時に虚しくならないか
猿の退化系
筒
今日も朝早くから学校だ・・・。いやだなあ。毎日毎日同じような日常で飽き飽きする。入学式までは「小学校」という響きだけでどこかウキウキしていたのに、今となっては嫌いな言葉の一つになってしまった。いやだなあ。
クラスの人気者の安藤くんは今日も楽しそう。みんなといつもわいわいしている。休み時間は外に遊びに行ってドッジボールやサッカーで誰よりも活躍している。その上彼は成績も良い。なので先生からもすごく好かれている。すごいなあ。
そんな安藤くんだけど、なぜかいつもさえない豊くんと一緒にいるんだよね。どうしてだろう。
豊くんは休み時間中は本を読んでばかりで、誰かと話すときも絶対下を向いている。特に話が面白いわけじゃないし、頭も良くない。これといって面白みのない子だ。
それでもなぜか安藤くんは、家が同じ方向でもないのに豊くんと一緒に帰宅する。放課後も一緒に歩いていたり、たまに互いの家に遊びに行ったりもしているようだ。
安藤くんはいつも通り、授業でも活発に意見を発表して休み時間もみんなの輪の中心にいる。豊くんもいつも通り授業で当てられてもうまく答えられず、休み時間中はみんなの輪の外だ。安藤くん嫌にならないのかな。
さて、午前の授業が終わった。これから昼休み。みんな少し浮き足立っている。早く昼ごはんを済ませて、外に遊びに行きたいのだろう。この学校では昼食時の席は自由なのでみんな仲のいい人たちと食べる。数分経って今日の席がおおよそ決まり、給食委員の「いただきます」の掛け声で食べ始める。教室が騒がしくなる。僕はこの時間があまり好きじゃない。みんなどこか無理をしているような気がする。騒がしくしたいと心の底から思っているのではなく、騒がしくしなければならないという指令をどこか別の場所から受けて動いているように見える。あるいは、何かをごまかすために頑張って騒がしくしているような。そんな雰囲気だ。
安藤くんはやはりというべきか、なぜかというべきか、豊くんと二人で食べている。安藤くんが大きな声で昨日起こった些細なことや考えたことを面白おかしくしゃべり、それを聞いて豊くんが控えめに笑うというのを繰り返していた。クラスのみんなも思い思いにしゃべりつつ、安藤くんの話にも耳を傾け「安藤くんおかしー」「安藤やっぱおもしれえな」なんてことを話し合っている。やっぱり安藤くんはすごい。なのに豊くんときたら、一切安藤くんを楽しませる気がない。ひどいな。みんなも言ってやればいいのに。豊くんつまらないな・・・。
しばらくすると安藤くんが、
「そういえば、俺新しい水筒買ったんだぜ。」
と何の気なしに、豊くんに話した。すると、
「え。すごい。僕も昨日買ったんだよ。」
と豊くん。偶然もあるもんだ。
そして安藤くんはウキウキしながら新しく買った水筒をランドセルから出す。スポーツやってる人が使ってそうな、大きくてかっこいい水筒だった。やっぱり安藤くんはすごい。
豊くんも、
「安藤くんすごい!かっこいい。安藤くんに似合ってるよ!」
と絶賛する。当たり前だ。
そしたら安藤くんが、
「豊、お前の買ったやつも見せてくれよ。」
と言った。どうせダサいんだろうな。
「うん。そんなにかっこいいのじゃないけど・・・。」
そう言って豊くんがランドセルから取り出したのは、すごく小さくて、全くかっこよくない水筒だ。こんなのを選ぶセンスがわからない。失笑。
でも、安藤くんは優しいので思ってもないことを言う。
「お、すげえいいじゃん。なんていうかオシャレ?」
安藤くん優しいなあ。そんなこと言っても豊くん調子にのるだけなのに。
「ありがとう。」
と豊くんが言う。
すると、安藤くんが、
「もっとよく見せてみろよ。」
と、豊くんの水筒を手にとって見始めた。じっくりと側面を、底を、蓋を眺めて眺めて、穴が開くんじゃないかと思うほどに見つめた。
こんな安藤くんは見たことがなかったし、教室の空気が変わっていた。はっきり言って異常だ。
そして安藤くんは、蓋を開け、中を覗く。
「な、なんだよこれは!?」
なにやらひどく狼狽している。水筒の中になにがあったんだろう。
豊くんも驚いている。
「別に、お茶が入ってるだけだよ・・・?」
しかし安藤くんの目は水筒から離れない。水筒の中をまるで顕微鏡でも覗くみたいに見ている。
「お前はいつもそうだ。いっつも影で目立たない役に徹して、俺を馬鹿にしてるんだろ。実際、俺は全てがつまらないんだ。この世の中。休み時間も、勉強も、友達も。でもさ、本当に心の中で思っていることを隠さずにはやっていけないんだ。ところがお前はどうだ。いつもつまらなさそうに、物事の本質を見て、友達ができなくても何も思わず。自分が心の底から好きな本だけを読んで、俺なんかよりずっと中身のある生き方をしている。俺なんか見てくれがいいだけのつまらない人間なんだ。いつも周りを気にして、つまらないやつだってことがみんなにバレるのを恐れて面白いやつであるように振舞ってきた。その結果がこれだよ。お前の方が周りからの評価は低いけど、結局な。結局お前は、俺のことも見下していたんだろ。お前だけなんだよ、俺に見たくもない現実を突きつけてきたやつは。目障りだった。お前は俺の話を聞いてもみんなと同じように笑ってはいるけど、心の底からは面白がらない。俺と話している時も俺を見ているようでどこか遠くを見ている。俺はお前が嫌いだ。死んでくれ。頼むからもう死んでくれよ・・・」
僕はその場にばたりと倒れた・・・・。
「おい、安藤が倒れたぞ!誰か先生を呼んでくれ!」
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