b-lack
天堕 おとは
第1小節ー拾われた日
どうしてこうなった。
行き場のない怒りも悲しみも一気に襲ってきて、その場にうずくまった。
どこにも俺の居場所なんてないのか。
アスファルトに拳を叩きつけて、全てを呪った。
「ちょっとそこのお兄さん。」
俺の事ではないだろう、と顔を上げずにいたが、声の主の影がこちらに向かっていたので上げずにはいられなかった。
なんだか、軽薄そうな顔をしてワックスで毛先を遊ばせているオシャレな男だった。
俺より少し年上だろうか。
「こんなところで何してるの?うちはもう閉めちゃったよ?」
親指で背を預けていた建物を指している。
振り向くと、ショウケースに飾られた楽器が見えた。
ここは、楽器屋だったのか。
「ん、お邪魔でしたか。すみません。」
「いや、いいんだけど。……なんか溜まってますって顔してるね。話なら聞いてあげるよ。俺も一人で飲むより楽しいしさ。」
人の悩みでも、楽しい悩みやノロケに近いものなら楽しいだろうが、今の俺の悩みはそういう類のものじゃない。
「どう?付き合っちゃくれないかい?」
言葉は俺に同意を求めているようで……しかし、有無を言わさぬ瞳の輝きが、闇夜で電灯が少ないこの小さな道で煌めいていた。
無言を肯定と捉えたのか、男はもう少し笑みを深めて言った。
「じゃあ、行こうか。」
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