第16話

「クリアできないってどういうことだよ!」


 俺はおっさんの胸ぐらを掴んでそう叫んだ。

 おっさんは苦しそうにこう答えた。


「今のままでは、だ。とりあえず離せ、苦しい」

「あ、ああ。悪かった…」

「ゲホッゲホッ、いやー、死ぬかと思った。マジ最近の若者怖い」


 おっさんは咳き込みながらそう言うとアイテムボックスから取り出したのであろう水差しの中身をグイッと飲んで口元を拭って言う。


「まあ、クリアできないわけなんだが…これから先のステージ具体的には50界から最後の90界までそもそもステージの環境がプレイヤーが立ち入れないようなものなんだわ。まあ、例えるならステージ全体が溶岩が覆っていて常に継続ダメージを受けたり」

「いや、でもその程度ならポーション飲み続ければ大丈夫なんじゃないか?それに対したダメージでもないんだろう?」


 そう、大抵のゲームの継続ダメージは微弱なものなのだから強いプレイヤーなら一切気にせずに戦い続けるだろう。

 俺がそう言うとおっさんは目を逸らしてこう言った。


「いや、継続ダメージの量がちょっと他のゲームより多く設定されている」

「どのくらいなんだ?」

「毎秒30%の継続ダメージ」

「バカじゃねえの!?」


 毎秒30%ということは時間にするとわずか4秒でどんな強者でも御陀仏おだぶつである。

 とても気まずそうにしているおっさんに俺は溜息を吐くとこう言った。


「解決策はあるんだよな?」

「まあ、一応あるがそのために我々に協力して欲しいのだ」

「協力?」


 協力なんて1プレイヤーである俺にどんな協力が出来るのだろう?

 俺がそうたずねるとおっさんはサムズアップしながらこう言う。


「スキルのテスターになって欲しいんだよ。ほら、今この場に立っているのはなぜかわかるかね?」

「ん…ああ、ユウタのスキル【未踏:認可】のおかげだろ?」

「そう、その未踏なんだがね?我々管理者側のスキルなんだよ。使い所としては主にゲームの調整などに使用するんだ」

「つまりどういうことだ?」

「簡単に言えばこの世界ゲームのあらゆる事象に囚われないということさ」


 なんていうかチートスキルなんじゃないだろうか。

 俺がそのチート加減に軽く引いているとおっさんがいきなり自分の右目に指を突っ込んだ。するとおっさんの右目に青いオーラのようなものが灯る。


「なにやってんの!?」

「ああ、いや。君たちの進捗状況を見るのを忘れていたからね。君たちが未踏に耐えられるかどうかを確認しておくのさ…って、君…」

「なんだ?何かあったのか?」


 俺がそうたずねるとおっさんは顔を押さえながらこう言った。


「はは…君の固有技能は我々管理者側のそれだよ…」

「どういうことだ…?」

「まだ完全開放はされてないみたいだが…君の固有技能【法則介入】だが…スキルレベルを10にしたらまた来てくれないか?場所はエーテル武具店の奥に繋がる道を作っておこう。なに未踏を使えば入ることは可能だ」


 そう言いながらおっさんは目の前に幾つも展開したARウインドウを操作する。

 すると俺の目の前にこんなメッセージが届く。


『管理者名[加藤かとう経久つねひさ]より【未踏】が付与されました。固有技能の欄に追加します』


◇◇◇◇◇◇

名前:シュウ

性別:男

レベル:19

職業:メインジョブ【錬金術士Lv.8】

  サブジョブ 【盗賊Lv.14】


HP:1285

MP:2500(+250)

STR:95(+25)

DEF:75(+125)

INT:320(+120)

MEN:220(+120)

VIT:70

DEX:280

SPD:340(+30)


〈技能〉

固有技能:【法則介入Lv.2】【未踏】


通常技能:【錬金術Lv.15】【火魔法Lv.20】【風魔法Lv.35】【罠感知Lv.10】【罠解除Lv.10】【罠作成Lv.18】【敵感知Lv.15】【鑑定Lv.20】【魔力増加[大]】【魔術の心得Lv.13】


〈装備〉

武器 :鉄のショートソード

頭  :鉄の額当

防具 :鉄の軽鎧

   :大鬼オーガのズボン

   :鉄の小手

靴  :小鬼ゴブリンの靴

装飾品:風魔の指輪シルフリング

   :盗賊のピアス


【所持金:28900L】


◇◇◇◇◇◇


 ステータスを確認してみると確かに固有技能の欄に【未踏】が増えていた。

 俺が未踏をタップすると未踏の効果が目の前に展開される。


『【未踏】:管理者権限Lv.1

ステージの裏側に入ることが可能となる。※現在この権限はプレイヤー用に設定されているため使用限界は1日1度となっている』


 1日1度が限界だと!?それじゃ大して使えないじゃないか!

 俺がそうおっさんに怒鳴ろうとすると急にアラート音が鳴り出した。


「なんだ!?」

「あ、認可時間の終了だな。早く出ないと消滅するぞ」

「そんな軽く言うなや!…ちなみに消滅するとどうなる?」

「もちろん死ぬ」

「おいアンリ早く行くぞ!」

「え!ちょ!待ってください!」


 俺はアンリの腕を掴むとダッシュで先程ユウタと共に歩いて来た道を走り抜け気がつくと元いた洞窟の中にいた。どうやら出られたようだ。

 たく…妙な目に合わせやがって…次会った時は殴ってやる!

 俺がそんな決意を固めているとアンリが震えているのに気がついた。


「どうした?」

「あ…あれ見てください…」


 そう言ってアンリが指差した方向を見ると天井一面に貼られた巨大な巣の中心にいる俺5人分はありそうな巨体の蜘蛛がこちらをガン見していた。

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