言われて、俺はちらりとユリアーナの方を見た。ユリアーナはキリっとした表情を作ってはいるが、口の端にさっき食べた御飯の残りが付いている。
こいつ、ご飯の残りを口に付けたまま事務所の掃除してたのか。なんて残念な奴なんだ。
「ミステリアスの欠片もないですね」
なので俺は無表情でそう言ってやった。
「シンちゃんひどい!」
「いやだって本当の事だし、口の端にさっき食べたご飯の残りがついてますよ」
そう言われたユリアーナは、慌てて洗面台へと走っていく。ソフィーがタオルを持ってそれに続いていた。
俺さ、この世界で始めて見たよ。俺が見てる前でソファーに寝転がって腹かきながらあくびしてる女って。ローフィルがそういう種族なのかな~とか思ったけど、ティルデのそんな所は見たことが無い。
「何が言いたいのかと言うと、楽団のユリアーナは余所行きだって事です」
俺が
「なるほど。つまり、頑張ってクールビューティーなイメージを作ってるって事ですね」
「頑張ってとか言わないでよ!あれが私の素だから!作ったりして無いから!大体冒険者レベル1のシンちゃんにそんな事言われたくないし!」
いつの間にか戻って来たユリアーナが訳の分からない事を言い出した。
「はあああ!?冒険者レベルとか今関係ないでしょー!それを言うなら・・・」
「はいスト―――っプ!」
俺とユリアーナの口論がヒートアップしそうになったのを見たエレオノーレさんが、二人の間に強引に割り込んできた。
「では午後からの予定は、私とコレナガさんが初心者用クエストの受注、ユリアーナがサランドラの広報活動。これでいいですね」
「「はい」」
エレオノーレさんの口調は、これ以上の口喧嘩を許さない迫力があった。だってエレオノーレさんの背後に赤いオーラと共に「ゴゴゴゴゴ」みたいな文字が見えた気がしたんだよ・・・。こええ、マジ怖え。
という事は、午後からは俺とエレオノーレさんでいつもの初心者クエストか・・・。うーん。
「またシンちゃんが変な顔してる」
「そろそろユリアーナさんの、その口の悪さはなんとかなりませんかね!」
「だってしかめっ面してうーんって唸ってるから!」
「考え事をしていたんです!」
「えっとコレナガさん、何か心配事でも?」
また俺とユリアーナで喧嘩を始められてはかなわないと思ったのか、エレオノーレさんが間に割って入ってきた。
「そのインタビューって見学可能ですか?」
「・・・は?」
俺の問いかけに対し、一瞬間が開いてから、ユリアーナから間抜けな反応があった。
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