午前0時10分 T-21にあるNG社の最上階

 ユグドラシルの木々が次々と社長室の床を突き破り、更に上昇を続けて天井を突き抜ける様は、まるで樹木の成長を超早回しで見ているかのような光景だった。

 銃や斧を持った兵士達が突如床に出来たクレバスのような裂け目に飲まれるように落ちては消え、あっという間に苦境に立たされていたヴェラ達の状況は一転した。但し、この状況も一歩間違えば好転にも暗転にも繋がる恐れがあるので、気を緩める事は出来ない。

「た、助けてくれ! うわああああ……!」

 その暗転へ直下した人々の中には、大魔縁の大司教として崇め奉られたマサル・ホンダの姿もあった。滅亡した日本を支配する程に急成長を遂げた宗教組織のトップであり、大勢の人々の人心を掌握して新たな日本を作り出そうとした野望を抱いた野心家の惨めな最期であった。

「ヴェラ! 此処から脱出するぞ! アキラとか言うヤツの話に付き合ってられん!」

 その声に反応してヴェラが振り返れば、ヘルメットを小脇に抱えたサムがオリヴァーと共に出口の前に立ち、彼女とスーンに向かって来いと手で合図を送っていた。先にスーンが駆け出してオリヴァー達の元へ合流し、ヴェラもそれに倣って後を追おうとした。

 だが、そこで横合いから思わぬ伏兵が飛び出した。まもりびとだ。猿のように身を低く屈めながら突撃してきたまもりびとは数m先からヴェラに飛び掛かり、硬い樹皮に覆われた腕を振るった。幸いまもりびとの攻撃は彼女に命中しなかったが、腕の中に抱いていたミドリを奪われてしまう。

「ミドリ!」

 ミドリを奪ったまもりびとを目で追い掛けると、ソレはトコトコと猿回しの猿のような可愛らしい足取りでアキラの傍へと近付き、奪い取ったミドリを捧物のように恭しく彼に手渡した。知性を持たない筈のまもりびとにしては珍しい遣り取りではあるが、ヴェラはそんな事実よりもミドリを取り返す事しか頭に無かった。

「ミドリを返しなさい!」

「残念ながら、返す訳にはいかんな。彼女は私が生み出した計画の核であり、この世界を変える鍵なのだ」

「何を訳の分からない事を……!」

 アキラの言葉に耳を貸さず距離を詰めようとするも、床を突き破った樹木が二人の間を遮った。足元に巨大な罅が稲妻状に走り、危うく罅の上に足を乗せそうになったが辛うじて踏み止まった。そして未だに伸び続ける樹木を見上げれば、その樹木に足と手を掛けて上っていくアキラと、彼の腕に抱かれたミドリの姿が目に入った。

「ミドリ!」

「ヴェラ! 戻って来い!」

 ミドリを追い駆けようとしたヴェラの背中に、再度仲間の声が当てられた。振り返れば無数の樹木で視界の殆どが埋め尽くされていたが、その隙間から見える扉にはサムとオリヴァー、そしてスーンの姿が見えた。

 樹木の隙間を縫うように走って戻れば、彼等と一緒に建物から脱出出来るかもしれない。だが、その可能性を選ぶよりも、ヴェラにはやらなければならない事があった。

「サム! オリヴァー! スーン! 先に戻ってて! 私はミドリを取り返しに行くから!!」

「何を言ってやがる!! 赤ん坊なんて気に掛けている場合か!」

 怒号のような大声でサムが戻って来いと訴えるが、彼女は首を横に振ってそれを拒否した。

「ヤツはまだ何かを企んでいる。もし、ここで諦めて逃げてしまえば、それこそ世界の終わりよ。それに―――」

 そこでヴェラが言葉を区切ると、スーンが「それに?」と問い掛けて言葉の続きを促した。

「それに私はあの子を守ると……リュウと約束したからね」

 そう言うとヴェラは踵を返し、丁度床を突き破って出て来た樹木に飛び移った。その後暫くは自分の名前を叫ぶ声が通信機と背後から聞こえたが、やがて天井を破って屋上に出ると、どちらも聞こえなくなっていた。



 建物を突き破った無数の樹木がNG本社の屋上で幾重にも折重なり、最終的には丸まった毛玉のような球体状になった。細長い高層ビルの形状と相俟って、まるで丸い傘を被ったキノコのようにも見えなくもない。

 そのキノコの天辺で、ヴェラは足を踏ん張らせて立ち上がった。幸いにも雁字搦めになった樹木のおかげで足場はしっかりしているし、足場の広さも先程の執務室と比べれば倍以上だ。戦うには十分だ。

 周囲に生えたユグドラシルよりも遥かに高い位置に居る為か、天から降り注ぐ月光が彼等の姿を鮮明に映し出した。そう、彼等―――アキラとミドリだ。二人の姿を見付けると、ヴェラは堂々とした足取りで近付いていく。

「ミドリを返して貰うよ。リュウ……いや、アキラ」

「やれやれ、此処まで追い駆けてくるとは。その執念には恐れ入るよ」

「諦めて欲しかったら、さっさと私にミドリを返す事だね。もしも嫌なら、徹底的に追い回すわよ」

 ジョークを言うような軽い口調とは裏腹に、背に懸けていた斧を手に取り構えた。それが彼女の本気の度合いを物語っており、アキラも思わず肩を竦めるしかなかった。

「残念だが、それは無理な話だ。先程も言ったように、彼女は私の計画の核だ。手放したら、その時点で今までの苦労は水の泡だ」

「気になっていたんだけど、その計画の核ってどういう意味なの? マサルが言っていたように、彼女にはまもりびとを操る力があるから、それを利用しようと言うの?」

 ヴェラが今まで得た情報からそう断言すると、アキラの口元にニヤッとした笑みが浮かび、徐々にその笑みが大仰なものへと変貌していく。

「まもりびとを操る力だと? ふっふっふ……はっはっはっは!! 彼女にそんな力などないさ!!」

「何ですって? でも、過去に彼女が泣き叫んだ時には必ずまもりびとが現れたわよ?」

 過去の記憶を巡らすと、ヴェラ達が危機に追い込まれ窮地に立たされた時、偶然現れたまもりびとによって救われた事実が何度かある。そして必ず、その時にはミドリが泣いていた。

 つまり、ミドリの泣き声=SOSを感知してまもりびとがやって来たのでは……と、これまでの話を統合して今の推測を立てたのだが、アキラは直々に彼女の説を否定した。

「まもりびとがミドリを守るのは、彼女を守らなければならないという統一された意思があるからさ」

「守る?」

「そう、彼女はまもりびとを制御する為に生まれたんじゃない。ユグドラシルの世界を生み出す為の鍵なのさ」

「……どういう意味なの?」

 アキラが恍惚の笑みを浮かべながら説明するのに対し、ヴェラは剣呑な眼差しで相手を睨み付けた。

「ハザマダ君が総合病院で行っていた実験は知っているだろう? 妊婦にGエナジーを投与し、Gエナジーに対し耐性を持つ赤ん坊を作る『緑の子供達計画』……実は彼の協力者はマサルではなく、他ならぬ私さ」

「もう何を言っても驚かないさ。そして今のアンタなら、そういった外道も出来ると思えている自分が居るよ」

 諦めか失望か、そのどちらかなのかヴェラには分からなかった。強いて言うならば、思い出の中にあるリュウヤのまま綺麗さっぱりに御別れが出来ていれば、こんなにも胸糞の悪い思いをしなかったのは確かであろう。

「そうか、なら話が早い。兎に角、この計画の目的はまもりびとを制御する赤ん坊を作る事ではない。この世界をユグドラシルで埋め尽くす事だ。その結果、誕生したのがミドリだ」

 そこで言葉を切ると、一旦息継ぎをしてから再び説明を再開させる。

「通常の植物の繁殖では雄蕊と雌蕊が混ざり合って種が生まれ、それが地上にバラ撒かれて草花となる。だが、このユグドラシルの元となった地球外植物の繁殖方法は違う。地球外植物は繁栄期に入ると複数の樹木が一斉に動き出し、複数絡まり合って王樹おうじゅと呼ばれる状態へと変形する。今、キミの足元にあるのが正にそれだ」

「これが……」

「そして王樹が開き、そこへ核を取り入れた瞬間、火山の噴火のように広範囲に胞子を飛ばすんだ。そして細かい粒子の胞子は地球外植物の種子と融合し、大地に着地した瞬間に樹木へと急成長する! そしてあっという間に辺り一面は森となる。そう、この日本のように」

「それって……!」

「ああ、そうだ! 災厄のグリーンデイでも同じ事を起こしたのだ! 王樹を生み出し、そこに核を放り込み、そして胞子を飛ばしてユグドラシルの森で日本を埋め尽くす! 都会を一瞬で森で埋め尽くす程の繁殖力と場所を選ばない適応力! 僅か一日で日本を緑で埋め尽くすのだから、災厄のグリーンデイとはよく言ったものだ!」

 そこでヴェラはチラリと足元に広がる球体状になったユグドラシルを見遣り、ゴクリと唾を飲んだ。最初は何なのか分からない不思議な形状だとしか思わなかったが、真の狙いと目的を知ると身の毛も弥立つ恐ろしさが込み上がって来た。しかし、それでも冷静な知性を保たせていられるのは、今の話を聞いた上で腑に落ちない点があったからだ。

「成程、これがどれだけ大事なのかは分かったわ。だけど、まだ分からない点が二つある」

「私に答えられる範囲ならば、何なりと」

「ミドリがユグドラシルの世界を生み出す核となるのは分かったけど、ミドリが誕生する前に日本はユグドラシルの森に沈んだ。つまり、ミドリを必要とせずとも貴方の計画は実行出来るのでは? それと種子と融合させると言っていたけど、その種子は一体何処から来るの?」

 ヴェラが2本の指を上げて疑問を口にすると、アキラはミドリを抱いているのとは反対側の手を顎に添えてフム…と考える素振りを見せた。

「ああ、そういえば説明不足だったな。では、先ずは後者の説明をしよう。種子は常にユグドラシルの樹液に含まれている」

「樹液?」

「そうだ。これはあくまでも仮説だが、ユグドラシルの前身は何らかの方法で樹液を自分以外の生物に強制的に植え付け、変異体を作った。そして変異体を操作して遠くの地へ移動させ、生息地を拡大させていったのだろう。例えるならば強風で飛ばされるタンポポの綿毛のソレみたいな感じだ」

「例えに挙げられたタンポポが不憫過ぎるよ。けれど、樹液から種子が生み出されるのならば、やはりユグドラシルを製造している日本だけにしか被害が及ばないのでは……?」

 ヴェラがしつこく食い下がる様に疑問を投げ掛けるのは、アキラの言う計画の信憑性を疑っているからだ。しかし、彼はヴェラの質問に鼻先であしらう様にフンッと強く息を噴き出すと、こう言い返した。

「今、世界を支えているGエナジーは元々何で出来ていたか忘れたのか?」

 そこでヴェラはハッと目を見開かせ、息を飲んだ。大して動いていないにも拘らず、心臓が早鐘を鳴らし、額に冷や汗の玉が浮かび上がる。そんな彼女の反応を気にも留めず、アキラは更に言葉を続けた。

「Gエナジーはユグドラシルの樹液を元にしている。そしてGエナジーに対応した機械から吐き出される排気ガスを始め、既に様々な形で世界中に微粒子のような種子が飛び散っている。

 こうなってしまえば世界中をユグドラシルで支配する準備は整ったも同然だ。あとは胞子を世界中に撒き散らせば、私の夢であった人類の滅亡は完成する。その為にもミドリが……な核が必要なのだよ!」

「完璧な核!?」

「完璧な核とはGエナジーを受け入れながらも、まもりびとに変異していない完全なハイブリッドヒューマンの事を指す! それを目指した末に誕生したのがミドリだ! そして彼女を核として王樹に投じれば、一層空高くに胞子は放出され、上空のジェット気流に乗って胞子達は世界中へと旅立つだろう!」

「じゃあ、日本を襲った災厄のグリーンデイは……! 国一つを滅ぼす被害を出しながら不完全だったって言うのかい!?」

「その通りだ。日本を襲った災厄のグリーンデイで用いられたのは不完全な核……まもりびとと化した赤ん坊だ。だが、残念ながら不完全な核では思った以上に胞子を飛ばせず、日本を丸々一つ飲み込むのがやっとだった」

「赤ん坊……」

 そこでヴェラの脳裏に浮かんだのは、あの病院で出会った妊婦型や赤ん坊のまもりびとだ。彼等が生み出された目的は単なるGエナジーの研究、もしくはハザマダがボイスレコーダーに残していたような変異体を従えさせる為の物だと思っていた。

 しかし、実際には世界を滅ぼす鍵を生み出す為だったとは誰が想像出来ようか。いや、ハザマダですら知り様も無かった。彼は、自分が信頼する男にまんまと騙され、良い様に操られていただけだ。

「これはあくまでも私の推測だが、ユグドラシルの前身がまもりびとのように変異体を作る目的は、他ならぬ核に適した生命を見付ける為だ。適合せず変貌したまもりびとは不合格の烙印を押された挙句、自身を変貌させた植物の私兵となり、更には植物の繁栄の為の道具に利用させれる。つまりは、まもりびとはユグドラシルを守る為の忠実な僕なのだ」

 それを聞いた時、ヴェラは「あれ?」と不意に現れた不思議な感覚に心を掬われた。似たような話を、以前にも何処かで聞いた覚えがある。

 確かまもりびとに変貌していく最中に、誰かがこう言っていたのだ。「呼んでいる」――と。その一言を頼りに記憶の糸を辿っていくと、遂に彼女は答えに辿り着いた。

「確かT-15の研究室で見付けた日記にも、まもりびとに変貌しつつある研究員が口にしていた。『呼んでいる』と。まさか、それはユグドラシルに支配されている証拠だったの?」

「その通りだ。彼等の肉体を作り替える能登同時に、人間の意識からまもりびとへの意識に改変させるのがユグドラシルの最大の武器と呼んでも過言ではなかろう」

 漸くヴェラはこの男……アキラ・オダの目的を知った。ユグドラシルの繁殖力を利用し、世界中を魔の森で埋め尽くす気だ。だが、それによって彼が何を得られるのか。それだけが依然として謎のままだ。

「アンタの目的は分かった。でも、だとしたらアンタに何の利益があるの? ミドリにまもりびとを操る力が無いとなれば、アンタだってまもりびとに殺されるか、まもりびとになっちまうのがオチだよ」

「利益だって?」アキラは呆れたような溜息を盛大に吐き出した。「そんなものは無いさ。これはあくまでも私個人の世直しみたいなものだ」

「世直しだって?」

 ヴェラが怪訝そうにアキラを見遣るが、当人は何処吹く風と言わんばかりに飄々とした態度で言葉を口にした。

「実を言うと私は大の人間嫌いでね。彼等が勝手に潰し合おうが罵り合おうが手を組みながら裏では抹殺の機を窺っていいようが、どうだって構わない。だが、この地球に与えて来た損失だけは看過出来ない。キミも知っているだろう、この地球各地で起こる天変地異が今では日常茶飯事になりつつある事に」

「つまりは何だい。その天変地異の元凶である人間を滅ぼせば、地球の傷は癒えるだろうって事かい」

「その通りだ」アキラは躊躇わず、断言した。「暫くはまもりびととユグドラシルの天下が続くだろうが、それも長くはない。何せこの惑星の大地は狭い。人間同士が争いを永劫続ける程にね」

 その皮肉に自嘲にも似た含み笑いを口元に浮かべ、アキラは更に言葉を綴った。

「支配出来る大地が無くなれば、ユグドラシルは何らかの手段を用いて地球を出ていくだろう。現に海底で見つかった例の植物の種には、隕石の岩盤が付着していた。それが何よりの証拠だ」

「そして彼等が居なくなった後の地球は、惑星の持つ自己再生力によってゆっくりと古傷を癒して元の状態に戻っていく……そう言いたいの? まるで地球を守る救世主になったかのような傲慢な考えだね」

 ヴェラは嫌悪感を隠さずに吐き捨てるが、アキラは気に掛けるどころか光栄であるかのように軽く胸を張った。

「救世主も何も、私は私にとって最善だと思う事をやるまでだ。それに私自身は器が矮小だと理解している。だから私以外の人間の考えなんて、どうだって良いのだ」

「……傲慢やエゴを通り越して、イカれてるよ。アンタ」

「はははは、的確な評価だと思うよ。だけど、私はこうも考えている。人類を救うのに必要なのは人々を導くカリスマと万人を受け入れる器量だが、人類を滅ぼすのに必要なのは一人の人間が持つ傲慢なエゴと狂気だけで十分だとね」

 そこでヴェラは斧に手を掛けて、身構えた。最早相手が生身の人間だろうが、今ならば目の前の男を容赦なく溶断出来るという覚悟が彼女の中に芽生えていた。いや、寧ろこの男は今此処で仕留めないと危険だという認識が彼女の中にあった。

「最後に一つだけ聞かせて。どうして私達と行動を共にしたの? マサルはミドリが誕生した本当の意味を知らなかったみたいだけど、彼に渡すフリをして行動を起こせば、こんな面倒な真似はしないで済んだんじゃないの?」

「あの男は自分の野心に溺れた哀れな野心家だが、一方でGエナジーの研究者としては百年に一人と言われる程の天才だ。彼ならば多少時間は掛かれど彼女が生まれた意味を解き明かし、自分が支配する予定の世界がユグドラシルに埋め尽くされる前に、あの子を始末するだろう。だが、キミ達ならば必ずミドリを守ってくれる……そう信じたから一緒に行動したのだ」

「……その信頼が、こんな形で破綻するのは正直残念よ。リュウ」

「そうだな。だが、私も私の信条で動いているのだ。今更、諦めるという選択肢は取れんぞ」

 そこで二人の言葉が途切れると、話が終わった事を意味するかのようにヴェラは駆け出した。目的はアキラ・オダを仕留め、ミドリを手中に取り戻す事だ。

 するとアキラはスッと身を横にずらした。彼女の攻撃から避けるには、タイミングが余りにも早過ぎる。一瞬だけ不思議に思ったヴェラだが、アキラの立っていた背後に墨をぶっ掛けられたかのような人影を見付け、彼女はすぐさま駆け足に急ブレーキを掛けて止まった。そして人影をまじまじと眺め、月光の助けもあってソレが誰なのか分かると名前を口にした。

「アンタは……ゲイリー大佐!?」

 アキラの背後に立っていたのはゲイリー大佐だった。しかし、威厳に満ちた顔は樹皮に覆われており、両目の眼球は爛々とした自発的な輝きを発していた。自我も失い掛けているらしく口元からボタボタと唾液が流れ出ている。

「アキラ! ゲイリー大佐に何をしたの!?」

「何、キミ達を救う時に銃弾を彼の腕に命中させただろう? その時の弾丸に濃縮させたGエナジーを内包させておいてね。どうやら彼を見る限り、効果覿面だったみたいだ」

「ぐ……グォォオオオオオ!!!!」

 まるで実験動物に投与した薬の経過状況を伝えるような感情の籠らぬ口調で説明すると、突然ゲイリー大佐が天に向かって雄叫びを上げた。猛獣のような遠吠えが東京の空に響き渡り、彼の着ていた軍服の下でぐにょぐにょと蠢いた。やがて軍服が内側の圧に耐えられずに破け散ると、タコの足にも似た樹皮に覆われた触手が無数に姿を現した。

「まだ王樹の開花には時間がある、それまで彼の相手をして貰おうか」

 そう言ってアキラがほくそ笑みと、ヴェラはチッと舌打ちして言葉を返した。

「やっぱりアンタ、イカれているよ」

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