第31話 ロックストーン鉱山との別れ

 俺とバリーのおっさんがリバーランド本国への転属が決まった。いやそれよりも、奴隷に転属って制度あるの?ふと疑問に思ったので、バリーに聞いてみた。


「あ?お前は何を言っとるんじゃ!テレジア様の配下としてリバーランドへ行くんじゃ。奴隷の身分は返上じゃ」


「え?え?えー!?ホントに?ホントに奴隷じゃなくなるんですか!?」


「しつこいわ!」


 ゴスッ、と言う音と共に、俺の頭に物凄い衝撃と痛みが伝わってくる。バリーは軽くげんこつをしたつもりみたいだが、あのおっさんの軽くは、俺らには普通に暴力以外の何物でも無いので、マジで止めてもらいたい。


「テレジア閣下自らワシにそう言ってきたのだから間違いない」


「でも、レオンハルト様が決定された私の身分を、テレジア様はどうこうできないのでは・・・?」


 俺は昨日聞いた、いくら第一位の王位継承者と言えども、第二継承者のやることに口出しは簡単には出来ないと言う、テレジア本人の言葉を思い出していた。


「たかが、1奴隷の身分にまで口出しして来るとなれば、それこそ何かあるのでは?と勘繰られるのはレオンハルト様のほうじゃろうな」


「でもそれだと、1奴隷の身分に過ぎない俺を厚遇することで、テレジア閣下が何か言われるのでは・・・」


 バリーの言い分だと、間違いなくその逆も在りうるわけで・・・。だって、わざわざ奴隷の身分の奴を連れ帰ったなんて話になったら、色々と困るんじゃないの?


「それは大丈夫。あの方は、常識が通用しない部分が多々あるからの」


 これに関しては妙に納得しちまった。関係の浅い俺でもそう思うんだから、テレジアの事を知っている奴らからすれば、驚くような事では無いのかもな。


 じゃあもしかして俺がテレジアに嘆願すれば、リバーウォールへ行ったりできるんだろうか?一応、期待はせずにバリーに聞いてみる。


「それは無理じゃ。何故なら、自分が奴隷にした人間が、テレジア様の配下としてリバーウォールに来たりすれば、そりゃあレオンハルト様の面子は丸つぶれだ。どんな報復をしてくるかわからんぞ?」


「そ、それはそうですね」


 レオンハルトはともかく、あの嫉妬深いアルフレートの事を考えると、あまり事を荒立てたりはしたくないな。うん、大人しくリバーランド本国へ付いていく事にしよう。ティルデに会えないのは残念だが、生きていればチャンスはあるだろう。


 そして翌日。


 俺とバリーは、テレジア・ロンネフェルトから、正式にテレジア・ロンネフェルト閣下の配下となる命令をもらった。バリーのおっさんはテレジアの親衛隊として、俺は、新設される『リバーランド経済局』の局員としての採用だ。


 あれだよ、いきなり公務員ですよ!まあ配下つっても、バリーのおっさんは閣下直属の部隊所属みたいだけど、俺の方は下の下なんだけどね。広い目で見れば、一応テレジア閣下の配下扱いって感じ。バリーは部長クラスで、俺は研修中の新人社員で考えてくれるとわかりやすいか?


さて、現在テレジア・ロンネフェルトが持つ領地は3つ。


・リバーランド

・ロックストーン

・シルバーストーン


 ロックストーンはゾルタンの領地じゃないの?って思ったんだが、現在ゾルタンが治める領地は存在しておらず、テレジアの下で教育を受けている最中なんだと。

 本国で散々好き勝手やってたゾルタンも、姉のテレジアと兄のレオンハルトには勝てないらしい。


 なので、その事を知っていたリバーランド国王が、ロックストーン領主をゾルタンからテレジアに変更。それが約1年前だ。なら最初から国王がしっかりゾルタンを教育しろよ!と思ったんだが、末っ子であるゾルタンには甘々なんだと。


 レオンハルトが俺を奴隷としてこの鉱山に送った時は、あの手この手で、俺の事をどうにかしようと画策して来るんじゃないかと思ってたんだけど、どうやら俺が炭鉱に来た直後くらいに、ロックストーンは本国預かりになったっぽい。


 レオンハルトの息がかかったままの鉱山だったら、今頃俺は死んでたかもそれないなあ。って、俺こっちにきてから何回死ぬ目にあってんだよ・・・。


 できれば今度こそは、安定した環境が欲しいと思ってしまうけど、あまり期待しない方がいいかもな~とは思っている。公務員つっても、下っ端だろうしな。まあ、それでもありがたい話だ。


「ササ!アルネ!お前ら、この鉱山の事頼んだぞ!」


 鉱山出口では、ササとアルネがバリーに挨拶をしていた。長年一緒に働いてきた上司との別れに、二人も寂しげな表情・・・の中に、なんか嬉しさも垣間見えるのは何故だろう?


 まあ、これからは理不尽に殴られる事も無くなるという嬉しさも隠せないんだろうなあ。しかしバリーのおっさん、本国で癇癪かんしゃく起こしたりしないかすげえ心配。


「コレナガシン、お前も気を付けて行くんだぞ」


「はい、お二人とも健康には気を付けてくださいね」


「やっとお前に正当な身分と評価がなされて俺達も嬉しいよ」


「ササさん、アルネさん・・・」


 やばい!マジ感動して泣きそう!思えばこの二人とは、あーでも無いこーでも無いと、3人で色々意見を出し合って、鉱山の環境改善をやってた時期もあった。バリーのおっさんは「細かい事はお前らが決めろ!」って、任せっきりだったしなあ。


「どうぞ鉱山をよろしくお願いします」


「おう!まかせとけ」


「おまえこそしっかりやるんだぞ!」


 俺はササとアルネからの激励をもらい、用意されていた馬車へと乗り込んだ。見れば、一緒に働いた奴隷たちも見送りに来てくれている。


 俺はここからいなくなるけど、他の奴隷たちはここで働き続ける。身分に関してはどうしようもないけど、環境だけは改善してきたつもりだ。環境の維持と改善は引き続き行ってほしい。そう、ササとアルネに最後にお願いをした。


 そうして俺とバリーは、テレジアが待っているロックストーン領主館へと出発した。

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