第16話 異世界の魔法システム

 俺が、実習訓練で倒れてしまってから2ケ月ほどが経過していた。


 その後の俺の体調は全く異常はなく、やはりあの時の事は、心的障害による影響だったんだろうという確信を強く持ってしまう結果にもなってしまった。


 なので、冒険者の職業訓練にいる意味は無くなってしまったんだが、学費さえ払えば授業を受ける事は可能だと聞いた。


 だから俺は、毎週末は森へ行き、G級ハンターの実力を発揮して小銭を稼ぎ、どうにか学費を賄っていた。


 ギルドの実習訓練時には、モンスターとの戦闘が関係するクエストには参加せず、街中での非戦闘依頼などを中心に受ける事によって、どうにか学校への金銭的な協力を果たすことができている。


 前も言ったかもしれないが、この学校では実習訓練で、冒険者ギルドだけでは賄いきれないクエストを請け負うことで、そのクエスト報酬を学校運営にてている。


 なので今の俺は、個人でも学費を払い、実習訓練でも学校の運営費を稼いでいるという、超優良生徒と言って良いだろう。もしかしたら、今が人生で一番輝いてるのかもしれないな。


 なーんて、そんな心の余裕あるわけねーっつーの。そりゃもう超落ち込んだよ。


 一応、学費はとどこうりなく収めているし、実習訓練でのクエストもこなして運営費も稼いでる。けど、やはり生活は苦しくなった。これまでギルド横の酒場で食事してたのを自炊に変えたし、無駄遣いを本当にしなくなった。


 泊る所も、これまでの酒場兼宿屋から、ぼろい長屋に変更することでその分の学費も免除してもらった。


 身分証明とか無くても借りれる長屋だったので環境はお察しだ。夜遅くまで酔っ払いが闊歩かっぽし、隣の家では毎晩食器が割れるような喧嘩をやってくれる。


 ある時なんか、朝起きたら知らないやつが隣で寝ていて、心臓が口から飛び出るかと思ったぜ。


 これだったら、狩人として生活してた方がもっとましな生活が出来たように思う。じゃあなんで、無理して学校に通ってるかと言うと、そりゃ今後の事を考えてだよ。


 冒険者になるわけでも無いのに、魔法や剣の修行をして何になるのかって思うかもしれんが、そういった努力を怠った結果が、日本に居た時の俺であり、今思えば、色んなことを覚えていれば、様々な事に応用できた可能性はすごく高いと思う。


 なので、この第二の人生では、俺は絶対に手を抜かないと決めてある。覚えれるものはなんでも覚えるんだ。自分の身を守れるのは自分だけだしな。


「そこの豚!魔法は魔法プレートからって何回言えばわかるのかしら!?」


 そんなことを考えていると、ヴィルヘルミーナの声が教室に響き渡る。この人、誰かを「豚」っていう時物凄い嬉しそうに言うんだよ。まあ、言われたアルフォンスとアントニウスも恍惚こうこつの表情を浮かべてるんだけどな。


 この変態どもめが。


 そういうわけで、今日は魔法の授業を受けている。実は先週から剣の授業を終えて、魔法の授業に入ったんだけど、これが実に面白い。


 冒険者ギルドに登録した際に「マザープレート」と呼ばれる半透明の板をもらったんだが、実はこのプレート、俺の冒険者情報が入ってる大事なプレートなんだ。


 俺の名前、レベル、職種、識別番号まで入ってるらしい。一体どこの国のマイナンバーだよ。


 あと、例えば、俺がとあるクエストを受けたとする。クエストを受けると、このプレートに、現在受けているクエスト一覧が表示されるようになる。クエストは最大5個まで登録出来、期限が迫っているものから順に表示されるんだ。


 で、クエストが達成されるとプレートにその情報が書き込まれる。そして、それをギルドに持っていき、受付で規定された手続きを済ませると、クエスト達成+報酬ゲット!となるんだ。


 で、このプレートが魔法に何の関係があるのかというと、この世界で魔法を覚えるときは「魔法プレート」と呼ばれる、マザープレートとは別のプレートが必要になる。


 魔法屋に行くと、すでに魔法が登録済みのプレートが、レベル別、系統別で販売されていて、購入した魔法プレートに記載されたシリアルコードをマザープレートに登録する。


 そして、魔法プレートに記載された魔法発動の言葉を唱えることで、魔法が使えるようになる。


 完全に現在のプリペイドカード方式ですね。任○堂ポイントカードとかプレイス○ーションカードとかそのうち出るんじゃないか?


 ただ、魔法の詠唱の言葉だけはきちんと覚えなきゃいけないみたい。でも、何度も同じ魔法を使っているうちに、段々と詠唱の言葉も省略可能になるらしい。達人レベルになると、無詠唱も可能とか。


 俺もレベル1魔法を使ってみたけど、正直無詠唱のやりかたすら思いつかんかった。ロープレでいう所の、熟練度、って所だろうか?


 そして、魔法システムの一番面白いところは、自分で魔法プレートを作成できるところだ。


 市販の魔法プレートをマザープレート上で展開すると、以下のような設定が表示される。例えば、レベル1ファイアーの魔法の法文を展開すると、ファイアーの魔法の、今のパソコンで言う「フォルダー」のような物が表示される。


 中を見てみると、


魔法区分:火

魔法威力:レベル1

魔法種別:単体・直線・6


 上のような設定が出る。


 これは初心者用ファイアー魔法レベル1だ。魔法区分とは、おおまかに言えば、火や水、土・風などの属性を表している。


 威力は文字通り魔法の威力だ。レベル1ってのは、大体、消費魔力2~3を指すらしい。魔法種別とは範囲を表している。


 なので上記の場合だと、火の玉が、およそ6の距離をまっすぐに飛ぶということだ。


 この魔法の方分だが、フォルダーの中にさらに幾つかの細かな命令が入ったフォルダーを設置する事で、複雑な魔法を展開することも出来る。


 例えば、ファイアーで起こした火を、風魔法の特性を生かして広範囲に降らせるとかね。これは、ヴィルちゃんから授業で習った事だ。


 ちなみに俺も、自分だけのオリジナルの魔法を作ってみた。一個は、自分の魔力の8割を消費して、一瞬だけ光る魔法。もう一つは、殺傷能力のない風魔法だ。


 扇風機代わりに出来ないかと思ったんだが、風量の調節が出来ずに、扇風機にしては強すぎる風が延々とでるだけのモノになってしまった。


 まあ、どっかで役立つ可能性が万が一にもあるかもしれんので、とりあえずマザープレートに登録することにしておこう。あ、ティルデくらいのレベルの魔法戦士なら、風量の調節くらいできるかもな。後で渡しておくか。


 ただし、プレートの種類によって使える威力や種別なども違ってくるらしい。初心者用のプレートは真っ白で、超高位の魔導士が使うものは真っ黒とかね。まあ、微妙に色合いは違うらしいけど、おおまかに言ってそんな感じ。もちろん、高レベル魔法になるほど値段もお高くなる。


 ただ、やはり大きな魔法を扱おうと思ったら、レベルを上げることが必須になってくる。なんでかって言うと、ギルドの依頼以外での戦闘でも実践経験は積めるし自分の実力も上がったら、もしかしたら魔力も上昇しているかもしれない。


 でも、魔法を使用する手段が、現時点ではプレートを利用する以外に無いのが実情だ。そして、魔法プレートの利用には、マザープレートでのレベルが適用される。


 なので、でかい魔法を使いたかったら、ギルドのクエストを受けて自分のレベルを上げるしかない。忘れてるかもしれないが、冒険者レベルを上げるには、ギルドの指定されたクエストを達成しなければいけないんだ。


 最初は魔法の仕組みを覚えて、異世界での魔法屋でも始めようかと思ったんだが、レベルが上がらないと上位の魔法が使えないことにすぐ気が付いて、計画は頓挫してしまった。


 戦闘以外のクエストもあるにはあるんだけど、はっきり言って経験ポイントが極小だ。やはりレベルを上げるには、戦闘クエストが現実的な方法だと思う。


 なので、モンスターを目の前にすると足がすくんでしまい、レベル上げが事実上不可能な俺には、高レベル魔法を制作して販売するという仕事は無理なのだ。


 でもだからと言って、覚えておくことが無駄とは思えない。この冒険者が必ず最初は訪れるという「ハイランド」でなら、初心者用魔法プレートの需要は少なからずあるだろう。


 それにアレンジが可能な以上、これまでに考えられなかったオリジナル魔法の制作も可能かもしれない。


 なーに、いざとなったら、森のG級ハンターの実力で、食う分に困ることは無いはずだ。人生なんでもポジティブシンキングだよ君!


 でも、せっかく異世界で15歳から第二の人生を始めることが出来たんだ。自分が食べるだけの稼ぎで満足したくはない。仲間も欲しいし可愛い恋人だって作りたい。


 日本で出来なかった事、というかやらなかったことだな。それをせずに後悔はしたくない。


 可愛いと言えば、あのエルフの超絶美少女「ユーディー」はどうしているだろうか?以前は町で見かけることもあったが、最近では全く見なくなった。もしかしたら、もうこの街にはいないのかもしれないな。


 ティルデとは冒険者ギルドを利用する関係で、疎遠にはなっていない。向こうも俺を気にかけてくれているしね。


 でも、まあこれは俺の方の問題で、なんかこう話しかけ難いって言うか、モンスターを前にすると何も出来なくなってしまうという、情けないとこを彼女には知られているわけで。


 ようするに、ティルデとは対等の関係で居たかったって言うか、俺の無様なとこを知られたくは無かったんだよ。だってこの異世界で、初めて呼び捨てで呼び合える友人に出会えたと思ったんだからな。


 俺ももう、40歳のいい歳したおっさんなんで、いじけたりしてるわけじゃない。やっかみや当て付けで生きてはいけない事は十分わかってる。この世界で生きていくために出来る事ならなんでもしてやるぜ!って思ってるよ。


 そういうわけで、いつまでも学校生活をだらだら送っても仕方ないので、半年を目途に卒業することを計画。


 その後は、初心者の冒険者相手への魔法屋兼森のG級ハンターとして生きていくことを決めた。


 そして半年後、俺は運命の日を迎えることになる。

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