第72話 閉店セールの準備
アスタリータ商店のリニューアルオープンに備え、まずは閉店セールの準備を俺達は開始した。
まずは価格の改定だ。
まずは85フォルンだったキャベツを45フォルンへ。
「おい、それは安すぎないか!?カンパーナより安いぞ!?」
俺が値段リストを書いていると、ロザリア父が信じられないものを見たというような表情で、俺に叫んできた。
「安すぎじゃないですよ。商品が腐る前に全品売りさばくのが目的ですから。それに閉店セールなんですから、びっくり価格で提供しないと意味がないです」
閉店セールは品物を処分する事だけが目的じゃないんだ。
真の狙いは「リニューアルオープンしますよ」って事を宣伝する事だ。
なので、出来るだけお客さんには大勢来てもらい、大いに噂にしてもらいたい。
「む、むう、しかしだな・・・」
「お父さん!ごちゃごちゃ言ってないで、自分の仕事をしてください!」
「す、すまん」
ロザリア父、ロザリアさんに怒られて小さくなっていた。
今やっている作業は、俺が値段リストを作り、エレオノーレさんとユリアーナで商品名と価格が表示された「ポップ広告」を製作している所だ。
値段リストは本来、ウルバノさんがするべき事なんだが、あのおっさんは「もったいない」精神が働くらしく、どうしても利益を上乗せした価格を提案してくるんだよ。
なので俺が代わりに価格リストを作っている所だ。
で、俺が設定した価格を見て、さっきの「安すぎる」発言に繋がっている。
この価格設定は会議で説明したように、利益を出すことではなく、商品を現金に換えてしまう事が目的だ。
なので利益の事は二の次で価格を決めている。
ロザリアとロザリア母は、店に隣接している倉庫で、俺が頼んだ仕事をこなしている。
その仕事とは「リニューアルオープンの為、一時的な閉店のお知らせ」広告を書くことだ。
これを見てもらわないと、今回の閉店セールの意味が全くなくなってしまうので、店頭に、でっかい木製のキャンパスのような物を設置し、それにお知らせを貼ることにした。
今回に限っては幸運な事に、同じ通りにカンパーナストアがあるため、人通りはかなり多い。
買い物しない人の目にも留まるようなお知らせを設置すれば、それだけで宣伝になると思っている。
「それにしても・・・」
「どうかしましたか?」
俺の独り言のようなセリフにロザリアが反応する。
「いえ、この倉庫なんですが、倉庫にしてはやけにお
なんかさ、倉庫の入り口もセンスの良いドアが付いていて、倉庫には全く見えないんだ。
どっちかって言うと、ストアの方が倉庫に見えなくもない。
「ああ、それはですね、ここって元々倉庫のつもりで作ったわけではないんですよ」
「そうなんですか?」
「はい。店舗で余りそうな食材などを使った軽食屋を営業するつもりだったんです」
なるほど。どうりで倉庫にしちゃお洒落なドアや構造になっているわけだ。
「という事は、この床の素材がこちら側とあちら側で違うのは、厨房とホールの違いですか?」
「そうなんです」
なるほどね。ちょうど俺達がいる場所から向こう側は、比較的綺麗な床素材を使っている。
「でもなんで倉庫になっているんです?」
「カンパーナがオープンして、それどころではなくなってしまって・・・」
「ああ・・・。すみません、余計な事を聞いてしまいました」
「いえ、気にしないで下さい。元々お父さんの一存で始めようとしたことですから」
「そうなんですか?」
「はい。お父さん、余った食材をどうにか出来ない買ってずっと考えてて」
なるほどなあ。一応あのおっさんも考えてはいたのか。
でもそれなら・・・。
「あの、店舗をどなたかに貸し出す事は検討しなかったんですか?」
今は倉庫になっているとはいえ、綺麗な使い方をしているので、借り手はいると思うんだが。
「それが、本来の倉庫よりこちらの方が使いやすいとお父さんが・・・」
「あれ?ウルバノさん、軽食屋に思い入れがあるとか、そういう事ではないんですか?」
「いえ、単に売れ残りをどうにかしたいだけみたいですよ」
それで店舗を造ったのか。ある意味すげえな。
まあ今は、便利な倉庫として活躍してるみたいだし、それはそれでいいのか。
「コレナガさん、看板出来ましたけど、これでいいのかしら?」
ロザリアとそんな事を話していると、ロザリア母がやってきて俺に看板を見せる。
【リニューアルオープンのお知らせ】
日頃アスタリータ商店をご利用いただき、誠にありがとうございます。
アスタリータ商店は、2週間後の秋色の月4日にリニューアル致します。
その為、現在店舗にある食料品の在庫を売り尽くす、セール価格で販売いたします。
この機会に、どうぞアスタリータ商店をご利用くださいませ。
再オープンは上記も書かせて頂きましたが、
秋の月4日
となります。
尚、リニューアルオープンの準備の為、食料品が無くなり次第、一時的に休店させて頂きます。
今後ともアスタリータ商店を、どうぞよろしくお願いいたします。
「おお!いいじゃないですか。再オープンの日もばっちり目立ってますね」
俺は特に指示したわけじゃないが、再オープンの日付を目立つように書いてくれていた。
あと、あくまでも「再オープン」をメインにして「閉店」の印象が付かないようにも気を使って文章を書いてもらうように頼んだんだ。
閉店を強調すると、ついにアスタリータも潰れるのかって思われかねないしね。
「でも、再オープンの日を決めてしまって良かったの?」
いつの間にか倉庫に来ていたユリアーナが、看板を見て俺にそう聞いてきた。
腕を上にあげて背筋を伸ばしているので、軽く休憩をとっているんだろう。
「お疲れ様ですユリアーナ。でも、何故そう思うんです?」
「だって、商品が思ったより早く売り切れちゃったらさ、それだけ早く再オープン出来るじゃん?」
ああなるほどね。確かに、オープンの日を明言しなければ、商品の売り切れ具合によって、それだけ早く再オープン出来る可能性はある。
けど、問題もあるんだよ。
「早くオープン出来るのは確かに利点だと思います。でも、お客さんに再オープンの日をどうやって伝えるかと言う問題もあるんです」
「どういう事?」
「オープンの日を予め伝えておくと、予定は変更できませんが、その日にオープンするという事を大勢のお客さんが認識できます」
「うん」
「で、オープンの日を決めずに、準備が出来た段階でオープンした場合、それをどうやってお客さんにお知らせするのかという問題が出てきます」
「そんなの店を開いちゃえば、みんなわかるんじゃないの?」
「それはそうです。ですが、全く目立たないでしょうし、話題にも上らないかもしれません。いつの間にかオープンしてたでは目立ちませんので」
オープン日を決めとけば、看板を見た人の多くに「2週間後再オープン」という、共通の認識を持たせることが出来る。
もちろん共通の話題にもしやすいだろう。
中には「実はこのまま閉店するんじゃ?」と考える人もいて、それが噂になる可能性もある。
でも、それはそれでいいと思うんだよ。だってそれを確認しに来る人もいるだろうしね。
「ふーん、そんなもんなんだ」
「でもまあ、開店日が分かってた方が、ユリアーナも便利でしょ?」
「それはそうかも」
「そういう事ですよ」
納得したのかどうかはわからないが、ユリアーナはそのまま自分の仕事へと戻っていった。
彼女は彼女で色々考えてくれてるんだろう。
俺もここまで店のオープンに関わったことは無いので、色々意見を言ってくれるのは正直助かっている。
今となってはどうにも出来ないが、日本に居るときにもうちょっと真剣に仕事してればな~とつくづく思うよ。
「あら、もうこんな時間」
ロザリア母の言われて時計を見ると、すでに0時をまわっていた。
「コレナガさん、明日はカペリ商店とサランドラ商会へ行かれるのよね?」
「はい。カペリには再オープンする事は伝えてあるので、価格交渉を行ってきます。サランドラは挨拶と、出来れば交渉もと思ってるんですけどね」
これまでほとんど取引が無い両者なので、トントン拍子に話が進むかどうかは正直わからない。
まあ最悪、オープンからしばらくは、これまでと変わらない価格での取引を覚悟するしかないだろうなあ。
でも、ずっとそれじゃダメなんだ。何か考えとかないとな・・・。
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