第22話 ゆとり世代が使えない

 亜夢は26歳のある日を境に起床するのに苦労をする日が訪れて、年々朝起きるのも残業するのも辛くなっていった。

 若さの壁を越え老化を感じる瞬間は、遅かれ早かれ誰にも必ず平等に訪れる。

 先週は仕事の忙しさから、九十三氏に新しい質問をする余裕が無かった。

 届いた回答も読む時間を絞り出す事が出来ない。

 翌朝出勤前九十三氏に、今は仕事が多忙であり、しばらく島に関する質問や回答に対する意見などを言える状態にない事をメールし、余裕が出来たら再度連絡する旨を伝えた。

 

 新しい週が来て、アルバイトスタッフ試用期間の人員がすべて揃い、本格的スタートに入った。

 最初の一週間はお互いの顔と名前を一致させ、ベテランのスタッフの邪魔にならない様に仕事場の空気を掴ませる中、各々の特徴を掴む週でもある。

 自分に出来る仕事を率先してやろうとするもの、指示待ち人間、自身の脳

力を過大評価をして失敗するものなど、タイプを見極めて使えない物、改善する見込みのない者は早い段階で首が決定するが、1カ月の試用期間中は雇う側も辞めさせる事が出来ない。

 能力が低くとも努力をするものについては、成長を見守る事が出来るし、長い目で見れば店側にとって使える人間に成長する事が非常に多い。


 飲食店は三大欲の一つ食欲に通じているせいか、人対人の接客業の側面が強く、どんなに安くて美味い店でも、接客する人間によって店の雰囲気や客層は変わり、シビアな事を言えば売り上げに直結する。

 能力優先で選ぶ事は、飲食店の店長や経営者としては浅はかと言えるだろう。


 ナンバーワンホステスやホストは、美人やハンサムとは限らない。

 人が一番に求めているのが、人格そのものという事だろう。

 ゼロ円スマイルは、接客業では必須スキルである。

 その中でも「聞き上手」このスキルは最強で、「聞き上手」そうかどうかも面接では見ているポイントである。


 昭和50年代からゆとり教育がスタートし、ゆとり世代が親になり、早ければゆとり世代の子供が社会に出始めている。

 とにかくゆとり世代以降の成人が使えない。

 亜夢自身も、ゆとり世代ど真ん中であるが、甘やかされている部分もあるが、所々で人並み以上に苦労したり、祖父母が両親の穴を埋めていた面もあるから全体的に観れば世間とはずれており、自分の事は自分で出来るし、自分の意見も持っているので、ゆとり世代とは少しずれている。


 家の手伝いをした事のない者は自身が店長になって一年目以降雇わない事にした。

案外子供時代に家の手伝いをしたかどうかは、働いてみると見えてくる。

 子供時代に身に着ける勉強は、机上の物だけではないのだな…と亜夢はしみじみ思う。

 家の手伝いをさせられた人というのは、頭より体が先に動くような感じがする。

 職場に慣れるまではあまり個性は見えないが、手伝いをし慣れていないと出来ない着眼点があり、そこが会社員であろうが、アルバイトであろうが大きな差になる。

 『気が付く人』というのが、これにあたるだろう。

 勉強さえ出来ればいい、人より成績が良ければいい、そういう育て方をされると『気が付く人』にはなれず、『指示待ち人間』になりやすいかもしれない。


 「来週には余裕出来るといいな…」

 

 そう呟くと亜夢は眠りに落ちた。

 

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