No.48『つまりはそういうコトバーマン』

根岸「やばい、腹痛が痛い……」


佐原「言葉には、気をつけろ!」


根岸「?」


佐原「ちゃらり~」


根岸「な、なんだ!?」


佐原「ふははははは!」


根岸「誰だっ!」


佐原「時代の流れに流されて、涙を飲んだら苦かった。乱れた言葉に日夜立ち向かったり座り込んだりするニューヒーロー、その名も、コトバーマン!」


根岸「どこかで変な人が出たっぽいなぁ」


佐原「く、くそぅ、登場と同時に身動きが取れない! そこのキミ、まずはこの満員電車を脱出するんだ!」


根岸「俺のことじゃない、よね、無視だ無視」


佐原「無視を決め込むとは笑止千万、一千万! 根岸お前だお前! 次の駅で降りろー!」


根岸「えぇ……、なんか名前呼ばれたよ……、降りなきゃダメかなぁ……」


佐原「降りないと、言葉狩りするぞ!」


根岸「するぞ、って……」


佐原「討伐成功! 剥ぎ取りチャンス!」


根岸「―――!!!」


佐原「どうだ、脳内にも言葉が出まい! 困るならば電車を降りるんだ!」


根岸「―――! ―――!!」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「では、狩った言葉を返してあげよう」


根岸「っ! ああ! びっくりした!」


佐原「喋れないだけではなく、思考もできなかっただろう」


根岸「死んだのかと思ったわ」


佐原「だいたいの場合、思考も言語だからな」


根岸「何者だ……あんた、なんで通勤途中の俺にこんな……」


佐原「というわけで、私がコトバーマンだ。こんにちは」


根岸「……こんにちは」


佐原「まあいいじゃない、遅刻や解雇のひとつやふたつ。通勤時にお腹が痛くなるような仕事続けてもいいことないよ」


根岸「ああ、そうだそうだ、腹痛が痛かったんだ……」


佐原「そこぉ! びしっ!」


根岸「痛い! なにするんだ!」


佐原「これはコトバ・ボール、言葉の間違いを正す正義の球だ! 二球目も受け取るがいい!」


根岸「どこ投げてるんだよ」


佐原「言葉のキャッチボール失敗!」


根岸「えぇ……」


佐原「さて」


根岸「なんだこの人……」


佐原「腹痛が痛いとは、どういうことだ貴様! このウンコマンが!」


根岸「誰がウンコマンか」


佐原「腹痛とは、そもそも腹が痛いということだ、そこに痛いという言葉を重ねたら、もっと痛いだろうが! ちょー痛い! 神経性胃腸炎だけに!」


根岸「そういうものなのか?」


佐原「そうだぞ、だからこの場合、神経性胃腸炎でお腹が痛いと言い直すのがベターだと思うぞ」


根岸「長いなぁ……」


佐原「ちなみにもう痛くはないのかね?」


根岸「え、まあ、俺は大丈夫ですよ」


佐原「そうか、やはり通勤ストレスが原因なのだろうか」


根岸「どうだろうなぁ」


佐原「神経性胃腸炎は、症状は人によって様々だが、主な原因はストレスと言われている」


根岸「ふむ」


佐原「ストレスを体に溜め込む生活は、感心しないな。もっとココロも大事にしてやってもいいんじゃないか?」


根岸「いや、しかしなぁ」


佐原「生活が、というのもわかる。だがココロと身体の健康あっての生活だろう?」


腹痛「痛たたたたた……」


根岸「でもほら、実際、腹痛が痛がってるわけで」


佐原「!?」


腹痛「痛たたたたた……」


根岸「ストレスかなぁ」


佐原「なにこれ」


根岸「腹痛」


佐原「お、おぉ……。コトバーマンピンチ!」


根岸「腹痛が痛いよなぁ」


佐原「た、確かに……、これは腹痛が痛い……」


根岸「でしょう?」


佐原「だ、だが私は負けるわけにはいかないのだ、コトバーマンの、隠された本当の真の力をパワーアップだ!」


根岸「お前の言葉がガタガタじゃないか」


佐原「スーパーコトバーマン! 更にもっとパワーアップを上昇させるぞ!」


根岸「何が変わったのかわからん」


佐原「じゃきーん、スーパーハイパーコトバーマン! 爆誕!」


根岸「最終的にはウルトラスーパーデラックスマンになりそうだ」


佐原「それはサラリーマンが変身するF先生の割とブラックな短編だろうが。私とは無関係だ」


根岸「まあ、うん」


佐原「スーパーハイパーコトバーマンになったからには、言葉のキャッチボールに負けはない! ……もう言葉を受け取ってもらえないなんてこともない!」


根岸「キャッチボールに勝ち負けはあるんだろうか」


佐原「言葉の厚みが通常の2倍くらいになるのだ! ででーん!」


根岸「含蓄のあることとか言うようになるのか。説教レベルアップ?」


佐原「はんぺん」


根岸「……ん?」


佐原「はんぺん」


根岸「……厚いの?」


佐原「なにっ、わからんというのか」


根岸「はんぺん、とだけ言われても」


佐原「ならば……。 <b>はんぺん!<b> どうだ、厚いだろう!」


根岸「タグが……」


佐原「今までのはんぺんより厚いのだ! どうだ! しかもお値段は同じだぞ!」


根岸「どうだって言われても、お得だなぁとしか」


佐原「さらに、言葉の深さもアップだ!」


根岸「……深い言葉を言うってことじゃないんだろうなぁ」


佐原「日本海溝!」


根岸「うん、深いね」


佐原「これで、言葉の大切さがわかっていただけたかな?」


根岸「今の流れでそこを理解しなきゃいけなかったのか」


佐原「うむ、言葉とは難しいな」


根岸「伝える側も、受け取る側も、言葉のひとつひとつを大事にしないと、本当に伝えたいことは伝わらないし、受け取れないのか……。マジ大変だな、特に今回は」


佐原「うむ、大変なのだ。 ―――むっ!」


根岸「どうした?」


佐原「今のキミの言葉の重みで、マイクロブラックホールが誕生してしまった!」


根岸「いやいや、そんな重い言葉じゃなかったろ今の」


佐原「言葉のひとつひとつが、自分と、周囲の世界に影響を与えるのだ!」


根岸「えぇ……」


佐原「だから、普段から言葉には気をつけろ!」


根岸「そういうことじゃない気がする」




閉幕

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