03:報復
「お願いです、ドン・マクシミリアン。我々を、お助けください」
裏オークションが摘発されてから数時間後。アダムは震えながらそう言った。
「無理だな。どうにもできんよ」
「そこを何とか、お願いします。アンドロイドの販売網が断たれたら、うちのファミリーはお終いです」
「それだけ、アンドロイドのビジネスに注力していたのか。考えが浅かったとしか言いようがないな」
ドンはタバコをくわえる。アダムの方など見ていない。もう興味がないといった風だ。
「立ち去れ。自分のファミリーのことは、自分で解決するんだな」
アダムは両拳を握りしめ、カツンカツンと革靴の音を立てながら書斎を出ていく。
「哀れなもんですね、父さん」
「自業自得だよ」
書斎には、デニスとヨハン、それにレイチェルの姿もあった。
「何を言う、デニス。お前はあの男がビジネスを持ちかけてきたとき、賛成したではないか」
「それは……そうですが」
「いい勉強になったな。アンドロイドなんぞと関わると、やはりろくなことにならない」
ふっとタバコの煙を吹きだしたドンは、ヨハンに話しかける。
「そんなことよりヨハン。ジェニファーの誕生日は、来週だったな?」
「ええ、父さん。ちょうど十歳になります」
ジェニファーというのは、ヨハンの娘であり、ドンにとっては孫である。
「ジェニファーのプレゼントを買いに行こうと思っておる。レイチェル、明日は予定があるか?」
「いえ、何も」
「では着いてきてくれ。女の子の喜びそうなものを選んでやりたいからな」
レイチェルはにっこりとほほ笑んで頷く。ドンと買い物に行くなんて、いつ以来だろう。
その日レイチェルは、自分のマンションには帰らず、本邸に泊まることにした。もう夕飯の買い出しをしたのに、とケヴィンがむくれていたが、優先順位はドンの方がはるかに上である。
リビングでは、デニスとヨハンが紅茶を飲んでいた。兄たちとあまり仲が良いとはいえないレイチェルだったが、ドンとの買い物に浮かれていたせいか、そこに加わってみることにした。
「それで、ヨハン兄さんは、ジェニファーに何をあげるの? 被らないようにしたいから」
「本だよ。最近あの子は読書にはまっているからな」
マフィアといっても、幹部クラスにもなると、こうして子供のことを考えてやれる余裕がある。末端については、推してしかるべし、であるが。
「じゃあ、何がいいかしらね。もう十歳だから、幼稚なものはダメだろうし……」
呑気にプレゼントを考えているレイチェルに、デニスが水を差す。
「買い物に行くのはいいが、警護は多めにつけろよ。父さんにもしものことがあったら、お前の責任だ」
「わかっているわ」
レイチェルは紅茶を口に含む。
「アダムの野郎、相当頭にきてるだろうからな。報復されかねんよ」
「まさか。あのファミリーにはそんな度胸なんてないわ」
レイチェルがそう言うと、ヨハンも同意する。
「うちに刃向えばどうなるかってことくらい、あの男も分かっているさ。兄貴は心配しすぎなんだよ」
「お気楽だな、ヨハン」
「まあ、警護は多いに越したことはないわ。しっかりつけるから、安心して?」
「任せるぞ、レイチェル」
それから三人は、またジェニファーの話題に戻り、静かな夜を過ごしていた。
翌日、ショッピングモールにて。
散々悩みぬいた結果、ジェニファーへのプレゼントはネックレスになった。子供がつけてもおかしくないような、花をあしらった可愛らしいものだ。
「これならきっと、喜びますわ」
「レイチェルが選んだ品だ、きっと間違いないだろうて」
レイチェルとドンは微笑み合う。周りには警護をする構成員たちがいるが、すっかり二人の世界に入りきってしまったかのようだ。
義理といえども、彼らは親子であり、それ以上でもあった。
「レイチェル。お前の欲しい物はないのか? 何でも買ってやるぞ」
「いいえ。あたしは、あなたと過ごせる時間だけがあれば、それでいいんです」
「可愛いことを言うな、お前は。では、もう帰ろうか」
二人は駐車場へと向かう。車内で待っていた運転手が立ち上がり、ドアを開けた、そのときだった。
鋭い銃声がレイチェルの頭の中に響く。それも、何発も。
レイチェルは、ドンの身体を手で押し、転ばせた後、彼の上に覆いかぶさる。
「ぐあっ……!」
レイチェルの背中に、銃弾が食い込んでいく。
「レイチェル!」
デニスの予感は、当たったのだ。
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