第11話 -適格者- ティルデ・エーベルト視点

 私の名はティルデ・エーベルト。ハイランドの冒険者ギルドの統括責任者、というのは建前で、ハイランド軍所属の軍人だ。


 コレナガシンとユーディ・ビッケンバーグの聴取が終了した。


 軍から渡された資料によれば、ユーディーとシンは同期の「適格者候補」という事になる。


 ただ、彼が登録されていた「本名」ではなく、コレナガシンという、この辺りでは聞いた事の無い名前で冒険者ギルドに登録してきた時は驚いた。


 なぜ彼が資料と違う名前で登録してきたのかを問い合わせると、コレナガシンは記憶喪失という返答が帰って来た。


 とても記憶喪失の人間には見えないが、上層部がそう言うのだからそれ以上の詮索は無用だろう。


 そして二人は冒険者としての道を歩み始める。しかしすぐに問題が起こった。


 まさか、フォンシュタイン家の三男が、ユーディと言う、エルフの中でも一際美しさが際立つ彼女に良い所を見せようと、指定されたクエストのさらに奥の、立ち入りが禁止されたエリアに侵入していたとは思わなかった。


 あの辺りはゴブリンの亜種が確認されてたから、あえて立ち入りを制限していたのに。


 しかも、自分の命が惜しいばかりに、自分を助けに来たコレナガシンと、魔法で援護してくれたユーディを見捨てて自分の家に逃げ帰ったと聞いた時はもっと驚いたわ。


 おかげで、あのお坊ちゃまの社会的地位を守るために、ユーディとコレナガシンへの情報操作を行わなくてはいけなくなった。


 ユーディの方は比較的簡単だった。彼女の家、つまり「ビッケンバーグ家」は、フォンシュタイン家に使える身分なので、その辺をユーディに伝えるだけで事はすんだ。


 問題はコレナガシンの方だ。彼の生まれを調べると、フォンシュタイン家の影響力が少ない地方の出自となっていた。


 フォンシュタイン家から権限の代行許可を受けているマルセルが、今回のクエストには、フォンシュタイン家の三男「アルマント・フォルシュタイン」は「皆を助けようとしてはぐれてしまった」事にする結論を出した。


 いくら平民の子とはいえ、人が一人死んでいるにも関わらず、自分達の家の名誉を優先するフォンシュタイン家には腹が立つけど、それに逆らう術を持たない自分にはもっと腹が立つ。


 問題は、この理不尽であからさまな情報操作をコレナガシンが受け入れるかどうかだったけど、私は彼が受け入れるという妙な自信があった。


 彼はとても15歳と思えないほど頭が良かった。聞き分けも良いし、文句は言うけど不満は言わない。森で動物を狩る時も、私から引き出せる情報は全て引き出そうと言う思惑も見えた。


 そして私の予想通り、彼は私達の思惑を察してあまり深入りすることがないよう努めて冷静に対処していた。当然不満はあったでしょうけどね。


 だから私は、彼にこの世界で生きるためには、決して逆らってはいけない物事が有ることを教えた。


 彼の住んでいた地方がどのような政治体制になっているかはわからないけど、この地域では、フォンシュタイン家の意向は絶対だ。時には人命よりもフォンシュタインの意向が尊重されることも有る。


 私は彼とユーディーの事を気に入っている。なのでマルセルには、適格者候補同士でパーティーを組ませては?と提案した。


 ユーディーはこの提案に乗り気だった。でもコレナガシンは果たして乗るだろうか?私は自分で提案しておきながら、少し疑問にも思っていた。


 なのでコレナガシンには「職業訓練」の道もある事を教えてあげた。訓練所は、訓練中に参加したクエスト等の報酬と、スポンサーの資金で運営されている。


 なので、私からの推薦と言う事であれば、授業料免除、宿泊場所も完備となる。金も泊るところもない彼には、もしかしたら訓練所の方が魅力的に映るかもしれない。


 それにしても適格者とは一体何なのだろう?そしてどういう基準で選ばれるのか。今の所マルセルもその事については私に話してはくれない。


 でも、そういう政治的な事とは関係なく、どうか立派な冒険者に育って欲しいとは思う。


 そしてその後私は、「適格者」についての衝撃の真実を、私の人生を変えてしまうほどの事実を知ってしまう事になる。

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