No.51『滑落』
佐原「というわけで、だ」
根岸「……どういうわけなんだ」
佐原「スキー板を用意したぞ」
根岸「うん」
佐原「これを、装着します。―――ほら、根岸も」
根岸「装着―――で?」
佐原「オッケー!」
根岸「何が」
佐原「何が、って、何がだ」
根岸「いや……」
佐原「今回の話はな、『すべらない話』だそうだ」
根岸「うん」
佐原「だから、な!」
根岸「坂でも、ゲレンデでもないもんな」
佐原「そのとおりだ! すべらない話!」
根岸「違う」
佐原「違う!? ここはゲレンデだったのか!」
根岸「いや、違う。―――すべらない話って、そういうことじゃない」
佐原「何故だ、坂でも、スキー場でも無いところでスキー板を装着した状態、これぞまさに―――」
根岸「状況で完結しちゃってるじゃんか、すべらない話」
佐原「……確かに」
根岸「っていうかこれは、すべらない話じゃない。すべれない状況だ」
佐原「確かに」
根岸「どうすんのさ、これ」
佐原「1コマ漫画みたいなノリで、乗り切れない? タイトルが『すべらない話』で、スキー板はいた俺らがでーんと居るだけーみたいな」
根岸「乗り切れてるのかどうかがよくわからない」
佐原「えー」
根岸「なんで不満げなんだ」
佐原「ぷんすこ! なんだよ、どうしてくれるんだよこの状況!」
根岸「なんだその怒り方」
佐原「ぷんすこ!」
根岸「っていうか、お前が『面白い話がある!』って呼び出したんだろう」
佐原「すべらない話ってことは、面白い話だろうが!」
根岸「いやうん……。それでなんでスキー板持ってきちゃったかなぁ」
佐原「はっ……いやまてよ……」
根岸「どうした」
佐原「すべらない話は、すべらないだけで、もしかして面白い話とはまた別なのか?」
根岸「ややこしいこと考え始めたな」
佐原「どうよ?」
根岸「まあ、日常会話とかはすべっては無いだろうから、すべらない話ではあるかもしれない。天気の話とか」
佐原「なるほど。じゃあもしかして、すべる話のほうが難しいのか?」
根岸「あえてすべりに行くなら、難しいのかもしれない。面白いにしても、面白くないにしても、どっちかに極端な話は狙ってするなら少し難易度が高いかもな」
佐原「なるほどなー。納得だよー」
根岸「で、さ。ちょっと緊急性の高い話していい?」
佐原「何? うんこ?」
根岸「いや、もっと緊急」
佐原「……トイレ以上……。出産か!」
根岸「産まない」
佐原「じゃあなんだよー、緊急を要する事態ってそうそうないぞー」
根岸「まあ、うん、悠長に喋ってるけどね」
佐原「せやろー?」
根岸「すべらないのは、いいよ。スキー板もってきてさ、すべれないよ?」
佐原「うんうん」
根岸「なんでスカイダイビングしてんの俺ら。落ちてるじゃん」
佐原「平地でやったら、すべれちゃうかなと思った」
根岸「うん?」
佐原「地球は丸いから、全部坂だろ?」
根岸「あー……うん?」
佐原「だから、どうやってもすべれないように、空中ならいいかな、って」
根岸「ふむ。それでスキー板をはいて、スカイダイビングか」
佐原「いえす」
根岸「ストックにも意味がまるでないよなこれ」
佐原「いえす」
根岸「どうすんのこの状況」
佐原「すべらない話! ででーん!」
根岸「すべれない話だわこれ」
佐原「しかもオチまでついてる!」
根岸「まあ、落ちてはいるよな」
佐原「話の構成としてこんなに完璧なものは無いだろう。ふふん」
根岸「なんでドヤ顔なのかわからんけどさ」
佐原「ふふん」
根岸「……滑空とは言わないの? こういうの」
佐原「!?」
根岸「いや、違うか、これはただの落下か」
佐原「あぶねぇー! すべる話になるとこだったぁー!」
根岸「いやだから、すべるもすべらないも、そういうことじゃないから」
閉幕
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