第39話 小さき響く音



-Luis-


 …いましたね。


しかしはっきりと”何処”とは言えません。

何か靄のような…、膜に包まれているようなのです。


『エヴァン様、何となくは感じられますが結界のようなものが張られているようではっきりと感知はできません』


 

 ここは精霊族とエルフ族が住まう森。

おそらく不用意にヒトが聖域に入り込まないように目くらましが掛けられているのでしょう。




「ルイス、大体でいい。どのあたりにいるか探れるか?」


『大体の方角でよろしければ』


 …細部まで感知できたら出来るドラゴンなのですけれどね。

流石にここまで弱っている場合は感知に特化したドラゴンでないと少々難しいですね。


…私が感知特化型ではないことがとても悔しい。



「それでいい。…頼むぞ」


『お任せください』


 奴らがもし地中にいるとしたら、あまりこちらの動きを知られるのは得策ではないかと思って無難な方法で気配を探っていたのですが、こうも弱々しいと…。


仕方がありません。

あまり得意な呪ではないのですが〈地〉の力で探ってみましょう。


私の魔力は〈風〉と〈炎〉…。

保持外の〈地〉の魔力を扱うとなると私だけの魔力で行うよりも魔の契を使って、エヴァン様と意識を繋いだ方が精度は上がります。


ですが、エヴァン様と隣のヒトは先程まで〈風〉の力を長時間使っておられた。

となると凡人レベルの魔量では今立っているのがやっと、と言ったところ。


そんなヒトの隣でエヴァン様のお力を借りるわけにはいきませんから、

今回は一人でもどれだけできるかという力試し半分でやってみましょう。




 この森の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。


そして、足元にできる限り意識を集中させて


〈地〉の呪によって緑ではないものに地響きが反響する場所を探す。




 …少なくとも北と西側の森の中ではなさそうですね。


 南側で動いているヒトの気配がしますが、足音からするにエドワードとかいう男達のものと、それよりも小さい足の音。


小さい者の音がするのはオーラが強く感じられる南東側の山の裏側?でしょうか。



 ヒトではない、この森に生息する獣の足音だと思われる音を丁寧に拾っていく。


 位置からするとかなりニコラスに近い場所だろうか…。

苔のような柔らかいモノを踏んでいるかのような音が聞こえてくる。


ひとまずここに来てから初めて感知した小さな足音。

それをエヴァン様に伝える。



「南東の山のさらに裏側、か。

おそらくルイスの言う3人の足音はエドワード達のモノで間違いはないと思う。

ルイスが丁寧に感知をかけて拾えた音がそれであるなら、合流の意も含めて南東に向かおう。


他、意見はあるか?」


「賛成だ。シバもそれでいいか?」


 隣のシバもその相棒パートナーのヒトも頭を縦に振ったのを確認して、

エヴァン様は私の背に跨った。


「ルイスの感じた方角へ真っすぐ飛ぶんだ。

きっとその先にエドワード達もいるだろうし、小さい足音の正体もいる」


「了解だ。行くぞ、エヴ」


「アイこそ。置いていかれないようにな」


「誰が!」


「アイが」


 エヴァン様も…、賑やかですね。

先程までの静かな空気は何処へいったのでしょうか…。


 まぁ、作り物ではないエヴァン様の笑顔なんて、それこそ珍しい光景です。


…やはりエヴァン様には笑っていてほしいですね。


私の使命は勿論エヴァン様の役に立つ事。

それ以上に、エヴァン様の笑顔を護る事。



ただ、それだけです。

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