第87話 3人のセレブ達
店内から店員を呼ぶ女の人の声が聞こえたので、俺とおっさんは慌てて店のな中へと戻っていった。
すると、見るからに高そうな装飾品を身にまとった、40代くらいのおばさんが3人ほど店の中にいた。
最近はこの時間帯に来る客が減っていたので、俺もおっさんも油断してたわ。
それにしてもこの3人、中アメリア区では中々見かけないオーラが漂っている気がする。
なんつーか、着ている服や装飾品も高級そうな感じがするんだよ。
そういえば以前マリアンヌちゃんが、北アメリア地区にもチラシを配布したと言っていたなあ。
もしかしたら、北アメリアから買い物に来たんだろうか?
だとすると、スタンドプレートを買ってもらえるチャンスではないだろうか?
「いらっしゃいませ~」
俺は俺に出来得る最大限の愛想を使って挨拶をした。
声だけ聴いたら、両の手のひらを胸のあたりで重ねて、てもみしている姿が想像されるかもしれない。
「あら?誰もいらっしゃらないから、てっきりつぶれているのかと思いましたわ」
そういって高笑いを始めるセレブ風おばさん3人組。
こんのくそばばあああああああああ!
とか一瞬顔に出そうになったが、ここでセレブなおばさん達を逃がしては元も子もないので、そこはぐっと我慢したぜ。
ふとおっさんの方を見ると、こういう客には慣れているのか顔色一つ変えずに対応している。
さすがだぜおっさん。
「それで、スタンドプレートと言うのはどこにあるのかしら?」
きたあああああああああああああああああああああああああっ!
これはこの土壇場でマジでチャンスが来ただろ!
もうプレートを買ってくれるなら、たとえ気に入らないおばさん達でも、誠心誠意、心を込めて説明させて頂きますよ!
「プレートはこちらでございます!」
俺がそんな事を考えていたら、ウルバノのおっさんが、普段は見た事が無いような接客態度で、セレおば達を案内していた。
おっさんもここが勝負の時とわかっているんだろうな。
「ふーん、あまり普通のプレートと変わりありませんのね。ねえ、これで何が出来るんですの?」
はいきました!ここは俺の出番ですね!
「はい、まずはこのように明かりの役割を果たすことが出来ます」
俺はあらかじめプレートに入っていたプログラムを作動させた。
ちょっと薄暗くなっていた店内が明るく光りだす。
「そのくらい知っていますわ。あなた、私達を馬鹿にしてますの?」
やべっ!一応基本から説明しようと思ったら逆効果になっちまった!
やっぱここは普段見ないような使い方をプレゼンしよう!
「もちろん今のは単なるデモにすぎません。本番はここからです」
そう言って俺は、旋風魔法のプログラムに切り替える。
「これはなんですの?」
「魔力さえ込めれば、自動で風が出てくるシステムでございます。夏の暑い時期などに大変便利ですよ」
「ふーん。でも今は秋じゃない。そんな風が吹いてきたら寒いじゃないの」
「はい。なので、冬の間はこうします」
やはりあらかじめセットしておいた、温風のプログラムに切り替える。
これ風魔法の直下のフォルダーに、ファイアーの魔法をセットし、攻撃力の部分だけを「0」にしたものだ。そうする事で、人体に害を与えない程度の熱の生成が可能となっている。
「あら、暖かい風が吹いてくるわ」
「はい。さらに、氷の魔法をセットして、威力を「0」にすれば、夏の時期には、家の中がひんやり涼しく快適になります」
俺はさらに、プレートに注入する魔力の量を調整すれば、今でいうタイマー機能みたいな物もプラグラム可能なことなど、今の俺に出来るありとあらゆる商品説明を行った。
「ふーん、思ってたよりも使えそうじゃりません?」
「そうですわね。私、ランプの代わりくらいにしか期待していなかったのですけど、ちょっと欲しくなってきましたわ」
よっしゃ好感触!頑張ってプレゼンした甲斐があったぜ!
おっさんの方を見ると、やはりこちらも「よっしゃ!」という顔になっていた。
「じゃあ、いつ買いに行きましょうか?」
「そうですわね。明後日なんか如何です?」
「いいですわねそうしましょう」
彼女達は早速購入の相談を始めたようだ。
俺はこの機を逃すまいと、積極的にアピールする事にした。
「お客様、ご予約でしたら、今この場で可能ですが?」
まあ、予約っつーか取り寄せなんだけど、特に問題ないだろう。
サランドラに注文してから1週間はかかるらしいので、なるべく早く発注するに越したことは無い。
・・・・・・。
あれ?なんだこれ?
なんか、おばさん達の反応が変だ。
この店員は何を言ってるの?って目で、俺を見ているんだが・・・。
「ちょっとあなた。予約って、プレートの予約をするってことなの?」
「は?は、はい。発注から到着までは1週間はかかりますので、早目のご予約がよろしいかと思いまして」
あれ?俺なんか変な事言ったか?
俺は何か失礼があったかと思い、おっさんの方を見た。
しかしおっさんも困惑した表情を浮かべている。
「ぷーーーーーーーーーーーーーっ!」
するといきなりセレブなおばさん達が吹き出した。
あっけにとられる俺とおっさん二人。
え?え?一体何がおかしいんだ?なんか変な事言ったか俺?
「あなたまさか、私達がプレートを買うとか、そんな事を考えてらっしゃるのではありませんわよね?」
はあ?それ以外に何があると言うのだろうか?
「あの、本日はスタンドプレートを購入しに来られたのではありませんでしたか?」
ウルバノのおっさんは、頭に?マークを浮かべながらおばさん達に質問していた。
さっきまでの話の流れだと、スタンドプレートの購入に凄く前向きに見えたぞ。
いやむしろ、あの会話の流れで購入しないと言う選択があるんだろうか?
「何故私達がこんな貧相な潰れかけのお店で、スタンドプレートを購入しなければなりませんの?」
「へ?」
相手の言ってる事の意味がわからず、思わず間抜けな返事をしてしまった。
「私達はいつも首都にあるプレートストア専門店で購入していますのよ」
はあ!?じゃあなんでアスタリータ商店に来たんだこいつらは?
「えっと、じゃあ当店にはどういうご用件で?」
「ここには、スタンドプレートが展示されていると聞きましたの。それで奥様方とご一緒に、現物を見に行きましょうとなりましたのよ」
え?じゃああれか?とりあえず下見をアスタリータで済ませて、商品は最初から専門店で買うつもりだったって事か?
ええええええええ!?
それはあんまりじゃね・・・。
いや、それは有りか無しかで言えばありだと思う。
でもそれを、当の本人達に言うってのはどうなんだよ・・・。
しかもあれだけ期待させといてさ。
なんつーか、怒りより疲れと呆れがどっと押し寄せてきたわ。
何のために一生懸命説明したと思ってんだよ・・・。
隣を見ると、おっさんも諦めた顔になってる。
まあ、俺なんかよりもこういう場面には何度も出くわしてきただろうしな。
はあ。
「なーお」
俺とおっさんが疲れ切った表情でおばさん達を見ていた時だった。
なんかどっかで聞いた事があるような「鳴き声」が聞こえて来たんだが・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます