第83話 アスタリータ専属癒しエルフ(予定)
「では、アスタリータ商店の最終的な営業目標や予定を考えていきたいと思う」
皆が集まったアスタリータ家のリビングで、ウルバノさんが宣言した。
集まりにはリーノも参加している。
なんでもしばらくの間、イノシシの捕獲を手伝ってくれるのだとか。
多分と言うか間違いなくロザリアに良い所を見せたいと言う下心と俺に対するライバル心とで、動機100%を占めていると思うが、理由は特に問わないので問題ない。
いつまでも俺にライバル心を向けられるのも面倒なんだけど、それでアスタリータ家が助かるなら安いもんだよな。
なので悪いけど、俺はロザリアが付き合ってる相手についての真相を伝えるつもりは全く無い。
いつまでも俺をライバル視して、気付いた時には手遅れになるがいいわ!
「お前、なんつーぶさいくな顔してやがる」
気が付くと、ウルバノさんを始め、リビングに集まった皆が俺の顔をのぞき込んでいた。
どうやら、ずっと一人で百面相をやっていたようだ。
「お前馬鹿じゃねーの?」
リーノから真顔でそう言われてしまった。
くっそー!頭に来るので、こいつに真相を告げた瞬間の事をニヤニヤ妄想しながら、今日は寝ることにしよう。
実は、本来ならサランドラの人達も参加する事になっていたのだが、緊急の仕事が入ったとかでフィリッポさんが来れなくなってしまった。
なので、正式にアスタリータを担当してくれることになった「マリアンナ」さんだけ、今回は参加してくれることになった。
彼女は何故か、俺の隣でソファーの上で正座で会議に参加している。
どうも相当緊張しているようだ。
「でだ、今決定している事をコレナガから説明してもらう」
そんな事を考えていたら、ウルバノさんから話を振られたので、とりあえず今決定している事を説明していく。
「まず、アスタリータの「売り」として、イノシシ肉を前面に出していきます」
これはカンパーナには無い強みだ。
イノシシは、狩るのが非常に難しい動物で、しかも猟師の数も年々減ってきているのだとか。理由は割に合わないから。
なので、流通している数が非常に少ない。
なので、取り扱う事そのものがカンパーナに対しての強みになる。
「また、イノシシ肉や鶏肉を屋台で提供していきます」
これは今回新たに始める商売だが、時間を絞れば商機は絶対にあると思っている。
あの匂いをお昼時に嗅がせられたら、絶対食べたくなると思う。
「あと、これはまだお話ししていなかったのですが・・・」
ここで俺は、スタンドプレートの注文制に関する話をアスタリータ家の面々に説明する。
もちろん、月末までの限定である事も説明した。
「じゃあ、秋の月の末までは、仕入れなくても良いって事か?」
「はい。なので、頑張ってスタンドプレートの注文を取ることにしましょう」
「いや、お前そうは言うがなあ・・・」
「気持ちはわかりますが、やるしかありません」
「むう」
ウルバノのおっさんが愚痴りたくなる気持ちはわかるが、それを今言っても仕方ない。
それにしても・・・。
俺は、俺の隣でソファーの上で正座で座っているエルフのお姉さんであるマリアンナさんを横目でちらっと確認した。
以前、サランドラ商会で会った時は気付かなかったのだが、中々個性的な女の子だと言う事が判明した。
今日、フィリッポさんが来れなくなった事を来て早々に謝罪してくれたんだが、いやもう、ウルバノのおっさんに対してビビりまくってるのが目に見えてわかった。
「も、申し訳ありまひぇん!」
つって、声裏返ってたもんなあ。
で、俺達の作業がまだ終わってなかったんでリビングで待ってもらっていたんだけど、
「どうしようどうしようどうしよう絶対アスタリータの人怒ってるよね。大体大事な話するってのに責任者が欠席とかありえないし、なんでそんな時に限って私が出席になるの意味わかんないし!あーでも私担当になったんだった!無理無理無理無理絶対無理!あんな怖いおじさんと一緒とか絶対無理!」
こんな事をずーっとぶつぶつつぶやいてるんだぜ。
大事な話し合いの前だってのに、思わず吹いちゃったよ。
たぶん今も「早く終わってーーー!」とか心の中でずーっと言ってるんだろうな。
つーか、大丈夫なのかこの人が担当で・・・。
でもとりあえずかなりの美人なので、勝手に俺の癒し担当に任命させてもらおう。
どじっこエルフの癒し担当とか、たまらない設定だな。
おっと、いかんいかん。マリアンナちゃんの事はこれくらいで終わっとこう。
「あと、店のレイアウトは基本的に以前のままで良いですよね?」
とりあえずスタンドプレートの話は無しって事で、俺は店のレイアウトに言及した。
基本的なレイアウトってのはこの世界にもあるらしく、あまり奇をてらっても仕方ないという事で、スタンダードな路線で行く事に。
ほら、でっかいスーパーに行くとさ、たまに安売り商品が、本来のカテゴリーとは違う場所で売ってたりして、わかりにくい事あるじゃん?
で、しばらくすると売り場が他の商品に変更になってたりして客が混乱したり。
出来るだけそういう事態は作りたくなかったんだよな。
まあそこは、善し悪しだとは思うんだけどね。
これについてはウルバノのおっさんも「そんな変な意外性なんかいらん」と同意見だった。
「それで、後は実際の人員の配置について確認したいと思います」
今度は人員をどう配置するかだ。
実は、俺とユリアーナとエレオノーレさんの適性を見るために、ちょっと前に簡単なテストを行った。
結果、エレオノーレさんは売り場でお客様対応、ユリアーナは魔法の腕を見込まれて狩りへ、俺はサランドラへの買い付け&店内の清掃及びメンテナンスとなった。
「お前さんは接客は無理だ」
ぴしゃりと言われたね!知ってたけどね!元々そんなつもりも無かったし!
別に「気が利かねえ」とか「要領が悪い」とか言われた事は全然気にしてないし!
いかん、おっさんに言われた事を思い出してたら、なんか急にやさぐれてきた。
こんな時は俺の癒し担当に勝手に任命したマリアンナちゃんを見るに限る。
そういうわけで、俺は再び横目でマリアンナちゃんを見てみた。
彼女、話し合いがもうすぐ終わりそうな雰囲気を読んで、あからさまにほっとした表情になっている。
確かに、会議はもうすぐ終わるだろうと思う。しかしこれは面白くない。
そもそも今日の会議は、事前にある程度決めていた事を今回は再確認する意味合いの強い集まりだった。
なので大きな混乱があるわけもなかった。
なので俺としては、目の前にいるこのエルフのお姉さんに少しちょっかいをだしたくなった。
まあホント言うと、さっきから全く話し合いに参加できずに完全アウェイと化していたから、少しは打ち解けてもらえればという俺なりの配慮だ。
なんせこれから長い付き合いになるんだからね。
なので、
「そういえば、マリアンナさんは何か意見はありませんか?」
話が途切れた所のタイミングを伺って、マリアンナちゃんにそう話しかけた。
「ふぇ・・・?」
完全に油断してたのか、一体自分が何を言われたのか理解をしていない様子のマリアンナちゃんが、紅茶のカップを手に俺の方を見る。
「ふえええええええええ!私ですか!?本当に私ですか!?」
完全に涙目で俺に「何かの間違えでは無いか!?」と俺の肩を揺さぶりながら訴えかけてくるマリアンナちゃん。やばい!予想外に動揺しておられる。
「えっと!えっと!あーどうしよう!」
本当なら心の中で考えるようなセリフを口に出しナガラ頭を振っているマリアンナさん。
いかん!これは親睦が深まるどころか、逆にマリアンナさんのトラウマになってしまいかねん!
「あの!特になければ無理に答えなくても構いまs・・・」
「あのですね!」
俺の言葉を遮って、大きな声で意を決したようにマリアンナちゃんが話し出した。
「実は私、実家暮らしなんですが、夕食の担当は当番制になっているんです!」
なんか実家の話をしだしたぞマリアンナちゃん。
「それでですね!当番の時には、私がスーパーに買い出しに行く事になっているんですが、色んな商品が並んでいるのを見ると、ますます献立決めに迷っちゃいますね!いっそメニューが決まってたら良いのに!」
そこまで一気にまくし立てて、ゼイゼイと息をしているマリアンナちゃん。
や、やべえ。この人大丈夫かまじで・・・。
つーかフィリッポさんは、なぜにこの人をアスタリータの担当にしたんだ?
はっ!もしかして俺ら嫌われてる・・・?
「おい、お前何わけのわかんねー事・・・」
「ちょっと待ってください!」
あまりのマリアンナちゃんのエキセントリックぶりに、ウルバノのおっさんが何かを言いかけた所で、エレオノーレさんがそれを遮る形で発言した。
「えっと、マリアンナさんの今の話を聞いてちょっと思ったんですが・・・」
エレオノーレさんが、意見を言っても良いかを皆に確認する。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
俺の返事を得て、再びエレオノーレさんが話し始めた。
「マリアンナさんの話を聞いて思ったんですけど、毎日の夕飯のメニューを貼りだしてみたらどうでしょう?」
「あん?どういう事だ?」
ウルバノさんが思わずそう尋ねた。
というか、俺もどういう事なのかよくわかってない。
「えっとですね、さっきマリアンナさんが言われた通り、毎日の献立を考えるのって大変なんです」
「ああ、それよくわかるよー。私もいっつも悩んでたもん」
それに同意するユリアーナ。
俺なんかは、飯なんか適当に済ませてた派なんで、そこまで考えたことは無かったけど、アンネローゼとかも毎日のメニュー作りは大変だったのかなあ。
「それで、お店の方から毎日の夕飯のメニューを、そうですね、まずは1週間分を提案してみてはどうかと思ったんです」
なるほどねえ。
ここにいる女性陣のほとんどがメニューを決めるのに苦労してるのなら、この案は来店したお客に大変喜ばれるかもしれない。
「いやけどさ、そのメニューって誰が考えるの?」
「そうなのよねえ・・・」
ユリアーナが物凄い渋い顔で質問して、それに困った顔で答えるエレオノーレさん。
あーそっか、ただでさえ大変な献立作りを、それも1週間分を考えるとなると、かなり大変な気がするわ。
「あ、それなら良い案がありますよ」
俺はめちゃくちゃ困り顔をしている二人にそう話しかけた。
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