第27話 労働環境の改善を求めたいと思います

 今日からいよいよ鉱山での仕事となる。昨日付で1級奴隷へと昇格した俺は、最下層での採掘作業ではなく、鉱山上層まで引き上げられた鉱物を鉱山の外まで運ぶのが主な仕事となった。


 正直かなりの重労働だったが、職業訓練所で毎日走り込みをやったり、重量のある剣を問題なく扱うための筋トレを欠かさなかった為か、予想してたよりはきつくなかったな。


 と、思ってたのは最初だけでした。


 作業を始めてから3時間ほど経過したころ、一体休憩時間はいつなんだ?と同僚の奴隷に聞いたところ「休憩なんかねえ」とのお返事が。嘘だろ?そう思って詳しく聞いたら、昼休憩30分だけはあるらしい。おいおいおい、労働基準局もびっくりのブラック企業じゃねーか。企業じゃないけど。


 鉱山では、朝5時から仕事が始まる。そしてお昼に30分の休憩を挟み、夜10時まで働く事になる。これだと約7時間で睡眠その他の所用をを済ませる必要がある。


 いやいや、こんなの無理だろ?17時間労働ですよ?しかも肉体労働!とは言っても俺は奴隷なので、奴隷の身分なんかあって無いような物だ。実際、上の方の奴らの認識では、使えなくなった奴隷は変えりゃ良いくらいにしか思ってないと思う。


 なので黙って一生懸命働いていたんだけど、毎晩へとへとになって部屋にもどっていく1級奴隷の仲間の奴に、ヒールをかけてやったんだ。ヒールでは疲労は回復しないんだけど、体の痛みの症状などには効果があるからね。


 そしたら何故か次の日には、1級奴隷の皆さん全員が僕のとこへ来てるんですよ?仕方ないな~って思いながらも、全員にヒールかけましたよ。皆さん大変喜んでました。


 次の日、なぜか2級と3級のみなさんも来てるじゃありませんか。ええ、もちろんヒールをかけさせてもらいましたよ。


「こんなのやってられっかああああああああ!」


 俺の我慢の限界は最高潮に達してしまった。だってお前、1週間休み無しでこれだぜ?死ぬわ!しかも仕事の後にヒールまでかけてんだぜ?40人に!大体なんで、こんな非効率な生産体制を取ってんのか意味わかんねーよ!


 なので俺は、鉱山の管理を任されているバリー・・・ではなく、ササの元へと向かった。だってバリーだとブチ切れるかもしれんもん。


「おう、なんだどうした?」


 俺の突然の訪問にも、ササは嫌な顔一つせず対応してくれた。あれから数回は、バリーのパンチによる怪我を治療してやったしな。


「あの、実は勤務時間の事なんですが」


「なんだ、お前ならもうちょっと減らしてやってもいいぜ」


 え?まじで?・・・いやいや、そうじゃなくて!


「いえ、そうじゃなくてですね・・・」


 俺は、なんでこんなきつきつの勤務体制になっているのかを聞いてみた。どう考えても無理があるだろ?


「ああ、そういうことか」


 俺の意図をわかってくれたササは、このロックストーン鉱山の、無茶な勤務体制の始まりについて語ってくれた。


「ゾルタン・ロンネフェルトが、ロックストーンの領主に就任したことが全ての始まりなんだ」


 ゾルタン・ロンネフェルトは、リバーランド王国第三位王位継承権を持つ立派な王子様だ。ただ、あまりの素行の悪さに、現ロンネフェルト国王が、辺境の地であるロックストーンへ更迭してしまったんだ。


「で、ゾルタンとしては、一刻もはやくこんな辺境の地から逃れて、リバーランドへ戻りたいわけよ。で、その為には実績をあげなきゃなんねえ」


 その為にゾルタンが考えたのが、鉱石の採掘量の増量と人件費の削減だ。この鉱山の問題点として、人件費がかかり過ぎていることが、以前から挙げられていたという。


「それで、ゾルタン様はどんな策を取られたので?」


「最悪なパターンだよ」


 俺の質問に両手を上げてお手上げのポーズで答えるササ。ゾルタンは以下に挙げる二つを、鉱山の責任者に命令していた。


 1・労働者の数を約五分の一削減する事。

 2・一日の採掘量を、10%増量する事。


 この2点だ。


 つまり働き手は減らして、でも採掘量は増やすという、全く矛盾した命令を気軽にしていったらしい。あり得ねえ。


「それは無茶くちゃですね・・・」


「まあな、でも、最初の頃はそれでもなんとかなったんだ」


 そう、最初は週一で休みもあったしどうにかなってたらしい。でも、やはり知らず知らずのうちに疲労は貯まっていく。そうすると、採掘作業にも影響が出始める。そのうち休みも返上して働きだしたが、それでも一日のノルマに追いつかなくなった。


「で、とうとう我慢できなくなった前任の責任者がゾルタンに『このままではノルマを達成できない』って言ったんだ。そしたらあいつなんて言ったと思う?」


「なんて言ったんですか?」


「『労働時間を増やせば良いだろう』って言いやがったらしい」


 うわあ、ホント最低野郎だな。その結果が、今のこの状況ってわけか・・・。となると、領主に言って改善してもらうって手は使えないらしい。もちろん、バリーやササではどうしようもないだろう。なのでその日は一旦自分の部屋へ戻ることにした。明日一日仕事しながら案を練ることにしたんだ。


 次の日、俺は仕事の昼休みの間に、今日の夜勤務体制について提案があるので聞いてほしいという旨をササに伝えていた。それで、仕事が終わったその場で話をしようということになり、俺は行動の出口でササを待っていた。


 そして行動の入り口に現れたのは、ササとそれより一回りでかいおっさん、バリーだった。まじかよササ!俺としては、まずササで様子伺いして、好評だったらバリーにって思ってたんだ。そしたらいきなりラスボス登場だよ。大丈夫か俺!?


「コレナガシン!なんでも、勤務体制について文句があるらしいな!」


 ちょおお!何言ってんのこのおっさん!


「ち、違います!文句じゃなくて提案です!」


「ん?そうじゃったか?」


 頼むわおっさん、俺の寿命が10年は縮んだぞ今のは・・・。


「どっちにしても変わらんじゃろ!言ってみろ!」


 あれだ。このおっさんに関しては深く考えたら負けのような気がしてきた。なのでさっさと本題に入ることにする。


「実は、今の無茶な労働時間を見直しつつ、尚且つ採掘量も減らさないというご提案を聞いて頂ければと」


 それを聞いて目を丸くしたのはササだった。


「いやお前、そんな都合のいい方法とかあんのか?」


 明らかにそんなの無理だろって顔で俺を見ている。バリーのおっさんは、難しい顔で俺を見ているだけだ。そんな顔で見られると、不安になってくるんですけど・・・。


「いいから言ってみろ」


 バリーの声で、俺は続きを話し始める。


「勤務体制を、これまでの全員が5時から10時まで働く体制から、2交代制にするんです」


「2交代じゃと?」


「はい」


 俺はバリーが聞く気満々なのを見て、そのまま続きを話し始める。


「今現在40名の奴隷が働いていますが、それを20名にわけ、一組が8時から20時、もう一組が20時から8時の労働にするんです」


 日本でもお馴染みの2交代のシステムだ。これの利点は24時間フル稼働できるところだ。これまでのように皆が一斉に同じ時間に体力の限界まで働くよりも、二手に分けて、休憩も十分にとり、体調万全で働いた方が絶対良いに決まってる。そもそも全員でいっぺんに採掘しなきゃいけない理由が無いからな。


 後、これまでの17時間から12時間に労働が減るわけだから、精神的にも肉体的にも余裕が出るだろう。採掘効率も格段に上がると思う。なので、そのあたりをバリーにわかりやすく説明していった。


「貴様は天才か!」


 説明が終わった後のバリーの一言である。と言うか、この世界では交代制の労働の仕組みとかないんだろうか?兵士とか絶対交代制だろうし、そのシステムを応用するだけでいいと思うんだが。


「よし、とりあえず来週初めからそのシステムで行くことにする。班分けは、そうだな。コレナガシン、お前に任せる」


「えええ!」


「えええ!ではないわ!お前が一番奴隷の状況をわかっているだろう?誰をどう分ければ効率が良いか、考えてこい!後で報告に来いよ?それでは解散!」


 バリーはそう言ってズカズカと自分の部屋のある建物へと歩いて行った。


「ま、がんばれや」


 ササもそう言って、自分の部屋へと戻っていく。そして俺は次の日から、奴隷全体をまとめる責任者「奴隷長」となりました。身分カードは3級のままなのに・・・。

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