試練で始まる恋愛事情
大塚零
第1話:参上!愛の天使!
第1話:アバン
『明日の十七時までに彼女が出来なければ――天春士郎は死ぬ運命にあり』
神からのメッセージカードにはそれだけが書かれていた。
ふざけるな。それがこのメッセージカードに対して当の本人である天春士郎こと俺が抱いた最初の感想である。
なぜ俺がこんな事を強制されなければならないのだろう。
そんな抗議の意味を込めた視線を隣にいる天使へと向けてみる。
「いやー! 天春くんどうでしょう、自信のほどは!!」
「ぶっ殺すぞ、クソ天使」
するとどうだろうか、この天使はとても愉快そうな表情でこちらへ自信の程を問いかけてきやがった。
思わず、罵倒で返してしまったが相手がクソなので仕方ないことである、クソ野郎に礼儀は必要ない。
ろくでもない神の使いである天使もまたろくでもないのだろう、こんなところは統一しなくていいのにと本当に思う。
その顔がムカついたので思わず拳を固く握ってしまう。
「おっと、止めてください! 暴力は何も生みません、無意味ですよ!」
クソ天使は如何にも正論然とした態度で俺に天使は抗議してくる。
なるほど、たしかに暴力はなにも生まないかもしれない、だがこのクソ天使を殴ると俺の気分が晴れるに違いない。
ついでに言うなら俺に対して多大なストレスをぶちかましてくるこいつへの牽制にもなるのではないか。
そう考えると中々に暴力という行為は生産的なのではないかと思えてくる。
というようにこのクソ天使への対応をどうするべきかなどと俺が考えていた時のことだった。
「でも真面目にやってくださいよ! これ達成できなかったら天春くん死んじゃいますからね!」
真面目な顔でこちらに忠告してくる天使。ようやくこのクソ天使がはじめて天使らしい顔した気がする。
一応、このクソ天使にも相手を慮る精神があったのだろうか。
俺がそう僅かでもそう思った矢先にそれは台無しにされる。
「あ、でも天春くんが死んでしまっても私には特にペナルティとかありませんので未達成で死んでしまっても気に病む必要とかありませんから! ご安心ください!」
などとわざわざ付け足してきやがった、こいつ分かってて言ってるだろ。
つまり俺がこの天命とやらが未達成でもこいつに何の意趣返しにもならないことも忠告してきやがった。
そろそろこいつを殴った方がいいな……などと思案していると、クソ天使がなにやら俺に問いかけてくる。
「で、正直な話……女の子のアテはあるんですかね? 天春くん」
「おまえ、その言い方はかなり下衆っぽいぞ」
ほとほと天使という存在に相応しくない言動と顔をしてくる奴である。
一応、天使の質問に対して俺は思考を巡らせてみる。俺から見て脈がありそうな女がいただろうか。
しかし巡らせてみるだけ無駄だった、そもそも考えるまでもなかったのだが。
「全く無い、というかそういう関係性になろうとすら思ってなかったからな」
これは言葉の通りであり、それ以上の意味はない。
俺自身、あまり他人と深く関わりたいと思わないからだ。
まず俺は他人と一緒に居て楽しいと感じた経験があまりない。
あまり楽しくない癖に人間関係というしがらみで俺という人間を縛ってくるのだ。人間関係とは非常に厄介なものである。
友好的な関係が自分の助けになることもあるということは分かっている、しかしそれは実際の関係の構築、維持に要した労力に対して見合ったものなのだろうかとは俺としてはかなりの疑問である。
現状のみではなく将来を見据えての関係の構築というものがあることも分かってるが。しかしそれは不安定な未来に基づく投資、とてもする気にはなれない。
もちろん必要であれば十分な努力はするが、しかし今ではないのだ。
それがかつての経験から得た教訓がそれであり、今の俺のスタンスであった。
なので現時点では俺に特に親密な仲という関係性を持つ人物はいない。
「あ、もてない男の常套句ですよね! 私知ってます!」
しかしこのクソ天使は余計な方向に言葉を受け取りやがった。
流石の俺もこれには我慢ならず、思わず手が出た。ノータイムで拳骨だった。
クソ天使の頂点に拳をお見舞いした事に誰も俺を咎めることは出来ないだろう、それくらいはこの天使はクソである。
「痛っ! 暴力は止めてくださいよ! こんな可愛い子に暴力をふるってはいけないと思います!」
「うるせーッ!!」
俺の拳骨を食らった頭を擦りながらクソ天使は抗議してくる。なにが可愛いだ、自分で自分のことを可愛いとか言うな。
そもそもこいつが余計な事を言うから思わず手が出てしまったのだ、むしろやっとはじめて
そして俺に対してこれほど舐めた態度を取ってくるのだから、こいつ自身になんの案もなかったら笑ってやる。
俺はそんなことを考えて軽く問いかけた瞬間、自分の判断に後悔した。
「で、俺を散々コケにしてるお前は何かあるのかよ」
「よくぞ、聞いてくれましたね。天春くん! この超優秀な天使である私に秘策がありますよ!」
待ってましたと言わんばかりに自信に満ち溢れた顔で答えるクソ天使。
この天使の自信の程度に比例して俺の不安は加速する、おそらくクソろくでもないことを考えているに違いないことは確かだ。
「不安しかねぇ……」
この天使に対する不安を隠そうともせずに、俺は素直な感情とともに溜息を漏らす。
――どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
ほんの数時間前まではいつもどおりの日常を送っていたというのに。
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