第48話

 朝日が雨戸の隙間から陽光が俺の顔を照らす。

 眩しさに目を開けば、いつもと同じ木製の所々シミがついた天井。


「んぅ…」


 そんな可愛らしい呻きと共に隣で何かが動く。

 そちらに視線を向ければ、全裸の美少女_ナクが身体を丸めて、陽光から逃げる様に眠っていた。

 4界層攻略からかなりの時間が経った。

 あの後、自分達の力不足を嘆いたプレイヤー達はこのままでは攻略できないと気付いたらしく、第5界層の攻略を延期し、天議会や攻略者パーティーのシラクモ、サイカ、キョウラクの主導の下、レベル上げを行っていた。

 俺、キョウジ、リンネはそれぞれ別行動でレベルを上げていたのだった。

 で、昨夜寝ようとしたらこいつナクが挑発してきてそのままなし崩し的に、となったのだが。

 よくよく考えれば本当に久しぶりにしたんだな。…そんなことを考えてる余裕がなかったからな。

 もしかしたら、俺の中にゆとりができているのかもしれない。

 すると突然部屋の扉をノックする音が聞こえる。


「入っていいぞ」

『失礼しマス。我が主…』


 そう言って部屋の中に入ってきたのは、俺の2倍は優に超えているであろう体躯と、豪奢なローブを纏った骸骨…不死者之王ノーライフキングエンリベルだった。


『オハヨウございマス、主様』

「ああ、おはよう。今日の予定を頼む」


 俺はエアディスプレイを操作して着替えながら、エンリベルにそう尋ねる。


『はイ、本日の御予定デスが。午前中に4層南ノ密林デのレベル上げ。午後ヨリ引渡しとナッテおりマス』

「そうか、今日引渡しか、それにしてもお前は優秀だな」

『アリガトウござイマス』


 そう言って骨だけの顔で器用に笑うエンリベル。

 なぜ、倒したはずのコイツが居るのかというと、俺の三職業である【不死者之王】の効果の1つである『死亡した魔物の使役』を使用したからである。

 まあ、ボス補正が消えた所為で強さとしてはそこまでないんだけどな。


「おーい、ナク起きろ」

「んぅ…後3時間…」


 後3時間とか、どんだけ寝たいんだよ。起きろよ。


「いいのか?置いてくぞ」

「それは嫌…グー」

「いや、寝るなよ」


 起きる気配がないな。仕方ない、あの手を使うか。

 全く起きる気配の無いナクの鼻と口を摘む。

 呼吸ができなくなったナクは暫くの間バタつくと勢いよく起き上がる。


「ぷぁっ!何!?」

「お、ようやく起きたか。おはよう」

「…おはようじゃない、死ぬかと思った」


 ジトッと俺を睨むナク。

 いや、ほら、ライフはそこまで減ってないしいいんじゃないか?

 俺が目を逸らしているとナクは溜息を吐いて、ベッドから飛び降りる。


「エンリベル、服」

『何ヲ我に命令シテイルのダ小娘。我に命令出来るノハ主様ダケだ』

「調子にのるな骨が」


 チッ、と舌打ちするナク。

 取り敢えず蹴るのを止めなさい、色々見えてはしたないから。


「2人ともその辺にしとけ、ナク服を着ろはしたない。エンリベルも煽るな」

『申し訳ゴザイませンでシタ。主様』

「シュウ、でもこの骨が悪い」

「わかったから、早く支度しろ」


 頭に疑問符を浮かべるナクを横目に俺は雨戸を開け放った。

 陽光が俺を包み込む。

 ああ、爽やかな朝だな。

 その後、俺はナクにぶん殴られた。

 …全裸なの忘れてた。今回は俺が悪かったと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る