涙を止められなくて



こぼせない涙を

止めることができずにいるよ

現実を縫い合わせる不幸と幸せは夢の果て

これが遺作で集大成だと

どれだけ思ってきただろう

水滴にならない涙のかわりに


明日には死んでいるかもしれないと

決して嘘ではない蓋然性を

数多く踏み潰してきたからここにいる

また遺作を書き上げるよ

おそらくのところ

これは幸いにして役目を果たさないだろう

けれどいつか

こぼせない涙はそれを全うする

それで誰が泣いても泣かなくても

行き場のないまま


夢の果てにいる

遺作で集大成

そして

まだ続きがある


こぼせない涙は未完の証

終わらせたくないのだと

認めてしまえば

夢の果ての

もう少しだけ先の果て

一歩にも足らないところの

まだ続くよ

望んでいてこぼさないよ

それでも

止めようがないよ


削る命なんて

実のところ

そうそう残ってはいなくて

涙と小手先でかさ増しをする

うまく細工したつもりでいても

どうせ下心は見え隠れする

人間でしかないことを

それにさえ満足になりきれないことを

いくらかは歓迎しよう


夢の果て

つらいね

苦しいね

喜ばしくて

しあわせだね

何もかも彩られてしまうね

ささやきたいな


うす汚れて見すぼらしいと

言葉に起こしてしまえば

ちっともそうは見えなくなる惨状に

抱かれて息をしている

彩りのしずくは絶え間なく

涙はこぼれない


きみに?

誰に?

いったい誰に?

届けようがなくて!

それでもしっかり届いてしまって!

ただ苦しみのうちにあると

言ってみても嘘になる

どうしたらいいかなんて聞かないでほしい

その答えは

どぶに巣食うねずみのほうがよっぽど知っている!


僕の言葉は僕ではないのだと

いくらだって思い知らされてしまって

止めようがないって?

現実に僕は泣いてなどいないのに?


夢の果ての

さらに先

そこに人影があるように夢見ている

指先のひとつさえ目に映らないことを

こうして思い知りながら

そこに本当に誰かがいるの?

届けようがなくて

それでもしっかり届いてしまって


夢の果て

そこからほんの少し先

息をしている

これで最後だと思いながら

言葉を重ねる

まだ続くことを望みながら


止めようがなくて

届けようがなくて

それでもしっかり届いてしまう

今さら否定してやれない

僕はずっと知ってきた

これは遺作で集大成

夢の果てにいる

人影は見えない

続きなら見える




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