第67話 偵察!カンパーナストア

「いやあ、そうでしたかあ!それは娘がお世話になりました!」


 そう言って豪快に笑うロザリア父。

 いやあ、まじでどこに同じDNAが存在しているのか全くわかんねーわ。


 ロザリアの親父さんは、自分の娘から俺達と一緒になった経緯を聞いていた所だ。


「いえ、こちらも森で迷っている所を助けて頂き、本当に助かりました」


 エレオノーレさんが丁寧なあいさつをロザリア父に返す。


 本当に、エレオノーレさんが俺達に同行してくれたのは助かってる。

 俺とユリアーナだけだったら、道中絶対どこかで野垂れ死にしてる気がする。


「皆さんが取ってきてくれたこのイノシシで、この1週間はなんとか食いつなぐことができます!」


 そう言って豪快に笑うロザリア父。

 いや、なんか微妙に笑えねえワードが出てきてるんですが・・・。


 実はさっきからこうやって話している間も、まったく客が入ってこないんだよこの店。店の雰囲気は悪くないし、品物の鮮度も特にひどい所があるわけじゃない。品揃えも、まあ普通だろう。気になる点はあるけどね。


「あ、いらっしゃいませー!」


 誰も客が来ねーとか言ってたら、ようやく誰か来たようだった。

 邪魔しちゃ悪いので、自分達も他のお客の振りして店内を回ることに。

 すると、客とロザリア父のやり取りが聞こえてくる。


「はあ、相変わらずこの店高いわねえ」


「も、申し訳ありません・・・」


 そう言って、2メートルちかい体で頭を下げるロザリア父。


「あそこのスーパーじゃ、このキャベツ、半額で売ってるわよ」


「ホント申し訳ありません。ですが、うちじゃこれが限界でして・・・」


 ええ!向こうが半額って事は、逆を言えば倍の値段でこの店では販売しているって事か?

 そりゃあ売れるわけねーよ・・・。


「うーん、仕方ないから買うけど、こんな値段じゃやっていけないと思うわよ?」


「はい、申し訳ありません・・・」


 え?買うの?倍なのに?

 一体どうなってんだ・・・。向こうが半額なら向こうで買えば良いと思うんだが。

 あ、もしかしてちょうど品切れてたとかの可能性もあるのか。


「いやあ、お恥ずかしい所を見せちまった」


 接客を終えたロザリア父が戻ってきた。


「いえ、とんでもない。それよりもですね・・・」


 俺は聞いて良いのかどうか迷ったが、好奇心が上回ったので、ロザリアの親父さんに質問してみることにした。


「さっきのお客さん、キャベツが向こうのお店の倍だって言ってた気がするんですが・・・」


「あ、うーん、それか・・・」


 親父さん、凄く言いにくそうにしてるなあ。やっぱ聞かなきゃよかったか?


「向こうのスーパーにお客をとられてしまったんです」


 答えはロザリアから帰って来た。


「おい、ロザリア!」


「いいじゃない!本当の事だし!」


「う、うーん」


 さっきの客とのやり取りも全部見られていたからか、親父さんは観念したように全部話してくれた。


 事の始まりは半年前。同じ通りに、スーパーストア「カンパーナ」のグリーンヒル店が出来た事が原因だったようだ。

 カンパーナは、それまでのグリーンヒルの小売店の平均価格をさらに下回る価格で攻勢をかけてきたらしく、アスタリータ商店以外の個人商店が、次々と店をたたんでいく事態が発生したそうだ。


 もちろんアスタリータ商店も例外なく低価格攻勢の波に揉まれたが、この土地独自の「グリーンヒル猪」の肉の燻製などを販売して、なんとか持ちこたえてきたみたいだ。

 だからさっき、俺達に猪を取られたと思ったロザリアは、あんなに取り乱してしまったんだろう。

 しかしそれだけでどうにかなるわけもなく、商品価格を上げるなどして、なんとか日々を乗り越えているらしい。


「しかし、商品価格を上げてしまったら、ますますお客が来なくなるのでは?」


「いや、元々客が少ねえから、価格を上げた分だけは利益が上がった。店への信用度をごっそりと減らしながらな・・・」


 うわあ、自分で話しながらすげえへこんじまったよ親父さん。


「それにしても、これだけ高いとわかってるのに、なぜお客さんはこのお店に来るんでしょうか?」


 さっきのお客さんもだけど、この店が高いと知ってるのに、あえてやってきたわけだよな?

 倍はするとわかっているキャベツも買っていったから、冷やかしなんかじゃない。

 しかも、「相変わらず高いわねえ」と言っていたって事は、リピーター、つまり常連客であるって事だ。


「それは、俺もわからん。聞くわけにもいかんし・・・。ただなあ・・・」


「なんです?」


「いやそれがさ、なんかこう、キャベツならキャベツだけ、リンゴならリンゴだけとか、単発での買い物ばっかりなんだよな」


「え?今日の夕飯のおかずを買いに来るとかじゃないんですか?」


「違う。前はそうだったんだが、今は単発の買い物がほとんどだ」


 そういやさっきのお客さんもキャベツだけ買っていったな。

 さっきの客だけならともかく、単発の買い物客だけってのは気になるな。

 これはたぶん、新しく出来たっていうスーパーストアに何らかの答えがあるんじゃないだろうか?


 まあ、そうは言っても俺には関係ない話なので、これ以上深入りするのもあれだろう。

 今日の宿も探さないといけないし、この辺りで帰る事にしよう。


「ねえ、そのスーパーに偵察に行ってみようよ!」


 俺が店を出ていく気満々でいると、突然ユリアーナがそんな事を言い出した。


「いやいや、僕らみたいな素人が偵察に行っても何もわかる事なんてありませんよ」


 この人は突然何を言い出すんだ!

 もう俺としては、早く宿を探して、ティルデ捜索の準備なんかを始めたいんだよ。


「シンちゃん何いってるのよ。シンちゃんは経済の専門家じゃん」


「え?そうなんですか!?」


 ロザリアが、目を輝かせながら俺の方へ詰め寄ってきた。


「そうなんだよー。シンちゃんはこう見えて、リバーランドでは大きなプロジェクトを任されてたんだよ」


「そうなんですか・・・。若いのにたいしたもんだ・・・」


「いえいえいえいえ、僕なんか末端の・・・」と言いかけてると、後ろからもう一人女性が現れた。


「リバーランドの大きなプロジェクトって、もしかして「著作権プロジェクト」かしら?」


「え!?」


「あら、ごめんなさい。私、ロザリアの母のソニアと申しますの。よろしくお願いしますね」


「あ、こ、こちらこそ。シン・コレナガと申します!」


 そう言って、今更ながら自己紹介が始まった。ちなみにロザリア父は「ウルバノ」さんというらしい。

 それにしても・・・。


「それにしても、よく著作権プロジェクトをご存知でしたね」


 俺の代わりにエレオノーレさんが質問する。彼女も何故ソニアさんが知っていたのか疑問だったんだろう。


「いえね、私も、仕入れと取引の為にリバーランドまで足を運ぶことがありますの。なので、今リバーランドが新システムの事で話題が持ちきりなのも耳に入ってきますのよ」


「なるほど・・・」


「シンちゃんは、その国家的プロジェクトの中心人物だったの。だから、実力はお墨付きなんだよ」


「ちょ、ユリアーナさん、何を言ってるんですか!」


「え?だって本当じゃん」


「いや、確かにプロジェクトにはかかわってましたけど、あれは僕一人の力でどうにかできたものじゃなくてですね・・・」


「お願いがあります!」


 俺とユリアーナが言い争ってると、突然ロザリアが大きな声を出してきたので、ぎょっとしてロザリアの方を振り向くと、なんと彼女が地面にこすりつけんばかりに頭を下げている。


「ちょっと!ロザリアさんなにやってるんですか!」


「お願いしますコレナガさん!私達を、いえ、この店を助けてください!」


 そういって、彼女はますます深く頭を下げてくる。


「おい、ロザリアどういうことだ!」


 突然、土下座せんばかりの娘の行動に驚くウルバノさん。

 そりゃそうだよな。なんつーか、俺が一番びびってるわけだけど!


「お父さんもわかってるでしょ?このままではじり貧だって事!今は何とか持ちこたえているけど、それもいつまで持つかわかんないよ!」


「う、うーむ」


「今は単価が高くても売れる猪の肉を販売する事で、なんとか日々の生活は成り立ってるけど、肉が取れなくなったらおしまいなんだよ?だったら、経済の専門家であるコレナガさんに助言してもらおうよ!」


 いやあ、助言つったって、俺、大したことできないですよ?

 日本でも仕事が出来ずにクビになったんだし・・・。

 俺がそんな事を考えていると、今度はロザリア父と母も頭を下げてきた。


「どうかお願いしますコレナガさん。グリーンヒルでの宿泊や食事の手配はもちろん、なんらかのお礼も必ずさせてもらいます。どうか、どうかお願いできないでしょうか?」


 そんな事を言われてもなあ。正直、ここまでひどくなった状態の店を立ち直らせる自信なんかねーよ。


 実を言えば、営業で店舗の応援スタッフとして派遣されたことは何度かあるんだ。

 でもそれはあくまでも応援であって、経営側に参加したわけじゃあない。


「ねえシンちゃん、力になってあげようよ!シンちゃんがこれまで、どういう経験をしてきたかはわからないけど、きっと私達とは違う発想をしてくれる可能性はあると思うんだ」


 そう言われても、俺だってスーパーの売り場でなんか働いたことはないんだよ。

 とても有効な助言なんか出来るとは思えない。

 けど・・。

 必死になっておれみたいな奴に懇願してくる相手の手を、パッと振り払えるほどドライな選択は無理なのもわかってた。


「わかりました」


「ほんとですか!」


「ええ。ですが、俺は売る側になった事が一切ありません。だから、俺は気付いたことを提案は出来ます。でも、中心にならなきゃいけないのは「アスタリータ商店」の皆さんだって事は忘れないでください」


「はい!ありがとうございます!」


 ロザリア父は、そりゃあ体全体で喜びを表してたよ。母とロザリアも嬉しそうだ。

 逆に俺は頭を抱えて布団に潜り込みたい気分になってしまった。 

 そもそも俺に出来る事なんてあるんだろうか?

 

 とりあえずは、そうだな。「スーパーストア・カンパーナ」を偵察に行こうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る