ポリ☆スト

豆崎豆太

冴木と三沢と半チャンラーメン

第1話 凶器はナイフと恋心

「先輩、起きてください先輩」

 がさがさと乱暴に体を揺すられて、冴木はぼうっと微睡みの海を漂わせていた意識の焦点を目の前の後輩、新見聡に合わせる。時計を見ると、十二時の四十五分。まだ昼休憩の時間中だ。

「まだ休憩時間中だ」

「まだ休憩時間中ですが事件です」

「追ってるアイドルグループのメンバーでも卒業したのか」

「そんな大事件だったらこんなにのんきにしてるわけないじゃないですか。ガチの方です」

 ガチの方。つまり仕事だ。

 警視庁捜査一課五係。ここに持ち込まれる事件は傷害および殺人。昼休みだろうが何だろうが通報は待ってくれない。

「被害者は区内に住む販売員の女性、自宅玄関を出たところで腹を刺されています。凶器は現場に捨てられており、現在鑑識が調査中。犯人は逃走、その後匿名の通報者によって被害者は病院へ搬送。病院からうちに通報がありました」

「匿名の通報者?」

 冴木が眉根を寄せると、新見は逆に眉を上げておどけた表情を作ってみせた。ふざけているが、これでバランス感覚に優れた男だ。特技は他人の気勢に水を指すこと。

「救急隊が駆けつけたときには現場に居なかったそうです。現在足取りを追っています」

「その他は」

「被害者は以前、ストーカーの被害届を出しています。加害者は同じ区内に住む無職二十八歳男性、こちらも現在追跡中」

 地味だ。言っちゃ何だが地味な事件だ。ストーカーの被害届を出していた女性がストーカーの逆恨みで刺されたというのは、ほとんど怠慢に近い。そのくせ犯人逮捕に手間取れば、非難の矢面に立つのは一課なのだから割に合わない。

「安全総務課は何をしてたんだ」

「曰く、善良そうな男性でかつ気が弱そうだったと」

「気が弱い人間ほどキレると怖いとは言うけどな。――こうなっちゃうちの仕事だ。加害者の写真くらいあるのか」

「もちろん。現場近辺はもう人がいるんで、被害者の職場周辺に行けとのことで」

「ん。五分後に出るぞ」

「ういーっす」

 警察というよりはアイドルじみた気のない敬礼をして、新見が答えた。

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