第11話

 教会前でビンタされた後俺達は昨日と同じ広場に来ていた。

 たしか開会式的なものが10:00からだから…あと15分くらいか。


「あれ?嬢ちゃん達じゃねえか」


 いつ始まるのかを考えていると男性プレイヤーから声をかけられる。そちらを振り向くと昨夜アンリが戦ったキョウジが立っていた。

 アンリはキョウジの姿を見ると杖を構えて威嚇いかくをし始める。やめなさい恥ずかしいから。

 そんなアンリを見てキョウジは大爆笑を始める。それを見てアンリは怒ったように言う。


「なに笑ってるんですか!」

「いや、相変わらず嬢ちゃんは面白えなあ、ってな」

「なっ!今すぐ昨日の仕返しをしてやりますよ!【プロー__」

「馬鹿野郎!止めんかい!」


 スパァン!とアンリの頭を叩くとアンリは頭を押さえてうずくまる。

 街中で放つなよ!危ないだろ!

 昨夜の惨状を思い出し俺は軽く身震いする。大量爆殺鬼なんてことになったら街中で生きていけなくなってしまう。

 そんな俺たちを見てキョウジはまた笑う。くそっ、なんで俺まで…


「あー!笑った笑った!それじゃ今日1発目は俺だからもう行くわ、応援よろしくなー」

「あ、おい!って、もう行ったのかよ、速えな…」


 しばらく笑っていたキョウジだったが息を整えるとそう言って行ってしまった。

 応援か…アンリが嫌がらなければいいが…

 ちらりと横でうずくまっているアンリを見る。


「いいですよ」

「おお、聞いてたんだな」

「当たり前じゃないですか、何言ってるんですか?」

「いや、ほらお前馬鹿だし、叩いたら…」

「そんなもろくないです!なんですか!私の記憶力は初期ファミコン並みだとでも言うんですか!」

「いや、その例えはわかりにくいぞ」


 アンリのわかりにくい例えにツッコミを入れる。まあ、確かにあのデータの飛びやすさは半端じゃなかったけど。

 しかし、アンリが許可するなんで意外だな。

 そのことを伝えると「ムカつくけどPVPの勉強になるから」とのことだった。負けたのが相当悔しかったんだろうな。

 2人で話をしながら広場の階段に座っていると昨日と同じ審判がステージに上がる。


『お待たせしました!2日目である今日、試合に出る選手は皆[攻略者パーティー]決定者です!それでは、選手の紹介です!』



【勇者】KYO-RAKキョウラク

 彼は固有職業を選んだプレイヤーである。彼のもつ固有職業【勇者】は光属性に強い適性をもつ。

 光をまと長剣ロングソードと盾を使って戦う姿はまさに勇者と言えるであろう。

 さらにその整った容姿と柔らかな物腰に数多の女性ファンがいる。


【魔王】KYOUJIキョウジ

 彼は先程紹介したキョウラクとは真逆に位置するであろう固有職業【魔王】を持つ。

 整った容姿に鋭い眼光、そして闇を操るその姿はまさに魔王と言えるだろう。


【龍皇】SIRAKUMOシラクモ

 彼女の見た目を一言で表すならば龍だろう。

 一度彼女の固有技能【龍皇化】を使用すればその地は焦土に変わるであろう。

 その可愛らしい容姿に騙されるべからず。


【歌姫】LINNEリンネ

 彼女はとても華奢きゃしゃである。武器を振り上げ戦うことはできない。故に彼女は歌う、その歌声を聴いたものに訪れるのは死である。


【数打】SaIKaサイカ

 彼はめんどくさがり屋である。故にその場から動かない。

 しかし、何人たりとも彼に近づくことはできない。全ての攻撃は彼の放つ魔法の弾幕によって掻き消されるのである。


【鬼畜】SYUUシュウ

 彼のプレイスタイルは独特である。穴を空け、アイテムによって動きを封じ様々な方法で相手を痛めつける。

 まさに鬼畜である。



 こうして、選手全員の紹介が終わった。そして、次の瞬間会場中が歓声に包まれた。

 ある者は立ち上がり、ある者は煩わしそうに眉をひそめる。

 様々な反応の中俺は__


「なあ、アンリ」

「なんですか?」

「俺だけ紹介が変じゃないか?」

「いえ、正当な評価だと思いますけど」

「嘘だッ!」

「やめてください!トラウマがよみがえります!」


 俺が某漫画のヒロインの真似をすると何かに怯えるようにアンリはガタガタと震えだす。時々「針が…」とか「玄関の隙間から…」などと言っている。

 そうこうしているうちに第1試合が始まるようでキョウジと先程紹介されたイケメン、キョウラクがステージ上に上がる。

 キョウラクがステージに上がった瞬間会場中がワーワーと騒がしくなる。さらにキョウラクが手を振ると「きゃー!」と黄色い歓声があちこちから聞こえる。くそっ、イケメンめ。くたばればいいのに。

 対するキョウジはそれを見ながら居心地が悪そうな微妙な表情を浮かべていた。わかるぞ、その気持ち。アウェイ感半端なさそうだもんな。

 こうして2人の選手がステージに上がったのを確認した審判が開始の合図を出すと同時に2人とも魔法を唱える。


「シャドウランス」

「ライトニングスピア」


 影で構成された槍と光で構成された槍がぶつかり合い、混ざり合い、そして爆ぜる。黒と白の粒子が舞う中2人はすでに次の行動に移っていた。


枝葉闇針しようあんしん!」

陽光盾ようこうじゅん


 地面から生えてきた闇の大木をキョウラクは光の大きな盾で防ぐ。

 しばらくの間2つの魔法は争っていたが時間が来たのか消滅する。

 それに合わせたかのように2人は距離をとって互いに笑いあう。


「なかなかやるな?さすが勇者」

「いやいや、人のこと言えないでしょう?魔王さん」


 そう言って2人はさらに笑う。

 そんな2人の攻防を見てオーディエンス達の興奮は最高潮に達したようで、あちこちから雄叫びとも取れるような歓声が飛び交っていた。

 キョウジはそんな観客たちを見回すとキョウラクに向き直り腰に下げた黒鞘くろさやの剣を叩きこう言う。


「なあ、ちまちま魔法撃ち合ってないでこいつで打ち合わねえか?」

「おや、魔王さんいいんですか?それだと私に分があるように思えますが?」

「なに、さっきまで俺の領域で遊んでくれた礼だよ。さ、やるぞ【闇纏い[しょく]】」


 そう言ってキョウジは剣を構えるとキョウジの持っていた剣を闇がおおう。

 対するキョウラクはやれやれと首を振るとこちらも腰の剣を引き抜き構える。そしてこう言った。


「まったく…律儀な方ですね、お言葉に甘えさせていただくとしましょう【光纏い[ぜつ]】」


 闇の剣と光の剣、それを構えて向かい合う2人は誰が見てもまさに魔王と勇者のそれだった。

 先に動いたのはキョウラクだった。

 一瞬で間合いを詰めると光の剣を下から滑らせるようにしてキョウジに振り抜く。

 対するキョウジは闇の剣で攻撃をそらすとキョウラクに向けて蹴りを放つが、キョウラクのスキルで避けられてしまう。

 また2人は距離を取り睨み合うと同時に詠唱を始める。

 おそらく上位の魔法なのだろう。こんな序盤でそんな魔法が使えるのも職業特性で属性才能が強化されているためだろう。

 そして2人の詠唱が同時に終了する。


「闇に喰われろ【闇夜天喰あんやてんく】」

「万物を貫く光【天光星乱てんこうせいらん】」


 竜のあぎとを模した闇と乱れるかのように散る星のような光がぶつかる、そして爆発が起こる。

 爆煙が晴れた時、そこには装備はボロボロになりながらもなんとか立っているキョウラクの姿があった。

 その対面には仰向けになって倒れているキョウジの姿があった。


『し、試合終了!勝者キョウラク!』


 うおおお!と会場が震えた。

 すごい戦いだった。まさに頂上決戦というのにふさわしい戦いだったと思う。正直これを超える戦いをしろと言われたら無理だな。

 ちらりと横を見るとアンリも興奮したように胸の前で拳を握りワクワクとした様子だった。まるで遠足前の子供のような姿についつい笑みがこぼれる。


「どうしたんですか?」

「いや、なんでもないぞ」


 こっちを見たアンリに顔を見られないように俺はステージに視線を戻す。

 そこには体力が回復したらしいキョウジとキョウラクがニッと笑いあって握手をしていた。

 それを見て観客はさらに沸き立つのであった。

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