第77話 倉庫整理と屋台

 さて、いよいよ売れるものは売り尽くした。

 なので俺達は、リニューアル後も販売する生鮮ではない商品を、倉庫へと移す作業を行っていた。


 これからは、店内の整理やリニューアル後の売り場配置、そして何を武器に戦っていくのかを決めていかなければならない。


 俺は現代日本のシステムに関する情報は持っているけど、実際の売り場での経験は、応援スタッフとして参加するくらいでほぼゼロだ。


 なので、経験豊富なアスタリータ家の面々にがんばってもらう必要があるんだけど、彼らも今まで極めてオーソドックスなやりかたで店を経営してきたので、改めて新しい何かを!と、言われても、それはすぐには出てこないだろう。

 そしてそれは、そういった経験のないエレオノーレさんとユリアーナも同じだと言える。


 どうしたものだろうか・・・。


「ちょっとシンちゃん!ぼーっとしてないで、さっさとその荷物運んでよ!」


「あ、すみません!」


 ぼけっと考え事をしてたらユリアーナに怒られた。

 いかんいかん、今はとりあえず目の前の作業に集中だ。


 ごつっ


「いってえ!」


 これ以上ユリアーナに怒られないよう、はりきって作業をやろうと思ったら、何かに足をぶつけてしまった。


「ちょっと何やってんのよシンちゃん・・・」


「大丈夫ですか?」


 ユリアーナとエレオノーレさんが同時に声を掛けてくる。


「いや、なんか、足をぶつけちゃって・・・」


 ぶつけた方をみると、何やら屋台のようなものが、倉庫の端っこに放置されていた。


「これは・・・」


「それは屋台だ」


 声の方向に向き直ると、ロザリア父が居た。


「これ、屋台ですか!?」


 確かによく見ると、上面には何かを焼くような鉄の網のようなものがあるがある。

 ただ、使ったような形跡はほとんどなく、少々ほこりをかぶっている事を除けばかなり綺麗な状態だ。


「おう。俺が副業でやろうと思って購入してたんだが、結局一度も使わなかった」


「え?飲食店と同時に、屋台もやろうとしてたんですか?そりゃ無茶でしょう」


「違う違う。飲食店を諦めた時に、屋台ならできるだろうと用意したんだよ」


 ああ、なるほどねえ。

 両方同時にやろうとしてるのかと思ったぜ。いくらなんでもそりゃ無茶だからな。


「けど、そんな余裕無くなったからな」


「なるほど・・・」


 と言うか、この世界にも屋台とかあったんだね。

 あれか?地球人の影響なのか?


そしてその夜、俺達はアスタリータ家の一室で、今後のアスタリータ商店の事について意見を交わしていた。


「とは言ってもなあ、俺もこれまでやってきた経営以外の何かをと言われても、急には思いつかん」


 ウルバノさんが思いつめたような表情でそう言った。


「でも、カンパーナが出来る前は、それで上手くいってたんでしょう?」


「おう、まあな」


 俺がそう聞くと、ちょっとだけ得意げにウルバノさんは答えて来た。

 という事は、ウルバノさんの経営方法は特に間違ってはいなかったんだろう。

 正解では無かったというだけで。

 けど、それを言うならカンパーナだって正解ではない。

 でも何が正解なのかわからない。


「まずはやらなきゃいけない事を再確認しましょう」


 こういう時は、すでに決定している事を皆で再確認して、ここにいる全員が同じ認識を持つことが大事だろう。


「まずは、価格をこれまでよりは下げる。これは決定で良いですね」


「おう」


 俺の言葉にウルバノさんが頷く。

 俺達がアスタリータ商店に来たばかりの頃は、価格がカンパーナの倍近くする商品も多かったんだ。

 そんな事をやっていたら、とても共存は無理だろう。もちろんアスタリータが先に潰れると言う意味で。


「後は品切れを起こさない事かな?」


「カンパーナの売り場状況があまり良くない現状では、それもある程度有効だと思いますね」


 ロザリアの意見に俺も賛同する。

 これがずっと有効な手になるとは思えないが、客のアスタリータへの印象が悪くなることは無いだろう。

 まあ、カンパーナが、売り場のメンテナンスにも力を入れ始めるまでのつなぎでも構わないさ。


「それから・・・」


 ロザリアの声はそこで止まった。

 そう、いつもこうなんだ。

 アスタリータ商店を復活させるための「目玉」の話になると、いきなり会話が進まなくなる。

 もちろん色々考えてはいるけど、俺は売り場をメインでやったことがない。

 アスタリータ家の面々は、オーソドックスな経営をこれまでやってきている。

 いきなり「これまでとは違う何か」をやれと言っても、それは無理だろう。

 そして、エレオノーレさんとユリアーナは完全に素人だ。


 はあ、どうしたもんかなあ。


 結局その日はこれと言った案も出ず、会議はお開きとなった。

 みんな昼間の作業で疲れてたしね。



 次の日、俺達は昨日に引き続き、倉庫に商品を移す作業を行っていた。

 倉庫と言っても、ウルバノさんが飲食店をやろうとしていた店舗を倉庫代わりに使うって話なんだけどな。


「あれ?」


「どうしたのシンちゃん」


「いえ、そういえばこの屋台は、このまま倉庫に置いとくのかなと思いまして」


「別に良いじゃん、そこに置いとけば」


「構わないんですが、その場所は店内に近いので、出来ればよく売れる商品を置きたいなと思いまして」


「じゃあ古い倉庫の方に持って行っていいか聞いてみたら?」


「そうします」


 そう言って、俺はウルバノさんの所へと向かった。

 たぶん勝手に動かしても何も言わないだろうけど、一応許可をもらわないとね。



「屋台?そんなもん勝手に移動させれば良かったのに」


 まあ、このおっさんならそういうと思ったよ。

 俺は店内で商品を箱に詰め込む作業をやっていたウルバノさんとソニアさんの所へ来ていた。


「ええ、ですが、一応大事な商売道具ですし、許可をもらおうと思いまして」


「商売道具と言っても、今後使う予定もないけどな」


「もったいないですね」


「そうは言っても仕方ねーよ。そいつに付きっきりになるわけにもいかねえ」


 まあ、そうだよな。

 祭りの縁日みたいに、期間中限定で屋台を出すとかならいけそうな気もするけどな。

 あとはコンビニみたいに、作り置きできる装置とかあればなあ。

 そしたらさ、屋台で作った料理を、店のすぐそばにあるこの飲食店になるはずだった場所で買い物帰りにちょっと一息、何て事もできるのにな。

 うまくいかないもんだぜ。


 そしてその日も日暮れと共に作業を中断し、俺達の仕事は終了した。

 

 

「そういえばウルバノさんて、あの屋台で何を焼こうとしてたの?」


 夕飯を食っていると、いきなりユリアーナがそんな事を言い出した。


「んなもん肉に決まってる」


「そんな事わかってるよー!何のお肉かって聞いてるんじゃん!」


 ユリアーナはぷんすか怒りながら文句を言っていた。

 しかしユリアーナの奴、よくもまあ、あの強面のウルバノさんにそんな態度が取れるぜ。

 俺なんかびびって、とてもじゃねーが文句なんか言えねーよ。


「イノシシ肉だ」


「ええ!イノシシ肉焼いちゃうの!?」


「ああ、そういやお前らリバーランドの奴らは、イノシシ料理って言ったら煮込み料理になるのか」


「だって、焼いたらあの独特の匂いが残っちゃうじゃん!」


 ユリアーナとウルバノさんが、なんか知らんが料理談義をおっぱじめた。


「ロザリアさん」


「なんです?」


「イノシシの肉って、焼いたら匂いがするの?」


 イノシシ肉なんか生まれてこの方食べたこともない俺は、イノシシのプロフェッショナルに聞いてみた。


「あーそうですねえ。独特の癖があるとでも言うんでしょうか。気にならない人は気にならないみたいですけど」


「へえ」


 アスタリータ家で出されたイノシシ料理は、これまで全て煮込み料理だったので、全く気付かなかった。


「まあ、そのまま焼いたらちっとは匂うかもな」


「そのままじゃない方法があるの?」


「おう!特製のたれに漬け込むんだよ!」


「へえ、初めて聞いたよ!」


「じゃあ明日作ってやろうか?」


「いいの!?」


 ユリアーナが身を乗り出して食いついた。


「おう!俺が最高のイノシシの焼肉を食わせてやるよ!」


「やったー!」


 ユリアーナの奴、ご飯中だと言うのに立ち上がって喜んでやがる。

 まあ、俺も実はちょっと嬉しいんだけど・・・。

 だって、イノシシ肉なんて食う機会なんて無かったんだよ。


 まあ、あんまり根詰めて作業しても体に悪いし、たまにはこういうのも良いだろ。

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