ナイトウォーカー-人狼の館-

ニノマエ ハジメ

序幕『バッドエンド』

 ――時に愛情と哀情は、人を喰らう。


 それこそ、君たちが恐れている化物なんかよりもずっと簡単に、ずっと残酷に。それは人を内から外から、骨も残さず喰らい尽くす。


 そんな言葉を、降りしきる雨の中思い起こしていた。


 ――いつだったか、なぜだったか。


 聞いた相手も理由も思い出せないその言葉。それを思い出したのは、きっと走馬灯の一環だろう。


「グルルル……」


 唸りを上げてこちらを見下ろす“それ”が俺の命を喰い散らかすまでの、悲劇的喜劇【人生】の再上映リバイバル


「…………ゃ、る」


 助けてやると、絶対に大丈夫だと。俺がなんとかすると、信じてくれと。そう散々のたまって、俺はボロ切れみたいに横たわる。


 痛くない。怖くない。寒くない。感じない。死にたくない。


 ぐるぐる、ぐるぐる。頭の中で回る言葉と記憶。


 ――もっと上手くできるはずだった。


 ――もっと上手くできたはずだった。


 でも、出来やしなかった。


「……ぅ、ぁ」


 だから今、こうやって血塗れで地を這ってる。

 土砂降りの雨と後悔に溺れて、暗い森で空を見上げてる。


 ――振り下ろされる鋭爪を、待っている。


「絶、対に……生まれ、変わった、ら……うま、く……いき、てやる……」


 ぐちゃりと、悲鳴も無く生々しい音が鳴った。俺ではない、少女が死んだ。


「シャ、ルル……!」


 何もできない。何もできない。


 そうして何もできないまま、俺も死んだ。


 振り下ろされた爪に心臓を潰されて、残り少ないの血を景気良く吐いて。


 無残で無意味に、命を散らした。


 ――最悪の、バッドエンド。











 そうして、一つの命の終焉をもって物語は終局し、終了した。


 その瞬間から六日前の朝へ。


 この、地獄の六日間が始まったその日に、時は遡る。



『――惨劇が、幕を開ける。』

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