第40話 アンネローゼご乱心
アンネローゼは、どうも俺の事を過大評価しているように思えてならない。だって、最近の彼女は、俺を見る目がキラキラ輝いてるもん。
原因は、俺が
そもそも、俺が凄いのではなく、俺の周りの奴らが凄すぎるんだよ。俺はたまたまそんな奴らに目を付けられただけ。
もちろん今回のプロジェクトを発案したのは俺だよ。けど、テレジアが後押ししなきゃ日の目を見ることは絶対無かったし、ベアトリクスの助けが無きゃ、ここまで計画を実行する事は無理だった。
大体本来の俺は、冒険者にもなる事が出来ずに、逆にトラウマを発症させて、戦闘で極度の緊張状態になると体も動かないへたれですよ。自分で言っててへこんできた・・・。
なので、トラウマの部分は言わずに、やんわりと俺が凄いわけでは無いことを話してやった。でも、あれはたぶんわかってない目だったな。まあ、特に害があるわけでも無いし、別に良いかとほっといたのが悪かった。まさかあんな出来事を誘発してしまうとは思わなかったよ。
その日の俺は、いつものようにベッドに横になりながら、人気作家の本を読んでいた。だから、誰かが部屋に入ってきた事にも気付かなかったんだ。
ふと気が付くと、何やら布団がもぞもぞしている。なんだこれ!?俺はびびりながら布団をめくってみると・・・。娼婦も真っ青な、スケスケのネグリジェのようなものを身にまとったアンネローゼがいました。
「きゃああああああああ!何やってんの!?」
慌ててベッドから飛び降りる俺。そして、俺が居なくなったベッドで四つん這いのまま顔を赤くしているアンネローゼ。
「申し訳ございません旦那様」
「え?何が?」
「旦那様のお気持ちに、このアンネローゼ、全く気付いて差し上げられませんでした」
そう言って瞳をうるうるとさせる。やべえ、なんかえろい!そして可愛い!軽い茶色のふんわりしたロングの髪の毛の間から、裸の背中が見えてるのが、これがまたエロ過ぎる!
「えっと、俺の気持ちってなんですかね!?」
すげえ間抜けな質問だが、俺は全く心当たりが無い。
「ですから旦那様が、いかに私の事を求めておいでだったかと言う事をです」
そう言うと、顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。
そして恐らく俺は、それをぽかーんと口を開けて聞いていたに違いない。だって、一緒に住み始めた当初はともかく、最近の俺、そんな事考えたことも無いよ?
もちろん今のアンネローゼには、若干むらむらしてることは否定は出来んが。俺がはてなマークを浮かべるくらい考え込んでるのを見て、アンネローゼも不思議に思ったんだろう。
「あの、ベアトリクス様からそうお聞きしたのですが・・・」
「はあ!?」
あのおばさん何言ってくれちゃってんの!?
「いや、俺、ベアトリクス様とそんな話をしたことは、一度も無いんですけど・・・」
「ですがテレジア様から、「シンは、アンネローゼの事が気になっているみたいだから、協力してあげて」と頼まれたと、ベアトリクス様はおっしゃっていました」
はあああああ!?テレジアから!?いやいや、俺テレジアともそんな話したおぼえがない・・・あ!いや、ちょっとだけ覚えはある。と言っても、別にアンネローゼが気になってると言う話をしたわけじゃない。あれはテレジアに、新居を頂いた事に対するお礼に行った時だった。
「久しぶりね、元気だった?」
俺はその日、テレジア・ロンネフェルト大公閣下の執務室に来ていた。先日、我が家に来たベアトリクスからの伝言通り、テレジアへのプロジェクトの進捗状況の報告に加え、マイホームを頂いた事に関するお礼が主な目的だ。
「はっ、テレジア大公閣下におかれましては、ますますご
「うざい」
ぴしゃりと言われました。
「大体あなた、そういうキャラじゃないでしょう」
一体どんな人間だと思われてんの俺!?今日は仕事が少ないのか、どうもご機嫌なようだ。いつも以上に冗舌な気がする。
「そうねえ、私の事、心の中では呼び捨てにしてるとか」
ちょ!こいつエスパーか!?
「そ、そそそそんな事あるわけ無いじゃないですかあ」
「まあ、そういう事にしときましょうか」
そう言いながらテレジアはニヤニヤしていた。絶対俺の言う事信じてねーだろうなあ。やばい、変な汗出てきそう。
「まあそれは良いとして、新しいメイドはどうなの?ちゃんとやってる?」
「あ、はい。彼女は非常に良く私をサポートしてくれています」
家事全般文句ないし、教養もあるし、気遣いも出来て、なんて出来る嫁子かしら!って感じで、姑よろしく褒めまくったよ
「へえ、そんなに出来る子なんだ」
「それはもう!」
それから、努力家だし手を抜かない真面目な子だしと、親バカのごとく褒めちぎった覚えがある。
「ふーん」
それを聞いていたテレジアの目は、何か考えてるように見えたが、俺は気のせいだろうと結論付けて、その日は帰宅した。そして、2日後の夜、アンネローゼ夜這い事件は起きた。
で、イマココである。
「えっとですね、この件に関しましては、ちょっと誤解があるというかですね、つまりそのえっと・・・」
俺がしどろもどろでアンネローゼに弁解していると、彼女も何かを悟ったらしい。
「申し訳ありません旦那様、私の早とちりだったようです」
そう言うと、うつむきながら部屋を出て行った。
「あ、ちょ・・・」
うわあ、なんかすげえ罪悪感。もっと上手く対処出来ればよかったけど、こんな事に対する経験値が、童貞歴43年の俺にあるわけねえ。とりあえず、明日はベアトリクスを徹底的に締め上げないと気がすまん!
そういうわけで、朝、アンネローゼと若干ギクシャクした雰囲気の中朝食を食べ終え、ベアトリクスのオフィスまで来ていた。俺とアンネローゼの朝食の楽しいひと時が・・・。
ベアトリクスは、研究所の最高責任者であるにも関わらず、誰よりも朝早く出勤するので困っている、との愚痴をルーカスから聞かされていたので、結構早くに家を出たんだ。朝一で来る上司とか、迷惑そのものだよな。俺は別の部署なので、違う勤務地になってるから関係ないけど。
「え?違ったの?」
真顔で俺に言ってくるベアトリクス。
「ちがいますう!」
ベアトリクスが言うには、テレジアが「あれは間違いなくアンネローゼに気がある」って断言するんで、わざわざアンネローゼを呼び出して、街で勝負下着を買ってやったらしい。てか、あのスケスケネグリジュはベアトリクスの趣味だったのかよ・・・。
「なかなか良いセンスだったでしょ?」
「それはもう!・・・じゃなくてですね!とにかく、なんかこう、お互いに気まずくて、今朝もろくに会話も出来なかったんですよ!」
俺の「なんとかしてくれ!」との悲痛な叫びに応じ、今日の夜、家に来てくれることをベアトリクスは約束してくれた。
そして夕方。俺とベアトリクスが揃って家に帰ると、アンネローゼは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに昨夜の事について話があるんだろうと気付いたらしい。
「この度は誠に申し訳ありませんでした。大変なご迷惑をお掛けしてしまいました」
と、自分から謝って来た。そして、すぐにお茶の用意をして参りますと、奥へと戻って行った。
「ほらー、すっかりしょげちゃってるじゃないですか!なんとかして下さいよ!」
「わ、わかってるわよ。あんなに気落ちしてるなんて私も思わなかったわ」
今のアンネローゼは、一番最初に家に来た時よりも他人行儀なってる気がするわ。昨日の夕方までは、楽しく好きな本の話とかしてたのにー!
そして、アンネローゼが応接室に紅茶を運んできたところで、ベアトリクスがタイミングよく、今回の件について言及を始める。
「ホント、ごめんなさいね。私とテレジア閣下が早とちりしちゃった為に」
「いえ、とんでもございません。元々は、たかが奴隷の身分である私ごときが、あのような行動に出たことが全ての原因でございます。かくなる上は、どのような処罰をも受ける覚悟でございます」
「いやいや、処罰とか全く無いし、むしろアンネローゼは全然悪くないし!」
俺はすかさずフォローを入れたよ!やばい!これ完全に心閉ざしてるっつーか、「私は奴隷なのに、何をうぬぼれてたの!?」って、自己嫌悪みたいな感じになってね!?
俺は慌てて、ベアトリクスを肘でつついて、この先の言葉を促した。ベアトリクスのほうも、「あ、やばい」って顔してる。そして出てきた言葉が
「でも、これはシンだっていけないのよ」
「は!?なんでそうなるんです!?」
このおばさん、俺に責任転嫁してきやがったぞ!
「だってあなた、テレジア様にアンネローゼの事べた褒めしてたんでしょ?言ってたわよ、「聞いてるこっちが恥ずかしかった」って」
「そりゃだって事実ですから!炊事洗濯はお手の物、料理も完璧!そりゃもう良いお嫁さんになること間違いなしです!」
「だから、その調子でテレジア様に話したもんだから、てっきりシンはアンネローゼの事が好きなんじゃないかって誤解したのよ」
「まあ、
とまあ、こんな感じで二人でぎゃあぎゃあ言ってたんだが。
「あの!」
突然アンネローゼが割って入った。
「あの私、これからも一生懸命、シン様のお役に立てるよう頑張ります!」
そう言って、ペコリと頭を下げるアンネローゼ。俺とベアトリクスぽかーん。アンネローゼ、何故か超ニコニコ。
「あ、う、うん」
「ベアトリクス様、お夕食はいかがされますか?」
「あ、そ、そうね。頂ける?」
「かしこまりました!」
気のせいかもしれんが、なんか足取りも軽かった気がする。
「なんか、ご機嫌直った感じですかね?」
「そうみたい・・・ね」
俺とベアトリクスは、今一つ釈然としない気持ちのまま、アンネローゼの作った食事を食べることにした。当然その間も、アンネローゼはニコニコと何故かご機嫌で、今ではすっかり元のアンネローゼたんに戻ってくれて、俺としては一安心なのだが。
とりあえず、解決って事でいいの・・・・かな?
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