No.84『命短し恋せよ乙女』
佐原「みんなー、こんにちはー」
根岸「こんにちはー」
佐原「科学に挑戦のコーナー、はじまるよー」
根岸「イェァー!」
佐原「ギュァァァァァァ!」
根岸「な、なんてコーナリングだ!」
キキィー、ガチャ、バタン
佐原「……」
根岸「……」
佐原「はい」
根岸「はい」
佐原「コーナーを出る時のために、入る前にはギアを軽くしておくといいよ」
根岸「あ、はい」
佐原「というわけで、今回の科学に挑戦は、社会問題に挑戦だ」
根岸「車もコーナリングも関係ないんですね」
佐原「テーマは、性的搾取の対象にならない女性、だ」
根岸「……またなんかいろいろアレなテーマですね」
佐原「というわけで作ってみました。出来上がったものがこちらです」
根岸「……」
マッチョ「ムキッ」
佐原「これが新時代の、性的搾取の対象にならない女性、だ! ばばーん!」
根岸「男じゃないですか」
マッチョ「ムキムキマン!」
佐原「女性が女性である以上、性的搾取の対象となり得る可能性を孕むのであれば、女性でなくなればいいのだよ」
根岸「なんか、根本的解決になってないような」
マッチョ「さあ一緒にプロテイン体操だ!」
佐原「ちょっと五月蝿いのがアレだが、まあこの女性なら、性的搾取の対象にはならないだろう」
マッチョ「そこのキミ、筋肉足りてるぅ?」
根岸「そもそも女性じゃないんですけど……。あとマッチョである必要はあるんですか?」
佐原「女の子みたいな男の子がいるから」
根岸「えー、あー、ううむ?」
佐原「さてでは次いってみよう!」
根岸「え、次があるんですか」
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佐原「完成品が、これです! ちゃちゃーん!」
根岸「……登場で使った車じゃないですか」
車「ぶぉんぶぉん」
佐原「性的搾取の対象にされない女性、バージョン2!」
根岸「車ですよね、これ。車だよね」
佐原「根岸くん、車はね、女性みたいなものなんだ。優しく扱い、こまめにメンテナンスをしないと、すぐ機嫌を損ねるんだよ」
根岸「……はぁ。まあ、さっきのマッチョよりは科学?による解決?っぽいですけど」
佐原「ん? さっきのマッチョも科学技術によって生み出されたのだよ?」
根岸「……えぇ……」
佐原「生命を生み出すことなど、科学の前では造作もないことなのだよ」
根岸「性的搾取云々より倫理的な問題が生み出された!」
佐原「うむ、科学の前では倫理観も社会問題もゴミクズじゃよゴミクズ」
根岸「よい子が観てる番組でなんてことを!」
佐原「まあ、マッチョは置いといて」
根岸「いいんですか……。めっちゃこっち見てますよマッチョ」
マッチョ「……ニコッ」
佐原「いいのいいの。今はこっちの紹介する番だから」
根岸「……とはいっても、これはただの車でしょう?」
佐原「女性の脳を組み込んでみました」
根岸「……」
佐原「バイオコンピューターってやつじゃな」
車「ぶぉんぶぉん」
根岸「!?」
佐原「女性のようなものと言われている車に、女性の脳を繋いである。これはもう女性であるといっても何の問題もない」
根岸「え、いや、またなんか別の問題が……」
車「ぶぉんぶぉん」
佐原「しかし、このボディにかっこよさは感じても、エロスを感じることはあるまい。これぞ、性的搾取の対象にならない女性、のひとつの形じゃよ」
根岸「いや、えぇ……。なんか、大丈夫なんですかほんと、倫理とか」
佐原「この番組のADの子が是非にと」
根岸「今日居ないと思ったら!」
佐原「大丈夫! はい次!」
根岸「まだ続くんですか……」
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佐原「そもそも、むずかしい問題だとは思わないかね根岸くん」
根岸「博士の倫理観ですか?」
佐原「女性が性的搾取の対象にされる、という問題が、じゃよ根岸くん」
根岸「過剰表現がアレなだけなんじゃないんですか?」
佐原「どこまでが過剰か、なんて個人の主観じゃよ。どこまでいっても、間違いのない線引きなんて無い」
根岸「……まあ、そうでしょうね」
佐原「そこで儂は、科学によって、この問題に挑戦しているわけじゃよ」
根岸「方法が間違ってる気がしなくもない」
佐原「しかし、前二つの性的搾取の対象にならない女性、どう思う?」
根岸「方法が間違ってる」
佐原「そう、あれは不完全なのじゃよ」
根岸「いやそうじゃなくて……」
佐原「最初のマッシブな男性。一見、完璧に性的搾取の対象とされない女性であるかのように見える」
マッチョ「ニコッ!」
根岸「男性な時点で、女性じゃないのに……」
佐原「しかしじゃよ、男性に女性を感じることもあるじゃろう?」
根岸「えぇ……」
佐原「そう、人型をしている以上は、性別などあってないようなものなのじゃよ」
根岸「なんですかその解釈……」
佐原「女性型ロボットとか、エロちっくなのおるじゃろ。ロボットゆえに性別などないのに、じゃよ」
根岸「んー」
佐原「というわけで、このバージョン2」
根岸「車ですね」
車「ぶぉんぶぉん」
佐原「これも失敗。形だけ女性で無くしたところで、彼女が女であることに間違いはない。むしろニッチな性癖を生み出すだけじゃろう」
根岸「大元の問題からどんどん離れてく気がする」
佐原「そこでこれじゃ! バージョン3! てけてけてーん!」
根岸「……」
佐原「……」
根岸「……饅頭?」
饅頭?「―――」
佐原「人型だと、フェチるヤツが必ずいるから。―――手も足も眼も耳も、うなじも髪も鎖骨も、果ては内蔵も、どんな部位も性的搾取の対象足り得るのじゃよ」
根岸「……」
佐原「というわけで、全部とっぱらってみた」
根岸「だから饅頭というか、ただの丸いナニカに……」
佐原「彼女にはありとあらゆる器官が無い。脳ももちろん、心臓も無い」
根岸「ヒト……なんですか、これ?」
佐原「失礼な。遺伝子配列的にも、染色体的にも、しっかりとヒトのメスじゃよ」
饅頭?「―――」
根岸「生きてるんですか?」
佐原「細胞は活動してるから、生きていると言えるだろう。エネルギーも酸素もあんまり取り入れられないから、すぐ死ぬけど」
根岸「いやたしかに……、性的搾取の対象にはされないかもしれないけど……」
佐原「フェチの対象にならないよう、どこの部位でもないしな」
根岸「……はい?」
佐原「女性のどこかの部位である以上は、性的搾取の対象足り得ちゃうから、どこの部位でもない。どこの部位でもない部位」
根岸「またえらく概念的な」
佐原「でもな、心は宿っているよ、彼女にも」
根岸「えぇぇ……、割と科学っぽくないこと言い出した」
佐原「心が脳に宿るのか、心臓に宿るのか問題も、ついでに解決じゃな」
根岸「哲学問題まで解決した……」
佐原「ありとあらゆる問題に、科学で挑戦するのが、この番組じゃよ」
根岸「……魂も、宿っているんでしょうか?」
佐原「もちろんじゃよ。科学に不可能はない」
根岸「ううむ、すごい。すごいんだけど、倫理観が、ひどい」
佐原「一寸の虫にも五分の魂と言うじゃろ? 虫にある魂が、この饅頭?にないわけがない。無論魂も搭載しておる」
根岸「搭載……」
饅頭?「―――」
佐原「あ」
根岸「ん?」
饅頭?「―――」
佐原「死んじゃった」
根岸「えぇ……」
佐原「まあ、虫と同程度の魂しか搭載しておらんからなぁ」
根岸「長くは生きられないって言ってましたね……」
佐原「だいたい五分」
閉幕
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