11:手がかり
フォードの事情聴取をした翌日。サムとノアは、少し早く出勤し、レイチェルに関するボスへの報告について、考え込んでいた。
ボスには、レイチェルがノアとアレックスの知り合いであり、同じエンパスであることを告げていない。その上で、レイチェルもアリスを追っていることを、言うべきか否か。
「言わないと、いけないでしょうね。今後の捜査をしていく上で、整合性が取れなくなってくる可能性があります」
「でもよ、そうすると俺は担当を外されるんじゃないか?」
「その辺りは大丈夫でしょう。エンパスはあなたとアレックスしか居ません。仮にアレックスと交代する案が出たとしても、彼もレイチェルを知っている以上、同じことです」
「お前とマシューっていう組み合わせはアリか?」
「無いでしょうね。アリスの特性上、エンパシー能力を使う場面が出てくるでしょうから」
そうこうしていると、ボスが出勤してくる。
「何だお前ら、やけに早いな」
「いえ……実は後で、ご相談が」
結局レイチェルの存在を言うことに決めたサムとノアは、別室でボスと話し合う。
「そうか。ややこしい事態になってきたな」
「はい。相手側もエンパスである以上、こちらより先にアリスを見つける可能性も大です」
ボスは太い腹を叩いてため息を吐く。
「一般部門の手を借りる必要があるかもしれんな」
それは、サムとノアにしてみれば意外な一言だった。
「事の起こりは、クーパー捜査官だったな。できるのであれば、彼にも協力を仰ごう」
「え、それは遠慮したいんですが」
ノアが正直すぎる反応をするので、サムは肘でノアを小突く。
「決まりだ。お前たちは、担当から外さん。ただ、一般部門の力も借りる」
「承知しました」
「仕方ないっすね」
それからたった数時間後、サムとノアは、後部座席にクーパーを乗せていた。
「君たちと仕事ができることを、私は大いに! 喜んでいる。若い衆と出張なんぞ、久々だ!」
「あ、はい。俺も光栄です」
ちっとも光栄になど思っていない顔でノアは言う。
三人が向かっていたのは、ダイナのアパートメントだった。一度捜索したとサムとノアは言ったのだが、もう一度行かねばなるまいとクーパーが叫んだのである。
「古い日本の刑事ドラマでこういう言葉がある。現場百回、とな!」
「現場じゃあない気はするんですけどね」
「昔の人はよく言ったものだ。そういう格言、名言は、大切にするべきだぞ!」
サムの呟きは聞こえていなかったようである。
ほどなくして着いたダイナのアパートメントは、前回サムとノアが捜索したときから全く変わりが無かった。
「いいか、二人とも! 最近は、エンパスやら何やらに頼りすぎて、目に見えているものを見落としている!」
「目に見えているもの、ですか」
「そうだ! 例えばこのスリッパ!」
「はい!」
「これには、何の意味もない! スリッパだということだけだ!」
クーパーの言うことの真意を量りかねた二人は、黙って捜索を始めることにする。
「預金通帳も、手帳も日記も、何にも出てきやしませんね。アルバムすらない」
ノアの言葉にクーパーは答えず、腕を組んで小さなデスク周りを睨みつけている。
「ノア。そこの、デスクの引き出しを開けてみろ」
「ああ、はい」
自分でやればいいのに、とノアは思いながら、渋々その通りにする。引き出しの中には、鏡やファンデーションといった女性特有の道具が仕舞われている。それらをどけると、一枚のカードがノアの目に飛び込んでくる。
「これは……ショップ・カード?」
「僕にも見せて下さい」
サムはカードを覗き込む。そこには、「メテオライト」と書かれている。
「バーの名前ですね」
「何お前、知ってんの?」
「はい。一度だけ、行ったことがあります。ダイナの年代の女性なら、行きそうな場所ではありますが」
するとクーパーが、大声を張り上げる。
「よしきた! 手がかりは、そいつだ!」
「ええ……」
サムとノアは、あからさまにげんなりとした顔をする。ただのショップ・カードが何の意味を持つというのだろうか。
「早速帰ってその店を洗え! そのカードがこの部屋にあったこと。それだけで、充分だ!」
クーパーの瞳は自信に満ち溢れている。サムとノアは、とても言い返すことができないでいた。
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