第2話 召喚

 待ちに待った満月の夜・・・

 深夜2時・・・鳥の血で描かれたデビルスターのマークの中に座り、満月の光を一心に浴びる。

「DIabolus in Pearl flumen vota mea」

 徐に唱える呪文。

深く考えてしまうとバカらしいけど、ひたすらこの言葉を繰り返す。

 それでも学校の図書館で出会ってしまった古い蔵書。

 この本に出会った時、これは運命だと感じたの。

 それに今夜の月はスーパームーン、きっと特別な事が起こるはず。

 起こらなければ・・・私の選択はただ1択のみ。

 お願い。

 悪魔よ。

 この夜の為に、必死で読めない蔵書を訳しながら毎晩読んだわ。

 16年生きた中で1番頑張ったと思う。

 そりゃあ頑張ったからって必ず報われない事は、子供だけど私だって知っている。

 それでも、生きていたら何かに頼りたい時だってあるのよ。

 大人に言っても理解なんかしてくれない。

 まだ子供なのだから、世界が狭いから思いつめているだけだと軽く考えている。

 大人になったら世界が広がるから、学生時代の悩みなんかすぐにちっぽけだと気付くよ・・・。

 本当に、そう?

 いじめで死ぬのはバカだと言う大人がいるけど、じゃあなぜ大人はそのいじめを止められないの?

 解決できないからでしょう?

 結局大人が私達に教えてくれるのは、人は助けてくれないって事だけ。

 辛くてどんなに泣き叫んでも、誰も助けてくれないと身を持って教えてくれる。

 頼れるのは自分だけ。

 自分で戦って強くなっていかなければ何をも得られないって現実を私は知った。

 私の悩みはいじめではないけれど、それでも誰も助けてはくれない。

 父や母さえも結果は同じ。

 なら少しでも未来を楽しめる可能性に賭けたい。

 それがどんなに現実離れしたくだらない行動でもね。


「呼んだか」

 その時、低く凍りつくような声が耳に響いた。

 目を開けると、デビルスターのマークの外に背の高い美しい男が立っている。

 何・・・この超絶イケメン?

 アニメやラノベみたいな展開じゃない?

 まあ、悪魔を呼び出そうとしている女子高生ってだけで十分アニメチックだわね。

腰までも届きそうな銀色の髪と、その頭には月光に煌く禍々しい2本の大きなツノ。

 スタイルのいい身体は黒い光沢のある布が覆っている。

 そして瞳は血のように赤く、静かに私を見詰めていた。

 でも・・・悪魔にイケメン説ってあった?

 だいたいの本でも悪魔の正体って、山羊の頭とかじゃなかったかしら。

「それはそちら側の勝手な想像だろう」

え?

心の声って聞こえるの?

「ああ、心の声を聞こうと思えば聞く事はできる。だが今は、お前口に出していたぞ」

 え?

 顔が一気に赤くなるのが分かる。

 またやったか・・・たまに口から心の声が無意識で漏れるのが私の悪いクセなのよね。

「それより、願い事はなんだ」

私のしょうもない呟きはさておき、イラついた口調で聞く。

「・・・私の彼氏になって」

 一瞬恥ずかしさで考えたけど、これが1番叶えたい事かも。

 悪魔を彼氏にするとなると、色々と問題は山積みだろうけど。

 ってか、アニメやラノベじゃなくてもこんなに超絶イケメンならその一択しかないでしょう。

 どうせ私に失うものなんてこれ以上ないのだから。

顔色はまったく変わらないが無言の悪魔に、畳み掛けるように言葉を続けた。

「本当は違う事をお願いしたかったのだけど・・・あなたを見て気が変ったの。私が20歳になるまで彼氏として一緒に過ごして」

 本当は誰もが羨むような素敵な恋がしたかったけど、この悪魔となら顔だけでもトキメク。

「なぜ」

「誰にも真似出来ない思い出を作りたいの」

「報酬は」

「私が20歳になったら、私の魂をあげる」

 20歳になったらすべてが終わる。

 それならこんな素敵な悪魔に捧げるのも悪くないわ。

「魂か」

悪魔は考えているのか、私を値踏みするような目で見ている。

「いいだろう。ただし確認だ、契約解除は悪魔自身が決められる事は知っているな」

「うん」

 知っている。

 それが1番この契約で悩んだところだった。

 悪魔は信用できない。

 簡単に約束を反故にするだろう。

 それでも・・・。

「20歳になる前に解除は遂行されるかもしれないが、その時はどうする」

「それはダメ。20歳になるまではどんな事があっても守って」

 相手は悪魔だ。

 こんな言葉、のれんに腕押しだろう。

 それでも悪魔を説得なんてできやしないから、視線だけは外さずに必死でお願いしてみる。

「ふん・・・まあ、いいだろう」

 不適な笑みを浮かべながら、鋭いツメで人差し指を刺すと私に向かって手を差し伸べた。

 私も準備していたカッターで人差し指を刺す。

 そして血の滲んでいる人差し指をお互いにすり合わせた。

 この契約の儀式が終わるまでは、デビルスターからは出てはいけない。

 1歩でも出た瞬間に食い殺される可能性があるから。

 やはり、そこは悪魔。

 慎重に行動しないとね。

「これで、契約成立だな」

悪魔が笑って尋ねる。

「ええ」

「今日からエルが私のマスターになるのか。とりあえず、よろしく」

 悪魔は仰々しく跪いて挨拶をする。

 何それ、王子様みたいでカッコイイ!

 顔が整っていてスタイルがいいものだから、めちゃ様になるし。

 素敵過ぎる。

 私、悪魔召喚して本気で良かった。

 そりゃあ、20歳になったら怖い思いはするだろうけど・・・それは覚悟して決めたのだし今は考えない。

 悪魔を呼び出したとは思えない程私の心はどうにも浮かれているらしく、なんだか今の状況を楽しんでいた。

 どうしてだろう?

 きっと悪魔が山羊の頭じゃなくて、超絶のイケメンだったからかもね。

 

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