寿司問答

龍眼喰 仁智

第1話 理屈こねて食う寿司はうまいか

 駅前の回転寿司屋のカウンター席に、三十手前の男が座っていた。隣には明るさを振りまく少女がちょこんと居た。少女が甘え声を出す。

「せんせえ、寿司屋デートなんてなんか大人だねー!」

 男は面倒臭そうに茶を啜り、目線をそちらに向ける。

「デートも何も、お前が勝手についてきただけだ。いっておくが、私はおごる気はない。寿司を食うなら、自分の財布と相談したまえ」

 呆れていることを隠さぬ声で、ぴしゃりと言い放つ。手は回転レーンの上を流れていく玉子をそっと取っていた。

「だが、課題のひとつでも出してやろう。今まで君に五行思想について、いくつか伝えてきた」

 怠そうだが静かに語りつつ、レーンからネタを取って並べていく。玉子、それからマグロ、コハダ、イカ。小皿に醤油もたらす。少女は、何がはじまるのかわからずに、ジッと先生の指使いを眺めていた。

「さて、玉宮くん。この中で、マグロにてるのはなんだろうか」

「へ!? マグロ、マグロがこの中でいちばん好きです。だから最強! うん、寿司のネタに強いも弱いもないのでは」

「ある。五行に則った考えをしろ、といったんだ。やってみてごらん。解けたら、おごってやってもいい」

 少女は、四皿をじぃっと見比べる。暫く考えて、ふと気づいた。

「……もしかして、マグロはイカ、イカはコハダ、コハダは玉子、ですか。でも、それだと、もうひとつ。えーっと、えーっと……」

 頭を抱える少女をみて、男は口元を愉快そうに歪める。

「時間切れだ。マグロはあか、イカはしろ、コハダはあお、玉子は。それぞれきんもくに見立てることができる。ならば、足りぬはすいくろ。即ち」

 男はマグロを醤油にちょんとつけてみせる。少女はじっと醤油を見つめて。

「これも入るんですか」

「そうだな。醤油は、出来たては赤だが、今は黒だ。見立てるのなら、それでいい」

男はもぐりとマグロを頬張る。少女は、悔しげにうなだれる。まだまだ、寿司問答ははじまったばかりだ。

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寿司問答 龍眼喰 仁智 @motoyakito

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