第9話 幕間・夜のバックヤード

「弟よ。今日は流石に疲れたな」

「まったくだ。あの妖精、よくもあれだけ騒いで喋ってとできるものだ」

「元気があるのは結構な事だと思うが」

「だからと言って、我らを巻き込むような騒ぎ方をせずとも良いものを」

「たしかに。それは言えている」

「それにしても、兄者。不思議なものだな」

「何がだ?」

「ニーナだ。記憶は無い。文字も読めぬ。……だというのに、本に――文章に籠められた想いを読む。時折、今日の妖精のように相手の気持ちを読んでいるかのような発言をする。これを不思議と言わずして、何と言うのだ」

「ふむ……たしかに」

「兄者……私は少し、怖くなってきたぞ」

「怖い? 何を恐れると言うのだ、弟よ」

「今は、我らが目にしているのはニーナだけだ。だから、『変わった能力を有している』という感想を抱くだけで済んでいる。だが、この能力を有しているのは果たしてニーナだけなのか? 例えばニーナの親であるとか、同等の能力を有している者が他にもいるのではないのか?」

「ニーナのように相手の想いを読める者がたくさんいたら、世に混乱が生じるのではないか。お前が危惧しているのは、そういう事か?」

「……うむ……」

「……弟よ。お前の言う事には一理ある。だが、現実そうなっていない事を案じたところで仕方があるまい。我らはただ、日々持ち込まれる古書を買い取り、必要とする者に売っていれば良い。仮にお前が言う通り、ニーナのような者が大勢現れて世に混乱を生じさせ、我らの生活に影響が出るようであれば……その時に、対処法を考えれば良い」

「うむ……そうか……そうだな。起きてもいない事で、我らが頭を悩ます必要は無い……か」

「そうだとも。……だが、そうだな。一つ、気にかかる事がある。アレだけは探しておこうか」

「アレとは……?」

「本だ。我らに名を与えたあの者から渡された……」

「あぁ、あの本か……。はて、どこへしまったのだったか……」

「明日、私が探してみよう。探している間、店の事は頼んだぞ、弟よ」

「わかった。任せておけ、兄者」

「それでは、今日はもう寝るとしようか」

「そうだな。今日はまた、一段と遅くなってしまった」

「おやすみ、弟よ」

「あぁ。おやすみ、兄者」

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