第5話
城の外に出た僕はまず武器屋に向かうことにした。何故なら僕の職業が【双剣士】だからである。蟲剣を使ってもいいが、誰かに見られる可能性があるので今はまだ封印しておくことにしよう。
少し歩くと剣と盾が交差した看板を出している店があったのでその店に入ることにする。
「すいませーん、武器が欲しいんですけどー」
そう声をかけるが誰の返事もない、店内を見渡すと壁にはぎっしりと武器が飾られており、床に置いてある樽の中に何本もの剣が入れてある。さらに木製のカウンターにはなんの傷かわからない傷と、赤黒いシミがついていた。
…あれ?ここって実はやばいところなんじゃ
「あらァ?お客さん?」
僕が店を出ようと回れ右をしたタイミングで目の前に現れる巨体。「うおっ!魔物か!?」と思ってよく見るとそれは人間の男性のようだった。
「えっと…ここの店主さんですか?」
「ええ、そうよォ。【ランちゃんの武具店】へよ・う・こ・そ♡歓迎するわァ!」
そう言ってウインクをする店主さんを見て僕は生まれて一番の恐怖を味わったのであった。
◇
「はじめまして、アタシはここのオーナーのラングステン=フォールナーよォ。気軽にランちゃんって呼んでねぇ」
「あははは…僕は冬原夏樹です」
「フユハラナツキ…ナツキちゃんね!ところでナツキちゃんはなにが欲しいのかしら?」
そう言ってランちゃんことラングステン店主はウインクをする。この人ウインクが多いな。
僕は引き
「剣が欲しいんです。あとは防具とインナーなんかも売っていただけたらな、と」
「防具とインナーはわかるけれど、どうして剣が欲しいのかしら?その腰にぶら下げてるやつじゃダメなのォ?」
ラングステン店主は僕の腰に下げてある聖剣を見ながらそう言う。
「ああ、いえ僕の職業が【双剣士】なんですよ」
「へぇ!あなたレア職業持ちなのねぇ!【双剣士】なんてアタシ久しぶりに見たわァ」
「レア職業?」
なんだろう、王様やルナ達もそんなことは説明してくれなかったな。
なんのことかわからないとラングステン店主に言うと親切に教えてくれた。
「まあ、【双剣士】はレアだとは言っても他の3つに比べたらそこまでレアってわけでもないんだけどねぇ」
「そうなんですか…ありがとうございます」
「いいのよォ、お礼なんて!それより予算はどのくらいなのかしらァ?」
僕がお礼を言うと照れたようにラングステン店主はそう言った。なんだかこの人には好感が持てるな。
それはそうとして予算か…そういえばどのくらい使っていいんだろ?
よくよく考えると僕はこの世界の物価なんかをよく知らないためどのくらい使っていいのかがわからない。
「あらァ?どうかしたの?」
「ああ、いえこの世界の物価ってどんなもんかな、と思いまして。…ちなみに宿代の相場っていくらくらいですか?」
「この世界の?妙な言い方ねぇ。ん〜、そうねぇ相場は大体大銅貨6枚から銀貨2枚ってところね、更にグレードを上げるなら話は別だけど」
なるほど、意外と安いな…いや、それとも活動資金が多いのか?となると1ヶ月は余裕で泊まれるようにしないとだから食費なども考えて…使えるのは700枚くらいか。
「それじゃあ銀貨700枚の範囲でお願いします」
「700枚!?」
僕の言葉にラングステン店主が驚きの表情を浮かべる。もしかして少なかったのか?
「あの、もしかして少なかったですか?」
「いや!違うわよォ!その逆よ、逆!あなたもしかしてどこかの貴族の坊ちゃんかなにかなの?」
ああ、なるほど多かったのか。だから貴族と勘違いしたのか。うーん、それだといくらなのかわからないな…そうだ!見て貰えばいいじゃないか!
未だに何か呟いているラングステン店主にいくらなのか教えてもらうことにする。
「それじゃあオススメの剣ってありますかね?」
「え?ああ、あるわよォ。剣は…2本でいいのかしらァ?」
「どうしてですか?」
僕の腰に剣が下げてあるのはラングステン店主も知っているはずだし、なんで剣を2本も進めたんだ?
僕が不思議そうにしているとラングステン店主はこう言った。
「いや、その剣見た感じだと普通の
「え?これ白鉄の剣っていうんですか?」
白鉄の剣っていうのか…でも、鑑定では聖剣って出てるんだよなあ…
「そうだわ!ちょっとナツキちゃん」
「な、なんですか?」
僕が首を傾げているとラングステン店主がなにかを思いついたようにそう言った。それはいいんだけど手を離してくれないだろうか、いや、力込めなくていいから。
ラングステン店主はしばらく僕の手を握った後手を離し、得意げに言った。
「その武器を【鑑定】すればいいのよォ!」
「…ああ、なるほど。その手がありましたね」
「それじゃあ早速失礼するわ【鑑定】」
そう言うとラングステン店主は剣をじっと見つめる。なんて言うか…地味だなあ。
しばらくするとラングステン店主は顔を上げて僕の目を真剣な顔でじっと見つめる。
「な、なんですか?」
「ナツキちゃん、あなた…勇者なのね?」
「え、なんでわかったんですか?」
僕がそう尋ねるとラングステン店主は笑いながら答える。
「簡単な話よォ、だってこの武器『異世界の勇者にしか扱えない』って書いてあるんだものォ」
「へえ、【鑑定】って便利なんですね」
「まあアタシの【鑑定】のランクはSSだからねぇ!」
「SSって…
「アァン!?誰が見るのも
「そこまで言ってないのですが!?」
僕が感想を素直に言うとラングステン店主はブチギレる。ていうか、男部分が見えてるんですが。
ラングステン店主は僕がわざと言ったのではないとわかったのかため息を吐くとこう言った。
「まったく…言葉には気をつけなさいよォ?…カウンターのシミにはなりたくないわよね?」
「は、はい…なりたくないです…」
あのカウンターのシミはそんな風に生産されていたのか…
僕がシミの原因を聞いて軽くビビっているとラングステン店主は店の奥へと引っ込みすぐに箱を抱えて戻ってくると僕の前にその箱を置いた。
中を見ると何かの動物の皮や金属の鎧のようなものが見える。
「えっと…これは?」
「これは防具よォ。今は
「なるほど…ちなみにオススメは?」
「そうねぇ、値段で見るならこの【白鉄の軽鎧】、性能で言うのなら【
「この
僕は一つだけ入っていた黒色の胸当を指差す。するとラングステン店主は少し微妙そうな表情を浮かべて説明してくれる。
「それは【ククルスケイル】っていうこの店オリジナルの一点物ねぇ。【
「クセですか?」
「う〜ん、クセというより呪い、かしらねぇ…この防具使用者を選ぶのよォ」
呪い、か…
「ちなみにどんな呪いなんですか?」
「防具に選ばれなかった子はみんな食べられたわよォ」
「食べられた!?なににですか?」
「防具に決まってるじゃなァい。防具にミンチ肉にされて食べられちゃったわよォ」
食人防具…怖っ。人を食うなんて生きてるみたいだな…
僕が食人防具にビビっているとため息を吐いてラングステン店主が言う。
「まあ、それだけじゃなくてこの防具が【生きた魔物】っていうのも問題なのよねえ。呪いの原因ってこの鎧が生きてるせいなわけだし」
「生きてる、魔物?…ふふっ、あははっ、くははは!」
「な、なに?どうしたのォ?ナツキちゃん、しっかりしてちょうだいっ!」
僕が笑い出すとラングステン店主は慌てたように僕の方を
「痛い!痛い!」
「あ、ご、ごめんなさいねぇ。そんなことより大丈夫なのォ!?」
「あ、はい。肩以外は無事です。ご心配をおかけしました」
僕が少し嫌味を言うとラングステン店主はシュンと落ち込んでしまう。
その様子があまりにも面白かったので僕はつい吹き出してしまった。
「な、なによォ!笑うことないじゃないのよォ!」
「すいません、つい…!」
笑われたラングステン店主が拗ねているのを見てさらに笑いがこみ上げてきたが我慢をする。しかし、面白いものは面白いので声は震えていたが。
そんなことより本題に入らないとな。
未だに拗ねているラングステン店主に声をかける。
「ラングステンさん。僕にククルスケイル一式を売ってください」
「どうせアタシなんて─ってアナタ今なんて言ったの?」
ぽかんと口を開けてラングステン店主が僕にそう言う。なんだろうよく聞こえなかったのかな?
仕方がないのでもう1回言うことにする。
「だから、ククルスケイル一式を僕に売ってください」
「ナツキちゃんアナタ正気なの!?」
「ええ、正直ですよ?」
「あの話を聞いて買う奴は正気じゃないわよォ!」
「えー、そんな酷いなあ」
まさか正気を疑われるとは…
しかし僕にはこの防具を扱う秘策があるため問題ないのだが。まあ、説明するわけにはいかないだろう。
なので僕は誤魔化すとする。
「僕は大丈夫ですよ、ほら勇者ですし?」
「勇者…そうね、その通りねぇ」
そう、勇者である。
この言葉を使えば誤魔化せるはずである。『勇者ならありえるかも』なんていう風に一般人は思うだろう。
案の定ラングステン店主もその言葉で誤魔化されたようだった。
ここで僕はにこやかに言う。
「僕に売ってくれますか?」
「…わかったわ、ちょっと待っててちょうだい」
そう言うとラングステン店主は奥から箱と剣を持ってくる。
僕は心の中でガッツポーズをする。
そんな僕の前でラングステン店主は持ってきたものの説明を始める。
「防具一式は売れないものだったから銀貨30枚でいいわ。そしてこの剣は
「いいんですか?こんなに安く…」
驚くほど安いのである。小物である僕はこんなに安いとなると逆に不安になってしまう。
そんな僕に対してラングステン店主は真面目な表情で言う。
「これでいいのよォ。ただ一つだけ約束してちょうだい。絶対に死なないって」
そんなラングステン店主に僕は答える。
「ええ、僕は死にませんよ勇者ですから」
それだけ聞くと満足したようにラングステン店主は防具などを僕に渡す。
僕もお金を払うと、最後にラングステン店主はニッと笑って言う。
「まいどありっ!それと今度からアタシのことはランちゃんって呼んでねぇ!」
「わかりました…いや、わかったよランちゃん」
僕はそう言うと【ランちゃんの武具店】を後にするのであった。
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