第五章 リバーランド本国

第32話 リバーランド経済研究所

「す、すっげええ・・・」


 リバーランド王国の首都に着いた俺は、その圧倒的な存在感に、感嘆かんたんの声を上げてしまった。


 町全体を取り囲むように作られた外壁の中には、遠くの高台の上に巨大な城が建っているのがうっすらと見えている。


 そして城の背後には、巨大な山がそびえたっていた。城から外壁にむかってなだらかな下り坂となっていて、しかも、真っすぐに道は伸びてはいないようだ。


「バリーさん、なんで城までまっすぐに道が作られて無いんですか?」


「そんなの当たり前じゃろう。敵が侵入してきたときまっすぐに道が伸びてたら、城までご丁寧ていねいに案内しとるようなもんじゃ」


「はあ、そんなもんですか」


 俺たちが乗っている馬車は、テレジアが乗っている馬車から一つ後ろの馬車だった。というか、まさか俺まで馬車で移動できるとは思わなかった。


「俺は歩きじゃないんですか?」って聞いたら、今ここであなたが歩く事になんの必要性があるの?って逆に言われちゃった。


 しかし外壁の外からじゃわからなかったんだけど、町の内部にも、2重3重の門と城壁が設置してあって、これは攻めるにもなかなか一筋縄では行かないと思う。


 しかし、国のほぼ中央に位置するこの都市を、一体誰が攻めるって言うんだろう?偉い人の考えることはよくわからん。


 そんな事を考えているうちに、迷路のような道路を馬車は迷わずに進んで行き、3番目の門に到達した所で停止した。


「シン、お前はここで降りろ。お前の職場に案内してやる」


「はい!」


 バリーの指示に従って俺は馬車を降りた。テレジアの馬車は止まらずに、そのまま王宮の方へ走っていく。どうやらテレジアとはここでお別れのようだ。彼女にはいくら感謝してもしきれないくらいの恩が出来ちゃったなあ。


 俺はバリーに先導されて、馬車を降りてから左手の方にある建物へと入っていった。建物に入るとすぐに窓口らしきものがあり、一般庶民と思われる人達が、窓口に列を作っている。


「バリーさん、あれは何ですか?」


 俺は列を作っている窓口らしきものが気になって、バリーに質問してみた。


「あー、あれは商売上のトラブルなどが発生した時に、それを裁くための受付だ」


「と言う事は、ちゃんと裁くための人が他に居るって事ですか?」


「まあな。ただ、あまりに下らない理由はあそこで弾かれるけどな」


 なるほどねえ。、ようするに裁判所みたいなもんか。


 リバーウォールでは領主代行だった、バウムガルデンがその役割を果たしていたようだけど、ここではやっぱテレジアが裁くってことになるのか?


「そうじゃねーよ。こんな広い都市で起きため事を、いちいち領主様が全部裁くわけがねえ。ちゃんと担当の人間が何人もいるんだよ」


 リバーウォールもかなりでかい町ではあったけど、このリバーランドはその数倍はでかい気がする。


 だって、町のほぼ中央にある城が、町の入り口からやっとみえるくらいだからな。人口も相当なものだろう。


「おう、ここが今日からお前の職場になるとこだ」


「リバーランド経済研究所」と書かれた部屋の前まで、バリーは俺にそう伝えて来た。


「ここの、企画室がお前の部署になる」


「企画室?」


「まあ早い話が、リバーウォールの経済発展の為の施策や計画を立案するとこだ。他にも調査部なんかがある」


 そう言うが早いか、バリーは研究所のドアをバタン!と大きな音をたてて開ける。なんども言うようだが、このおっさんは静かに開けると言う事が出来ないんだろうか?


 しかし中に居た研究所員達は、ドアが開く音に一瞬だけこちらを見るも、すぐに自分の仕事へと集中する。すげえ集中力だな。


「バリー、久しぶりね」


 ドアを開けて室内に入ると、すぐにそんな声が聞こえて来た。


「おう、ベアトリクスか。相変わらず元気そうじゃねーか」


「そういうあなたは、相変わらず暑苦しいわね」


「ほっとけ」


 おっと、バリーのおっさんの知り合いらしい。しかもかなり仲が良い感じがする。ベアトリクスと呼ばれたその女の人は、歳は30前後くらいだと思う。まあ、ファンタジー世界での見た目なので、本当の所はわからんけどね。


「で、この子が例の?」


「おう!紹介するぜ。コレナガシンだ。シン、こいつはベアトリクス・ヴァンデルフェラーだ」


「初めまして、コレナガシンと申します」


「ベアトリクスよ。・・・と言うか、変わった名前ね」


 あ、やっぱそうなんだ!誰も何も言わないから何とも思ってなかったけど、やっぱこっちの名前じゃないよねこれ。


「シンがファミリーネームになるのかしら?」


「あ!」


 ああ!しまった!すっかり忘れてたよ!この世界でも苗字が後、名前が前になるんだった!だから本当は、シン・コレナガじゃなきゃダメだったんだ!


「えっと、『シン・コレナガ』が正式な名前になります。僕の出身地では、ファミリーネームが前になってたんでうっかりしてました」


 うーむ、ちょっと苦しい言い訳になったなあ。


「あら、じゃあ登録し直さないと」


「あー、それは俺がやっとこう」


 あれ?そんな適当でいいのか?と言うか、久々に思い出したけど、あの神様の野郎は本当に仕事がいい加減だよな!頼むよマジで。


「じゃあ、シン、今日からよろしく頼むわね」


「はい!よろしくお願いします」


「じゃあ早速、あなたの持って来た資料を見せてもらえる?」


 はやっ!俺まだ荷物持ったままなのに、早速仕事の話かよ!


「おい、ベアトリクス。お前せっかち過ぎるだろ?こいつはまだ荷物も置いてないぞ」


「あら?ごめんなさい気付かなかったわ。じゃあとりあえず荷物はあそこの空いてる部屋に置いてちょうだい。お茶を出すから、応接室で話しましょうか」


 俺から見たら十分せっかちの部類に入るバリーから、せっかちの突っ込みを受けたベアトリクス。大丈夫なのかこの人。


 ベアトリクスは自分で淹れた紅茶を俺たちに差し出してくる。本当は冷たい麦茶が飲みたい所だが、それは無理なので、不満を飲み込みつつ紅茶に口を付けた。


「で、早速だけど、テレジア閣下から聞いている資料を見せてもらえるかしら?」


 ベアトリクスのいう資料とは、俺がリバーウォールでプレゼンした、魔法プレートに著作権とか特許を設定しようと言うあれだ。


 リバーランドに旅立つまでに、資料をまとめとけと言われたんだが、この人に見せるためだったのか。資料をみながまたプレゼンするのかと思ってた。


「えっと、資料はこちらになります」


 俺は資料をベアトリクスに手渡した。俺から資料を受け取ったベアトリクスは、それから一言も話すことなく資料に集中していたが、半分くらいまで読んだところで俺に質問してきた。


「これは、リバーウォールで現在採用されているシステムと同じなのかしら?」


「え?」


 一瞬質問の意味が分からなかったが、テレジアが以前言ってた、「このシステムはリバーウォールに利用される可能性がある」という言葉を咄嗟に思い出す。なので、ベアトリクスに確認をしてみる。


「あの、もしかして、この魔法プレートの許可制度は、リバーウォールで実行されているのですか?」


「リバーウォールでは、1年前からこのシステムを採用してるわね。立案者は『アルフレート・アイヒマン』よ」


 やっぱあいつか!俺の提案を、そのまま領主のレオンハルトに採用してもらったんだ。あったまくるわあ。


「申し訳ないんだけど、もし、あなたの提案がリバーウォールのものと全くおんなじであるのなら、採用するわけにはいかないわね」


 は?


 はああああああああああああああああああああああ!?


 一体どういう事?これは俺が先に提出した案だし、それに内容はしっかりとした確かなものだ。向こうが先に使ってても、リバーランドには何も問題無いだろう?


 俺は思わず席を立ちあがっていた。

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