第15話

 しばらく暗闇の中をユウタに続いて歩いていると、突然視界が白一色に染まり、次の瞬間緑色の0と1が周囲に拡がった。

 俺達がその光景に見惚れているとユウタがクルリと回ってこう言う。


「ここが僕らの秘密基地だよ」

「秘密基地…?だいぶ稚拙ちせつなネーミングセンスですね」


 アンリがユウタに対して辛辣しんらつなコメントをする。

 というより稚拙なんて言葉よく知ってたな。バカなのに。

 俺が失礼なことを考えているとアンリがこちらをジーッと見つめてくる。

 なんなんだ?ああ、褒めて欲しいのか。


「よーしよしよし、難しい言葉をよく使えたなー」

「な…っ!バカにしないでください!ぶっ殺しますよ!」

「え、怖い」


 俺がアンリの頭を撫でると怒られてしまった。なぜだ。

 そんな風に俺たちが騒いでいると突然、先程までバラバラに動いていた0と1が俺たちの目の前に集合して人の形を取り始める。

 数秒後、そこに立っていたのは少し薄汚れた白衣を身にまとった彫りの深い顔立ちの壮年の男性だった。

 男性は2、3度手を広げたり閉じたりすると満足したかのように頷くと俺たちの方を見ると白髪の混じった黒髪をぐっと搔き上げてこう言った。


「やあ、初めまして。早速だが君達にお願いしたいことがある」


 お願い?なにをさせる気なんだ?

 俺とアンリが首を傾げていると男性はニヤッと笑ってこう言った。


「なに、簡単なお願いさ。メガネを…たちばなを殺してくれないか?」

「いや、なんでコンビニ行くついでにアイス買ってきてみたいなノリで殺人を依頼してんだよ。バカか?バカなのか?」


 俺がそうツッコミを入れると男性は「おお、それもそうだな」と言って白衣の胸元を正すとこう言った。


「行くがよい勇者よ!魔王メガネをぶっ殺すのじゃ!」

「んな物騒なことをいう王様を俺は生まれてこのかた見たことないぞ。そもそも言い方を変えれば良いってもんじゃない」


 いや、本物の王様も見たことないけど。

 俺がそうツッコミを入れると男性はムッとした顔をする。やめろやめろ、ムッとするな。中年のおっさんがそんな顔しても可愛くねえよ!

 すると今まで傍観していたユウタが「ふっ…」と鼻を鳴らして前に一歩出ると男性の肩に手を置いてこう言った。


「おじさん、僕に任せて」

「おお、ユウタ…さすが室長の息子!」


 いや、出来る出来ないに室長の息子かどうかは関係ないと思うけどな?

 それにしても室長の息子ってことはこいつの親父は…

 俺は喉まで出かかったその疑問をグッと飲み込んだ。誰にだって心の傷は抉られたくないものだろう。

 アンリもそれを察したのか黙っているとユウタがドヤ顔でこう言った。


「てつだってください」

「…え?」


 俺はユウタがなにを言っているのか理解できずにそんな間抜けな声を出してしまう。

 するとユウタが続けて放った言葉で俺は全てを察した。


「やくめでしょ!」

「ガチのユウタじゃねえか!」


 こんな旧世代のゲームの言葉を今の小学生が知ってるなんて思わなかったわ!まあ、俺も叔父に話を聞いただけで実際に見たことはないんだけどな。なんだっけ…なにかアイテムを催促する単語があったと思うんだが…

 俺が頭を抱えていると不意に肩をポンポンと叩かれる。

 そちらを見てみるとアンリが立っていてこう言った。


「はちみつください」

「それだぁあああああ!って!お前もかよ!」

「はやくいこ」

「おっさんも便乗してんじゃねえ!」

「「「やくめでしょ!」」」

「お前ら仲良しか!この中でマトモなの俺1人だけじゃねえか!」

「「「それはない」」」

「全否定すんなやぁあああ!」


 俺がそんな風にツッコミをして肩で息をしていると突然男性、もといおっさんが急に真剣な顔つきになって言った。


「さて、茶番はここまでにして本題に入ろうか」

「さっきの殺せ云々も茶番なのかよ…」

「そうだ、それにやつは私の手でぶっ殺さんと気が済まんからな」

「お、おう。そうか…」


 気が済まないと言っていたおっさんの言葉は本心のようで、事実おっさんの顔は真っ黒な笑顔が張り付いていた。

 おっさんは表情を戻し腕を組むとこう言った。


「まあ、君たちをここに呼んだのはなぜかというとこれから先のことを話すためだ」

「これから先…?どういうことだ?」


 おっさんは深呼吸をするとこう言った。


「君たち、つまりプレイヤーたちはこのままでは、ゲームクリアは不可能だ」

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