第27話

「む、行き止まりみたいですね」

「そうだな」


 洞窟内をしばらく進んだ俺たちの前に現れたのは巨大な地下水源だった。

 水は澄み切っていて底の方まで見渡すことができた。


「ん?あれなんだ?」


 水底に穴のようなものがあるのが見えるがいかんせん距離が遠すぎて詳細に見ることができない。

 あ、そうだ。水の中に入ればいいのか。確か水着には固定で【水棲】がつくんだったな。

 水着の効果を思い出した俺は即刻マイセットに登録しておいたビーチスタイルに着替える。

 水をパチャパチャして遊んでいたアンリはそんな俺の行動を見て「は?」って顔をしていた。


「何やってるんですか?」

「見ての通り着替えたんだが」

「なんで着替えるんですか?」

「あの穴を調べるぞ!」

「【水棲】が無いと継続ダメージで…あ」


 どうやらアンリも気がついたようで微妙な表情を浮かべている。

 アンリが宙空で何かを操作するように指を動かすとアンリの手に水着が現れる。

 そして一瞬の躊躇いの後、バサッとローブを脱ぎ捨てた。


「何してんのお前!?」

「ちょ!見ないでください!恥ずかしいんですから!」


 グリっと強制的に背後を向けさせられる。背後から聴こえる衣擦きぬずれの音に普段とは違った興奮が…って違う違う。


「なあ、アンリ。マイセット登録してなかったのか?」

「…まさか使うとは思ってませんでした」


 背後の衣擦れの音が止むと「もういいですよ」と言ってアンリが俺の肩をポンと叩く。

 背後を見てみれば昨日買った水着にラッシュガードを羽織った姿だった。水着姿を期待していたんだが残念だ。

 アンリは俺をじーっと見つめると一言。


「…変態ですね」


 どこのエスパーだよ。怖えよ。

 俺は平然を装いながらも内心でビビっていると、アンリは「とりあえず早く行きましょう」と言うと水に飛び込んでしまう。

 後を追いかけようと俺が水辺に近づくとアンリが水中から上昇してくる。ただし、その身体に触手を纏わせながら。


「いやぁああああ!シュウ君!助けてください!」

「えっと、とりあえず。ごちそうさまです。でも、欲を言うならもっと胸が欲しかった」

「ちくしょう!後でぶん殴ってやりますからね!?」


 ギャーギャー騒ぐアンリはとりあえず無視して触手に【鑑定】を使用する。


◇◇◇◇◇◇

名称:---

種族:メラドーラ

 HP :2900/2900

 状態:無し

◇◇◇◇◇◇


 なるほど、あれがフィールドボスか。

 俺が冷静に分析していると、水中から更に幾つかの触手が俺に向かって伸びてくる。

 バックステップで触手を避けると短い詠唱で火魔法【炎鎚えんつい】を発動させる。

 炎で形作られた鎚が1本の触手に当たるとタコの焼けるいい香りがして、戦闘中だというのに俺の腹が間抜けな音を鳴らした。

 俺の魔法によって焼かれた触手は慌てたように水に引っ込んでいく。もう無駄だと思うが。

 さて、次はどの触手が相手だ?


「あ、あのっ!は、早く、助けっ…ひんっ!」


 む、そう言えば忘れていたな。

 触手に絡まれて顔を赤らめているアンリは中々エロくてまだ見ていたかったがそろそろ可哀想なので助けることにする。

 俺が風魔法【エアカッター】を発動すると、複数の不可視の空気の刃がアンリに纏わりついていた触手を切り落とす。

 突然自分を持ち上げていたものがなくなったアンリは「ひぁああああ!?」と間抜けな叫び声をあげながら、重力に従って当然の如く落下する。落下先は水なので死にはしないだろう、多分。


「ぷはぁ!?ちょっとシュウ君!?死ぬかと思いましたよ!?」

「ああ、悪かったな。それはそうと水着脱げてるぞ」

「いやぁあああああ!シュウ君の変態!」


 いや、お前が気づかなかっただけだろ、と内心でツッコミを入れつつ俺は触手の動きを観察する。

 流石に2本も破壊されたせいか、触手達も警戒したようで中々襲って来ない。


「くっ…!この恥ずかしさの原因は全てあのタコ野郎にあります!焼きタコにしてやりますよ!【フレアカノン】!」


 アンリがそう叫ぶと橙色の魔法陣が現れそこから極太の熱線が放たれると、その進路上にあった3本の触手が熱線に触れた途端消し炭に変わる。

 触手がついに1本だけになると、触手が水中に潜ってしまう。

 するとザパーン!という音と共に水しぶきが舞い散る。

 音と水しぶきの中心を見てみればそこには妙にリアルな巨大タコ【メラドーラ】の姿があった。

 メラドーラは大層ご立腹なようで元々元気な3本の触手と俺に焼かれて未だに美味しそうな感じになっている触手を振り回して威嚇いかくしてくる。


「吹っ飛びやがれです!【トリプロージョン】!」


 アンリの叫びと同時にアンリの目の前に3つの紅色の魔法陣が現れ、そこから3本の紅色に輝く槍の形をしたエネルギーが飛び出すとメラドーラに触れた瞬間に爆発する。

 爆煙が晴れてその場を見るとそこには触手を全て失い頭部を半分失いながらもなんとか生きているメラドーラの姿だった。


「おー、頑丈なやつだな」

「そうですね、シュウ君早くとどめをさしてください。私はお腹が空きました」


 そう言ったアンリのお腹から間抜けな音が鳴る。まあ、俺も腹は減っているのだが。

 俺は目の前で死にかけているメラドーラに向かって風魔法【ウインドカッター】を放つとメラドーラは大した抵抗もせずにそのまま死に絶え、光の粒子に変わる。

なんて言うか、呆気なかったな。

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