No.18『因縁パンチ』

根岸「ついにここまで来たぞ……」


佐原「来たか、ただの小僧だったお前が、まるで別人のようじゃないか!」


根岸「ツラい修行だったからな……それもこれも、すべては貴様を倒すため!」


佐原「ふん、誰が鍛えてやったか忘れたわけではあるまい」


根岸「貴様は、もはや俺の師でも、命を救い育ててくれた恩人でも無い!」


佐原「言うようになった」


根岸「殺された家族の無念を、今日ここで晴らす! 貴様を倒してな!」


佐原「ははは、やれるものならやってみろ小僧ぉ!」


根岸「うおおおお! これは貴様に殺された、父さんの分だぁ!」


どごぉ


佐原「いい拳を繰り出せるようになった、だが、その程度ではワシは倒せんぞ!」


根岸「く……なぜ避けもしない!」


佐原「フン、貴様の家族の無念とやらを受け止めてやろうというのだ、感謝するんだな」


根岸「くそおっ! これは母さんの分だ!」


どごぉ


佐原「どうした、貴様の母の無念とはその程度なのか?」


根岸「これは一郎兄さんの分!」


どごぉ


佐原「ふん」


根岸「二郎兄さんの分!」


どごぉ


佐原「……」


根岸「三郎兄さんとだい姉ちゃんの分!」


どごどごぉ


佐原「……」


根岸「よっちゃんとミーコとたけしと婆ちゃんの分!」


どどどどど


佐原「待て待て待て、そんなに殺した覚えがないんだけど!」


根岸「俺の妄想家族だからな!」


佐原「ちょ、殴られ損だ! そんなやつらの無念をぶつけられる筋合いはない!」


根岸「ならば、次の一撃に残りすべての無念を込めよう」


佐原「ふん、何発殴ろうが同じことよ」


根岸「うおおおおお!」


どごおおおおん


佐原「ぐはぁっ、なんだこの威力は……」


根岸「俺にも数え切れないほどの無念の威力、思い知ったか!」


佐原「そんな大量虐殺した記憶ないんですが!!」


根岸「主に、俺の家族と共にあった腸内細菌や微生物たちの無念だ!」


佐原「それぞれの家族の無念に混ぜておけよ……」


根岸「あ、まだあった、倒壊した家屋と共に死んだシロアリとゴキブリの無念パンチ!」


ぱしっ


佐原「調子に乗るなよ小僧!」


根岸「う、受け止めるなんて約束が違う!」


佐原「貴様の家族の分は受けてやっただろうが!」


根岸「ゴキちゃんだって、ひとつ屋根の下で暮らしてたんだ、互いに憎しみあっていても家族だ!」


佐原「その理屈だとワシと寝食を共にしたお前はワシの家族だな」


根岸「なっ……」


佐原「お、動揺した」


根岸「つまり、俺は、貴様を倒した後に、貴様という家族を殺した俺を倒さねばならなくなるわけか」


佐原「ぐちゃぐちゃしてきたな」


根岸「敵だが……家族……」


佐原「あれだな、とっといたプリンを勝手に食べられたときの、父親への殺意みたいな」


根岸「例えが最悪だが、まさにそれだ」


佐原「いいのかよ」


根岸「あげく、さっさと食べないほうが悪い、とか言いやがって……」


佐原「あるある」


根岸「ちくしょう、これはあのときのプリンの恨みだぁぁぁぁ!」


どがあああああん


佐原「ワシ関係なぁぁぁい!」


根岸「くそぅ、あの時プリンを食べたやつとは、まるで別人じゃないか!」


佐原「別人だよ!!」





閉幕

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