02:裏オークション

 サムとノアは、組織犯罪課のボブに呼ばれ、ミーティングテーブルに居た。


「よう、お二人さん。久しぶりだな」

「ええ、お久しぶりです。それで今回は、アリスの件ですか?」

「いや、違う。悪いが、あの件に関しちゃ、ほぼお手上げなんだよ」


 サムもノアも、てっきりその件で呼ばれたと思い込んでいた。ならば、何の話なのだろう。


「実はな。違法改造されたアンドロイドの裏オークションが開かれているという情報が入ったんだ」


 アンドロイドのオークションというのは、稀にだが行われている。それ自体に何の問題はない。しかし、違法改造を施したものは別だ。それを売買するのが、裏オークションである。


「それでな、裏オークションを取り仕切っているのが、どうやらハリス・ファミリーらしい」

「ハリスというと、ジョンソン・ファミリーに次ぐ大規模なマフィアですね」


 サムの言葉に、ボブはうんうんと頷く。


「ハリス・ファミリーのことはずっと前から目をつけていたんだがな。奴ら、調子に乗ったのか、規模を拡大してきている。それで尻尾を掴めたのさ」

「ジョンソン・ファミリーは関与していないのか?」


 ノアがそう訊くと、ボブはかぶりを振る。


「そこなんだよ。今のところは不明だ。だが、数日後に裏オークションが行われるとの情報の確認は取ってある。それを押さえれば、判るだろう」


 なるほど、組織犯罪課はいい仕事をしているらしい。


「ついては、デッカード部隊にも協力を仰ぎたい。あんたらのボスにも、このことは報告済だ。大規模な作戦になるから、明日は担当者全員でミーティングだ」

「よし、任せとけ!」

「ええ、頑張りましょう!」


 久々の大きな仕事に、サムとノアはやる気をみなぎらせていた。




 ボブから話を聞いた数日後の夕刻。とあるライブハウスに、サムとノアの姿があった。


「ネオネーストのこんな目立つ場所で、裏オークションねえ」

「でも、ボブの仕事は確実でしょう。さあ、入りますよ」


 表向きは、アマチュア歌手のライブとなっており、サムとノアは、ボブが事前に手に入れていた「前売り券」を入り口のスタッフに渡す。それはとても高額のものであった。

 会場内に入ると、スーツを着た年配の男性から、カジュアルな服装をした妙齢の女性まで、様々な人間がたむろしている。ノアは注意深く彼らを観察する。


「アンドロイドを連れてきている奴もいるな」

「やはり、そういう趣味の方が集っているんですね」


 時間になる。一旦照明が落とされ、チープな音楽が流れた後、今回の演目が始まる。


「皆さま、私どものショーにお集まりいただき、まことにありがとうございます」


 司会者の挨拶に、観客の拍手が鳴り響く。


「では早速始めたいと思います。エントリーナンバー一番、アデル!」


 ステージの中央にスポットライトが当たる。そこに現れたのは、水着姿のアンドロイドだった。もちろん、認識番号は消されている。そして、彼女の首には、最低落札価格の書かれた札が提げられている。


「アデルはプロトタイプを改造したセクサロイドですが、その分お求めやすくなっております! さあ、入札開始です!」

「なんか、俺が出るまでもなく、アウトな事案だな……」


 ノアが呟く。ほどなくして、ぱらぱらと札が上がり始める。


「もう少し様子を見て、盛り上がってきたところで、ボブに連絡しましょう」


 アデルは男性に落札される。その後も、女性型、男性型問わず、様々なアンドロイドが紹介され、売られていく。

 それを見ていたノアは、まるで奴隷の売買だな、と思う。一般のオークションとは違い、このオークションでは、そういう趣向の人間ばかりが集まっているはずだ。

 今までも、こうして売られてきたアンドロイドたちの中には、虐待を受けているものもあるだろう。


「そろそろいいだろう」

「ええ。ボブ、準備してください」


 サムが連絡した途端に、何十人もの警察官たちがライブ会場になだれこんでくる。初めは抵抗を見せていたハリス・ファミリーの配下たちも、その人数に押され、拘束されていく。

 ノアとサムの役割は、アンドロイドたちの鹵獲だ。ノアが指示し、サムが金属製のリングをはめていく。数が数だけに、骨の折れる作業であった。




「二人とも、お疲れさん」


 作戦終了後、何人もの人間やアンドロイドが連行されていくライブハウスの外で、ボブがサムとノアに声をかける。


「ボブこそ、お疲れさまです」

「いやあ、思っていたより上手くいったな。一人も取り逃さずにいけたみたいだ」


 ライブハウスの入り口は二つ。そのどちらにも警察官が配備されていたので、当然といえば当然だ。


「後の処理は、俺たちに任せてくれ。さて、これからが本番だぞ」


 ボブはギラギラした眼差しで、連行されていく様子を見つめる。


「それでは、僕たちは一旦戻りますね」

「ああ。また後でな」


 サムとノアは、特別捜査官室に戻ってボスに報告を済ませ、早速事務仕事に取り掛かる。


「なあサム」


 キーボードを打ちながら、ノアが言う。


「ジョンソン・ファミリーは結局、関与しているのかな?」

「今の時点ですと、わかりませんね。やはり、気にしてるんですか?」

「別に、由美子のことはどうでもいいじゃねえか」


 サムが意味ありげな笑みを浮かべる。その意味に気付いたノアは、黙って仕事を続けることにしたのだった。

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