第2話 しんでれらは月に一度シンデレラになる

「通販で届いたアレを着よう」


 職場から帰宅して3時間程眠ってから、シャワーではなく、その日の気分のアロマオイルとクエン酸と重曹で作った入浴剤を入れ、リンスインシャンプーではなくシャンプー・トリートメント・コンディショナーを使い、マッサージ効果のあるクレンジングゲルで丁寧にマッサージ後、泡立ちのホイップ感が心地よいとっておきの石鹸を丁寧に泡立てて顔を洗い、香りの良いボディソープを使い、スクラブ入りマッサージジェルでマッサージをし、一時間程かけてゆっくりと入浴してから、洗濯機はその後回す迄がいつの間にか休日のスタンダードになっていた。。


 買い物をする時間はないので、仕事の休憩時間にカタログをパラパラ捲って、目ぼしい物をネットで注文し、休日の午前中に時間指定して荷物を受け取る。

 

 普段の食事はゼリー飲料と、店長をしている店の賄いでしか摂る時間は無いし、下着は定期的に買い替えているが、高校卒業後からレストラン用の服以外は買っていないので洋服代はかからず、月に一度のレストラン用の服を買ってもさして浪費する暇もないから、高校を卒業して9年経ち今年27歳になった通帳の数字の増える勢いは衰えないし、買うのもデートに行くような「ちょっと」おしゃれなワンピース程度。


 貯金をしたいなら、浪費する間もない賄い付きのブラック企業に入ればいいと思う。


 化学調味料だらけの食事に辟易しているので、生きている喜びを感じる為にも、月に一度の隠れ家レストランでの食事の時間が必要不可欠。

 

 食材を買っても料理をする時間も無く、休日(24時間も無い)にコンビニに飲み物とオヤツを買いに行く位で、普段は読書の時間すらない。ネットさえしてる暇が無く、仕事場の休憩時間に(これも従業員の突然の休みとかで無い時もある)新聞を流し読みして、世間で何が起きているかを知る程度。


 オートロックマンションという名の軟禁室から直行で会社を往復する生活だが、セキュリティ面が安心出来るのと、街中なので交通の便がいいのが今の職場の利点か。


 家と仕事場の往復だと、生きている意味が曖昧になる中の、隠れ家レストランへひと月に一度行く事は、ぼやけた人生の輪郭の縁取りのようなもの。


メールが来た。


「あ、九十三さんからだ」


メールを読んで驚いた。

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