第10話 こんな美少女が俺なんかと飯を食うわけがない!

 俺は、泊まっている宿の1階にある酒場兼食堂へと来ていた。


 この前の大型モンスター、ゴブリンの亜種と言うことらしいが、あのモンスター騒ぎの件で、ギルドから何故か「お礼」として、しばらくの間の宿代と食事代が支給されている。まあ、口止め料って事なんだろう。そうは言われなかったが。


 結局、何故レベル5のクエストであんなモンスターが出てきたのかは、わからずじまいだ。とは言っても、上の方ではわかってるんだろうけどね。


 まあ、いつまでもそんな事を考えても仕方ないので俺はせっかくのお礼を頂くことにした。何をどう足掻あがいても、俺はこの世界で生きていくしか無いからね。もらえるもんはもらっとこう。


 で、初めて酒場ってとこに来てみたんだけど、15歳の俺が入ったからって「坊や、ミルクでも飲んでな!」とか言われたりはしなかった。ちょっと期待してたんだけどな。


 だけど、まさか、あのビッケンバーグさんから食事に誘われるとは思っても居なかった。ユーディ・ビッケンバーグさん、あのエルフの女の子ね。


 そろそろ飯でも食うかなって思ってたら、彼女が部屋に訪ねてきたんだ。で、今現在彼女と一緒に食事中なわけ。


 な?びっくりだろ?


 それにしても気まずい。


 だって二人共、先日の兵士からの聴取に対して、大人の事情で「捻じ曲げられた真実」を受け入れたわけだからね。


 あのモンスターとの戦闘に関しても、逃げやがったあのへたれ野郎のことは無かったこととして話さなきゃいけないわけじゃない。そりゃあ、白々しい会話になること請け合いだろう。なので俺は、あの時の事を一切話さないことに決めた。


「いやあ、ビッケンバーグさんとご飯食べれるとか、夢みたいです」


「え?そうですか?私なんかで良ければいつでもご一緒しますよ」


 等と、おじさんが泣いて喜びそうなことを言ってくる。ダメダメ、俺本気にしちゃうから!持てない奴に優しくすると勘違いしちゃうんだよ?


 まあそれはともかく、一見すると、とんだリア充飯ですね。


 日本にいる頃の俺が見たら絶対呪いをかけてるような光景を、今自分が実践してるというのは不思議なものだ。まあ、なんらかの目的があって、俺を飯に誘ったんだろうな~と思ってしまう自分がちょっと悲しいが。


 だってさ、さっき、「ティルデさんにはシン様との食事の許可を頂いていますので」ってこの人言ってたんだよ。


 まあ、喋ってはいけない秘密を共有する二人なので、一緒に何かするには許可がいるんだろうとは思うよ。けどね?許可をもらってまで俺と飯をしたいって事は、何か理由があるんだろうと思うんだ。


「ところで・・・」


 ほらきた!一通りの世間話や身の上話などで場を和ませた後本題に入るのは定石だ。なのでそろそろ来るとは思ってたんだよ。と言うか、一番疑問だったのが、


【こんな美少女が俺なんかと飯を食うわけがない!】


と言う事だ。つまり、最初から俺は疑ってかかってたんだ。


 だってさ、日本でこういうシチュエーションに遭遇した場合、いたずらか宗教か勧誘か、後は美人局つつもたせくらいしか思い付かないだろ?ただしイケメンは除くだぞ?


「ところで、シン様は、今後どうされるつもりですか?」


 あれ?結構思ってたのと違う質問が来て、ちょっとびっくりしている。壺売ったりするんじゃないの?


「えーと、今後とはどういう意味でしょうか?」


 もちろん、お食事の後どうされますか?って意味じゃないのはわかっている。今後ってのが、どういう意味で今後なのかがわからなかったんだ。あの森での一件についての事なのか、他の意味での今後なのか。


「シン様は冒険者を目指しているとお聞きしています。ですので、今後どういうご予定なのかをお聞きしたいと思いました」


 ああ、そういうことね。


「特に無いです」


 あ、ちょっと「?」みたいな顔してる。だってホントに何も予定ないんだもん!とりあえずは食いっぱぐれないように、森のG級ハンターを目指しますが、そんな事とてもじゃないけど言えんしな・・。


 一応、ティルデさんからあることを聞いたので、それを実践しようとは思ってるんだけどね。それほど親しい訳ではないこの人に、それを喋る必要も無いかと思う。


 もちろん美人さんとは仲良くなりたいという気持ちはあるけど、森での一件で、この人とは人には言えない秘密を共有してるから、気疲れしてしまいそうだよな。さっき言った白々しい感じに終始なりそうなんだよ。


「えっとですね?私とパーティーを組む、というのはどうですか?」


「は?」


 突然何を言い出すのかと思ったら、パーティーを組みませんかと言われた。


 いやいやいや、この前の戦いで、いかに俺が戦闘初心者であるかを十分堪能したでしょうに。あれを見てパーティーを組みたいとか、この人ドMか何かか?


「えっと、なんで私なんでしょうか?正直役に立たないことは実証済みだと思いますが」


 ドMの事を考えていても仕方ないので、俺は思った通りの事をそのままユーディさんに質問してみた。


「ティルデさん達の許可も得ています」


 根回しはやっ!


「私は、ある程度の信頼を置ける方とパーティーを組みたいのです」


 信頼って・・・。あんた、俺の何を知ってると・・・・。


 と、そこまで考えて俺はふと思った。ユーディさんの俺との比較対象は、恐らく前にパーティーを組んでたレベル5の奴だろう。


 ん~、さすがにあいつと比べられたら、そりゃあ俺のほうが幾分マシに見えるかもな。モンスターに襲われた時、とっとと逃げ出したあいつよりはね。


 詳細は知らないけど、ゴブリンの亜種が現れた原因も、あのボンボン野郎がどうせ良いカッコしようと思って招いたトラブルかなんかじゃねーの?


 けど、俺は無えわ。体力の配分方法も剣の使い方もなっちゃいねえ。そもそも、基礎技術が皆無だからな。だって、ベースは40歳の元リーマンのオヤジだぜ?


「もちろんシン様が、戦闘の経験という点に置いて未熟なのは承知しています」


 あ、承知しちゃってるのね。てか、未熟とまでいいますか・・・。まあ間違ってないけど、もうちょっとこう、ソフトに包んで言ってくれないと泣くよ。傷つきやすい世代なんだから40代は!


「ですが、それは誰しもが通る道です。私だって、経験豊かでは決してありませんし」


「だったら、やはりパーティーを組むべきでは無い気がします」


「え?」


「初心者に近い者同士でパーティーを組んでも、中々成長できないと思いますよ」


 これは日本に居た頃に、ギターやってる友達に聞いた話なんだけど、楽器を覚えるなら、一人でやるよりバンドに入ったほうが上達が早いらしい。一人でもやれないことはないけど、やっぱ覚えるスピードが段違いなんだとか。


 俺の経験で言えば、オンラインゲームで一人でプレイしてた時は、ネットの攻略サイトを見ながらゲームの事を覚えてたけど、クランやギルドのようなチームに入ると、それまで一人でやってたのが馬鹿らしくなるほど、色んな情報が入ってくる。


 たぶん、これもそれと同じだと思う。俺と組むより、経験豊かな人達と組んだほうが良いだろう。レベルは俺と同じくらいなのに、体力の使い方や魔法の使い方なんか、ティルデさんが褒めてた程だ。経験ある人達と組めば、すぐにレベルも上がっていくと思うよ。


 なので俺は「ごめんなさい」と、お断りさせてもらった。


「そう・・・ですか。残念です」


 あー、なんか本当に残念そうかも。つーか、こんな美少女からのパーティー依頼を断るとか、ちょっと前の俺からじゃ考えられんな。


 でも、俺とあんたじゃ、すぐに全滅しちゃいそうなんだもん。持ってるお金半分消費して復活出来るんならそれでもいいけど、そうはいかんからな。


「シン様はこれからどうされるんですか?」


 それはさっき「わかりません」ってこたえたんだけどなあw


 まあでも、真剣に誘ってくれた事へのお礼として伝えとくのはありかも。悪い人じゃ無さそうだし。


 冒険者からの需要はほぼ無し、唯一誘ってくれた超絶美少女エルフからの誘いも断り、じゃあ俺は一体何をするのか?


「職業訓練所に行こうと思っています」

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